Paris 連載

今週のPARIS

I COULD NEVER BE A DANCERの魔法の振り付け。
何もかもがスタイリッシュで、モダン&ポップ!

今週のPARIS

4月中旬、新しいポカリスエットのCMが始まった。部活に励む女子高校生約80人が、フレッシュでパワフルなダンスを屋上や教室で踊り、「君の夢は、僕の夢。想像以上の未来へ」とエールを送る。これを振付けたのはI COULD NEVER BE A DANCERという名でパリをベースに活動するデュオユニットで、構成するのはオリヴィエ・カザマユウとカリーヌ・シャレール。このCMの撮影は、パリで準備した振り付けを東京で出演者とリハーサルをし、そして地方などで4日間にわたり撮影されたという。踊っている約80名は、プロではないにしてもダンスの素養のある13~22歳の女性の中から、彼らが最終選考をした。なお、彼らの日本のCFの仕事はこれが初めてではない。昨年秋にコカコーラの「ハロウィン・キャンペーン2015」できゃりーぱみゅぱみゅにゾンビ・ダンスを振り付けたのも彼らである。

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4月に日本全国のテレビで放映がはじまったポカリスエットの「エール編」

今や世界の広告業界、音楽業界では、I COULD NEVER BE A DANCERの仕事を知らぬ者がいないほど。4月21日~25日に南仏で第31回イエール国際モード&写真フェスティバルが開催されたが、それに並行して、イエール市内でグザヴィエ・ヴェイヤン、パコ・ラバンヌ、ウィリアム・クラインなどジャンルさまざまな展覧会もスタートした。その中に「Just In Time」と題されたI COULD NEVER BE A DANCERの回顧展も! 5月22日まで開催が続く展覧会では、シャネルのネイルエナメルのキャンペーン映像「Shade Parade」(2011)、クロエの香水のCF「Blowing Roses」(2013)、ケンゾーの「Eye beams」(2013)など、彼らの代表作の映像を見ることができる。現在、ディレクション、振り付け、ダンスパフォーマンスなどと幅広く活躍する彼ら。"ダンサーになるのは自分には到底無理なんだ"といった意味の長いユニット名の裏にいるのは、どんなふたりなのだろうか......名前から察せられるように、オリヴィエもカリーヌも、それぞれ一時期ダンサーを目指したことがある。

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左:南仏イエールにて開催された第31回国際モード&写真フェスティバルにて、カリーヌ・シャレール(左)とオリヴィエ・カザマユウ。
右:I COULD NEVER BE A DANCERがこれまで手がけた仕事の中から、代表的作品がビデオで見られる「Just in time」展の会場。
photos : LOTHAIRE HUCKI © VILLA NOAILLES, 2016


カリーヌ「私は4歳からダンスを始めたの。コンセルヴァトワールでクラシック・バレエを学び、なんだかんだで20年近くクラシック・バレエに関わってました。その間、コンテンポラリー・ダンスというかコンセプチュアルな作品も踊るようになって、ビデオ・アーティストたちと一緒に仕事をしたり......。ブランカ・リーやジェローム・ベルなどのコレオグラファーとも仕事をしました。単に舞台にたって踊るということより、割と早い時期に振り付けには気を引かれていましたね」

オリヴィエ「僕の場合は、すごく特殊なんですね。古典文学やラテン語、ギリシャ語などを学びながら、踊っていたんです。ダンスのレッスンは18歳まで受けたことがなくって、それまではマイケル・ジャクソンやマドンナのクリップをみて自分の家で踊ってただけ。でも、それなりに自分なりの身体言語を作りあげていっていたので、ある時コンクール(注:1996年にベルギーでアラン・ブラテルがオーガナイズ)に参加してみたんです。それでベスト・ダンス・ソロ賞を受賞。このコンクールは業界の大勢が見に来ていて、そこから出会いがいろいろ生まれました。その後で僕が初めて創作した作品を踊ることになったのが、カリーヌだったんです」

カリーヌ「私、彼に貸し出されたのね(笑)。そして彼は、そのレンタル品に満足したみたいなのよ!」

オリヴィエ「そう、ふたりの関係はすぐに進展していって......」

カリーヌ「ダンサーとコレオグラファーというところに留まらず、早い時期から一緒にひとつのプロジェクトに関わるようになりました」

オリヴィエ「舞台演出や照明などに、ふたりの興味は向いていったんですね。つまり、プロジェクトにグローバルに関わることにです。1999年からI COULD NEVER BE A DANCERという名前で、仕事をするようになりました」


