パリ、恋のエトセトラ

フランス人男性が使う"イラっとくるフレーズ"への対策。

初めてフランス人男性とデートなどをし始めた日本人女性から、「私、あれがすごく嫌いなんだけど……」と結構な割合で打ち明けられるフレーズがあります。
「Si tu veux」と「Comme tu veux」。フランス人男性とのデートをスムーズに進めるには、日本人女性が蛇蝎のごとく嫌うこの2フレーズを早々に克服することが必要です! ちょっと大げさに言いました!

これはとくにデート相手だけではなく、フランス人全般があらゆる会話に多用するフレーズです。直訳すると、

「Si tu veux」は「もし君が望むなら」
「Comme tu veux」は「君の望むように」

となるわけですが、もちろん直訳するのは筋がよくありません。正しい雰囲気をつかむには、

「Si tu veux」=「もしよかったら」
「Comme tu veux」=「君の好きなようにね」

というふうに日本語変換したほうがよいですね。直訳よりだいぶやわらかくなりますね。

さて、この2フレーズは本当にありとあらゆる場面で出てくるので、苦手意識を持っているならフランス生活はなかなかストレスフルなものになるでしょう。多くは「何かに誘われたとき」に使われるものです。映画に誘われて、夕食に誘われて、旅行に誘われて、それよりももっと日常の「ガムいる?」「コーヒー飲む?」「このパン食べてみる?」にまで、「何かに誘われて、選択をしなければいけない」場面で放たれます。

A:「今日これから映画見にいくけど一緒にくる? Si tu veux」
B:「えっと……どうしようかな」
A:「Comme tu veux」

という感じですね。「Comme tu veux」は断った場合にも使われます。

A:「今日これから映画見にいくけど一緒にくる? Si tu veux」
B:「残念だけど今日は約束があるからいけない。すごくいきたいけど」
A:「Comme tu veux」

これらはホームステイ先のホストマザーやクラスでとなりの席になった女の子、よく行くマルシェのおっちゃんに言われるのはとくに構わないはず。しかしことデートであったり交際となると、少なくない日本人女性がこの2フレーズを言われるたびに「イラっとくる」のです。ときには「傷つく」という人さえいます。上記会話がもしクラスで隣の席の女の子ではなく、デートの誘いであったらたしかにちょっとイラっとくると思いませんか?

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私も例にもれず、「Si tu veux」と「Comme tu veux」を多用されるとイラっときてしまうクチでした。それである日、この件について議論していた日仏カップルに意見を求められ、「たぶんどちらも語尾に()がつくような気がするからだ」と答えました。つまり

「映画行かない? Si tu veux(もし君が行きたいっていうんならね)」
「あっそう、行かないの? Comme tu veux(別にどっちでもいいけどね)」

というように聞こえるからイラっとくるんだ! と力説したところ、彼女のほうはうんうんとうなずいていましたが、彼氏のほうは「えっちがうよ、全然そんな意味じゃないよ!」と大変にびっくりした様子でした。その彼は大変に優しい人で、出会ってからずっと彼女に夢中なので本当に「そんな意味ではない」ことは明確でした。この溝は何とか埋めなければいけない。そのとき私は無意味な使命感に燃えました。

この「Si tu veux」「Comme tu veux」に代わるフレーズは英語圏でも多用されます。実際英語圏に留学している人が、「向こうが誘ってるのに『デートする? 君がしたいなら』とか『僕とデートしたい?』とか聞かれて腹が立った」といっているのも何度か聞いたことがあります。この問題は西洋に滞在する日本人女性と現地の男性のあいだ全般に起こる問題のようです。

私が思うに、日本人女性がこのフレーズに「イラっとくる」のは、シンプルに日本人男性がこのような言い回しでデートに誘うことがないからです。日本人男性は多くの場合、欧米の男性よりも女性に対して「責任」を抱えようとします。デートに誘うときには「自分が一緒に行きたいからきてくれ」というような姿勢をとる。断ったら「残念だ。また誘ってもいい?」というような言葉もかけてくれます。だからこの「Si tu veux」「Comme tu veux」を多用するフランス人男性が「相手に責任を押し付けている」ように日本人女性にとって感じられるのではないでしょうか。私はこういう場面での日本人男性ってとても優しいと思います。

一方、このフランス人男性の姿勢は「相手の意思を尊重している」ともとらえられます。フランス人女性は何より自分の意思を示すことに慣れており、それを尊重しなければフランス男としては命にかかわります(ホントに)。軽く誘われ軽く断り、これを繰り返して縁のあるものがくっつく。両者が同様にタフでなければ成り立たない恋愛模様です。もし「Si tu veux」「Comme tu veux」を使用されてイラっとくる人がいたら、そのときは心のなかで「もし君がそうしたいと思ってくれるなら」「(僕はそうしたいけど)君の希望を尊重するよ」というような都合のよい翻訳をすると心の平安が保たれるかもしれません。

シロ

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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