MUSIC DIARY 24/7

ヘイリー・スタインフェルドと映画『スウィート17モンスター』

男性はいくつになっても、少年の心を持ち続けている自分のことを嬉しそうに語るように思えるけれど、女性の場合はどうなんでしょう。少女の心については人それぞれとは思いつつ、この映画『スウィート17モンスター』を観て、苦笑しながらも思春期の自分が愛おしくなる人はいるのでは? 原題は『The Edge of Seventeen』、まさに言い得て妙なタイトルです。

 

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ヘイリー・スタインフェルド、最高です!楽しめます!

 

主演はヘイリー・スタンフェルド。映画『トゥルー・グリット』(2010年)での演技で、わずか14歳でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるなど脚光を浴び、『はじまりのうた』(13年)ではギターを披露、映画『ピッチ・パーフェクト2』(15年)では歌唱力を発揮したのを機にシンガーとしてソロ・デビューも果たし、現在は子供の頃からの夢だったシンガーとしても世界的に活躍中です。

 

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『FIGAROjapon』2017年1月号の記事 Photo:VIOLA KAM(V'Z TWINKLE)

 

『FIGAROjapon』2017年1月号にインタビュー記事を掲載したように、昨年10月に対面した時は19歳だった彼女。この先どのような役を演じていくのか興味津々ですが、大人の女性の役を演じる前に『スウィート17モンスター』に出演したのは大正解でした。(この映画は2016年9月にはカナダのトロント映画祭で、11月には北米で公開されていたので、取材した時にはクランクアップ済み)

 

映画『スウィート17モンスター』予告編

 

ヘイリーが演じるネイディーンは、コミュニケーション能力は不足気味、恋愛といえば妄想ばかり、優秀な兄にコンプレックスを抱き、心を開けるのは親友のクリスタのみ、学校での唯一の理解者はちょっと偏屈な歴史の教師くらいという、みんなと打ち解けづらい女の子。実際ヘイリーにも「性格のいい兄」がいて、「私は子供の頃はシャイで、今も最初は人見知りだけど、打ち解けるとドワ〜っと喋り続ける子なの(笑)」と話していました。

 

また、ヘイリーは自分の歌「ヘル・ノーズ・アンド・ヘッドフォンズ」で、「パーティ会場で会ったことのないような人たちに自己紹介する羽目になり、そこで居心地が悪くなって泣きたくなるし、頭にも来た」という実体験を歌っています。「この時のことは“悲しくて恥ずかしいし、一生思い出したくない”、と思っていたほど。でもこれを曲にしてステージ上で歌うと、多くの人が共感してくれる。つまり同じような経験をしている人たちが自分以外にもいるということがわかって、曲を通して多くの人と繋がることができたのが、この経験を経た私への一番のご褒美だと思っているの」。こういうエピソードを思い出してみると、ネイディーンの役にも共感する部分が結構あったのかな、と感じます。

 
 

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(写真中央)兄ダリアン役のブレイク・ジェナーは海外ドラマ『glee/グリー』から人気に。

 

話は逸れますが、ヘイリーは、テイラー・スウィフトがケイティー・ペリーのことを歌っているとされるミュージック・ヴィデオ「バッド・ブラッド」に出演したものの、取材した頃はヘイリーが“テイラー軍団”のメンバーとされることから距離を置きたがっているといったニュースで騒がれていました。そのためテイラーに関する質問はNGとされたものの、話を聞いてみるといわゆる仲間とつるむことを好むタイプではなく、セレブ感も全く出さず、サバサバした口調で意外なほどフレドリーでした。

 

恋愛に関しては「私はロー・メンテナンスで(笑)、高嶺の花ではなく、普通に付き合いやすいと思うわ。“君のために何でもやるよ”とか相手に気遣わせることはないし、お花をプレゼントされたらもちろん嬉しいけど、別にそれをしてくれなきゃ嫌だということはないの。私の理想は普通に付き合える人だから」と話し、ファッションのこだわりも「新しいものにチャレンジするのが好きだけど、一方で心地よい服が好き。出かけるときはドレスアップするけど、家にいるときはとてもカジュアル&コンフォータブルなの」と話すほど。

 

ヘイリーの大ヒット曲の1つ「Love Myself」

TVCMに出演していた従姉から影響を受けて、8歳の時に自ら演技の道を選んだヘイリーはネイディーンとはタイプは違うものの、ピュアでひたむきな部分には彼女を見てしまいがちだし、逆にいえば、そんなヘイリーが演じるからこそ、ネイディーンがより魅力的に見えてしまうのかもしれません。曲作りに関して、「音楽はいろんなものを聴いて耳から入って吸収している。でも自分の音楽を作る時はその吸収して自分の中から蓄積されたものの中から、本能的にオリジナルというものが自分の中から湧き出てくるのが理想的だと思う」と話していて、今回の演技にもそういう部分もあったのではと思ってみたり。

 

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(写真右)ヘイゼン・ゼトー演じるアーウィンも最後まで目が離せない重要な役

 

「この時代って、宙を浮いて更新しているようなものが多く、形になって残るものが少なくなってきているでしょ」と、旅先には必ず家族や友達からもらった手書きの手紙やポラロイドを箱に入れて、すごく大切にして持ち歩いているというヘイリー。私はすっかりファンになったので、映画にしても歌にしても次の作品が楽しみです。

 

脚本と監督はケリー・フレモン・クレイグが手掛け、女性ならではの視点で細部にわたってテンポよく展開されるし、個性豊かな登場人物がみな魅力的に描かれているのも好感。音楽もThe 1975やアンダーソン・パークなど人気アーティストたちに加え、エイミー・マンの懐かしい楽曲「セイヴ・ミー」なども流れてくるのでホロリとしてしまいます。『ゴーストワールド』(2001年)や『JUNO/ジュノ』(07年、日本公開08年)が好きだった方には必見の映画です。何気なく観ても、心にさまざまなことが蘇ってくる素敵な映画です。


 
 
『The Edge of Seventeen (Original Motion Picture Soundtrack)』→コチラ
 
 
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『スウィート17モンスター』
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国上映中
© MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved. 
4月22日(土)全国公開
PG12
 
 
 

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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