最初の頃は手探り状態。でもそれは一種の種まきの時期だったともいえる。というのも、その頃生まれたアイデアが徐々に育って、時代の空気とあいまって10年後に具体的に何かのプロジェクトで実現......というように、彼らは自分たちの道を切り開いていったのだ。2002年にカルティエ財団がギャスパー・ユルケヴィッチと彼らを結びつけてショーを開催したことがきっかけで、モード界とのコラボレーションに目覚めることになる。3年続いたギャスパー・ユルケヴィッチの仕事では、アートディレクション、照明、サウンドデザイン、モデルコーチング、振り付け、キャスティングを担当した。このときに、自分たちがやっていきたいことについて願望が生まれ、そして幸いにもエルメス、カルティエといったビッグメゾンからの仕事が早い時期に彼らに舞い込んできた。

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「Just in time」展より。
左:SHADE PARADE, CHANEL, RÉALISÉ PAR PATRICK DAUGHTERS(2011)。指の振り付けを担当。
右:BLOWING ROSES, CHLOÉ(2013)。キャスティング、振り付け及びディレクションを担当。

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「Just in time」展より。
左:LOTHAIRE HUCKI © VILLA NOAILLES, 2016
右:EYE BEAMS, KENZO(2013)。キャスティング、振り付けのみならず、オリヴィエ・パルテルと共に監督を務めた。

彼らの仕事の核は振り付けである。それだけのこともあれば、ディレクターを兼ねていることもあり、各プロジェクトへの関わりかたはさまざま。共通して言えるのは、ブランドの世界にふさわしいイメージをダンスを通じて、つくりあげていることだ。モダニティを求められない仕事や彼らの興味をひくアングルがない仕事は断ることもあるし、逆にビデオクリップなどはアーティストが彼らの好みだったり、彼らのアイデアを生かせるチャンスだったりする場合、低予算でも引き受けるという。彼らのサイトには過去の仕事が満載されていて、プロジェクトごとに彼らが何を担当したのが明快なので、それもあわせてチェックしてみるのがいいだろう(http://icouldneverbeadancer.com)。中にはコーチング担当とクレジットされている映像がある。さて、コーチングとは何なんだろう。

オリヴィエ「これは一種のトレーニングみたいなもの。喩え、感覚、エネルギーなど動作に必要となるイメージを出演するモデルに与える仕事といえばわかりやすいでしょうか。撮影のときは、カメラマンの脇にいて、モデルに動きを見せます。最初にモデルがどの程度の動きができるか、どこまで引き出せるかをみて、それに応じた動きを考えます」

カリーヌ「まだ名前は出せないのだけど、ある有名なアメリカのスターのコーチングを最近しました。面白かったですよ。彼のそれまでの経歴を文にして、それを読んでもらって......彼がそこから受ける感覚を体を経由して発することができるようにしました。言葉を動きに結びつけるやり方です。出演者によっては、発声のコーチもしますよ。とてもマルチな仕事ですね」

オリヴィエ「僕たちの仕事はマイム、振り付けに止まらない。ブランドのCFのモデルや歌手の MVに、動きの鍵を見つけることも大きい仕事ですね。何を介することで彼らが動けるようになるか......」

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「Just in time」展より。
左:YEAH YEAH, WILLY MOON, RÉALISÉ PAR ALEX COURTÈS(2012)キャスティング、振り付けを担当。PHOTO: LOTHAIRE HUCKI © VILLA NOAILLES, 2016
右:巨大なカレイドスコープの中で12名が踊るTHE POWER OF X, TED x SUMMIT 2012 in DOHA, RÉALISÉ PAR KÖRNERUNION(2012)。

ディレクションも担当することが最近は多くなった彼らは、頭脳作業に時間を多く割くようになっている。ひとつひとつのプロジェクトのプランを練り、それを理論化し、そして最後の2〜3日にダンサーとともに振り付けの創作をする。昼も夜も仕事にあけくれる日々のふたりにとって、インスピレーション源となるのはあらゆる種類のビジュアルだそうだ。彼らを刺激するのは、ダンスよりコンテンポラリーアートやアートビデオ。映画ならダンスをフィーチャーしたミュージカル映画ではなく、前衛的なタイプ......。こういったインスピレーション源から、ポップでコンセプチュアルな世界をクリエートしているというのが面白い。

コマーシャルフィルムにしても、ビデオクリップにしても、かなり短時間の中にひとつの完結した作品を作り上げる作業を続けている。だから、自分たちの時間の観念は特殊なものに違いないと、カリーヌは言う。そもそも2002年にギャスパー・ユルケヴィッチのショーの仕事をしたとき、その短い時間のショーを観客が精神を集中し、かつ好奇心いっぱいで見ることを知って、すごく興奮した彼らなのだが......。今はこれ、次はこちら、というように変化を好みながら続けているふたりの仕事内容を枠にはめることは難しい。そして、既存の枠にはめられるつもりなど毛頭ない彼ら。次にはどうやら長編作品にチャレンジする様子だ。ちなみに、フランスでの最新作はラコステのCFである(http://icouldneverbeadancer.com/selected/lacoste/)。I COULD NEVER BE A DANCERの活躍から当分目が離せそうもない。


※日本での問い合わせ先はIUGO(www.go-iugo.com)が窓口。

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