新世代ミュージシャンに注目! #03 SNSで世界が認知、英国へ拠点を移したThe fin.

Culture 2016.10.07

The fin.は、自分達の音楽には英語の歌詞の方が似合うからと、全曲を英語で歌う。初期の頃は自ら撮影したミュージックビデオを公開するなどのオリジナリティを貫き通し、そして今ではイギリスの人気プロデューサーからオファーされるほど世界から注目を浴びている。

1番ピュアなところを自分で守ってきた結果、海外にも届いたのかな

The fin.にインタビューするのは1年4カ月ぶり。ヴォーカルとソングライティングを担当するYuto Uchinoの家でレコーディングしている楽曲は、心地よい室内の佇まいを感じさせる、ゆったりとしたテンポにドリーミーな音使いが特徴だ。去年はアメリカ最大の音楽見本市と呼ばれるSXSWに出演したのを機に、アメリカ9ヶ所10公演、夏にはアジアツアー、11月にはロンドン3公演を行い、今年5月に再度イギリス9ヶ所を回ったほか、アジアや日本国内のツアーと忙しく活動。そして確かな手ごたえを感じた彼らは、この9月から活動の拠点をロンドンへと移した。

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(左から)Takayasu Taguchi(Ba) 、Yuto Uchino(Vo,Syn)、Ryosuke Odagaki(Gt)、Kaoru Nakazawa(Dr)

「海外での反応はすごく良いですね。去年のアメリカが初めての海外ツアーだったんですけど、その時から海外でやっていけると思えた手ごたえがすごく強かったんです。アジアは今年で2周目で、ワンマンをやってソールドアウトになった。イギリスでもThe Great Escapeという音楽関係者向けの有名なサーキット型フェスに出演できた。なので、今まで外に対してアプローチしてきたことが一つ一つ段階を踏んで着実に自分たちのものになっていっているのを実感できた一年やったかな」(Yuto)

ミュージックビデオをアップした当初からSNSを通して世界各国から注目度の高かったThe fin.だが、特にアジアでは人気が高く、タイでは800人ほど入る会場がソールドアウトになった。ステージで最初に音を出した瞬間に湧き上がった歓声が物凄く、自分たちの演奏が聴こえなかったり、観客みんなが曲を一緒に歌ってくれる姿を目の当たりにしたりして、メンバー全員鳥肌が立ったという。なかでも嬉しかったのはイギリスでの反響。「1曲1曲演奏していくうちに、今までThe fin.のことを知らなかった人をこっち側に引き寄せていける感覚がすごく面白くて、知らない人に聴いてもらえる機会というのが、自分の中で結構大事だったんだなっていうことに改めて気付かされた」とYutoは話す。メンバーが元々イギリスの音楽シーンが好きだったということに加え、こうした現地での評判の高さも相まって、今回拠点を移すきっかけとなった。

「Night Time」人気を決定づけた1stフルアルバム『Days With Uncertainty』からの曲。

「まず日本と比べて、商業的に音楽にかかっている金額が違う。イギリスの人口は日本に比べたら少ないけど、音楽を愛する比率はきっと凄く多くて、そのカルチャーの積み重ねだから、音楽というものが成熟していると思う。そういう点でイギリスは音楽のレベルが凄く高いなって、小さい頃から感じていた」(Yuto)

The fin.はその音楽に対する関心の高い環境の中で、自分たちがジャパニーズカルチャーとして括られるのではなく、ヨーロッパやアメリカのバンドと一緒にアルファベット順に並んで紹介されるのが嬉しいと話す。またインターネットマガジンの「The Line of Best Fit」では、“The Great Escapeの見るべき世界各国の32組の新人ミュージシャン”にも選出され、その当日のステージの事を「自分自身が楽しめたことはもちろんですけど、何よりも会場の中にThe fin.の世界を作れたなって思えるライブができて、それに終演後もすごく評判が良かったんですよ。自分の中で1つそれが自信になった」とYutoは振り返る。

「Without Excuse」1stフルアルバム『Days With Uncertainty』からの曲。

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周囲を無視することでオリジナリティを貫き通せた

このバンドを組んでから、Yutoは曲作りのスタイルにしても独学で始めたレコーディングにしてもブレずにやってきた。デビュー時からその音楽は変わっていない。メジャーのフィールドに進むこともなく地道にやってきた中で、最新EP『Through The Deep』は日本と台湾、タイ、イギリスで販売され、ツアーも成功している理由を彼なりに考えてみたという。

「“その音楽は変わってない”って、結構大事なんじゃないかと思って。誤解を恐れずに言うと、俺より上手く曲を作る人や上手く歌を歌う人っていっぱいいると思うんですよね。そこを一時自分は上手くなろうとしてた時期があったんですけど、本当に大事なのはそこじゃないんやろうなって思った。そこよりも、“自分ができること、自分の出したいものっていうのを単純に音楽にしていくところに、どれだけピュアになれるか”というのを、自分の中の1つのテーマになったのが去年ぐらいで、それを守っていくことが良いのかなと思うんです」(Yuto)

 もちろん進化している部分は多い。

「すごく簡単に言うと、どういう風に音楽を作るかということより、どういう風に音楽ができているかとか、自分がそれで何を表現するかの方に自分の考え方が寄ってきた。レイヤーや音数がどうとかっていうのは全部結果なんです。自分が何を出したかったかということに対する結果がそうであっただけで、その結果に俺は向かって行ってたわけじゃない。方法が目的になっちゃいけないと思う」(Yuto)

「Faded Light」 自分たちでロンドンへ旅行に行き、その時に撮った映像で作ったMV。

前回のインタビュー時に話していたが、Yutoは大学生の時に美術館に通っている中で、ある日突然、絵を理解できるようになり、そこから音の聴こえ方も変わり、絵を見てもそこから音が拾えるようになったという。「自分と何かをアウトプットするということが身近になった瞬間で、そこから自分の中で何かを作ることが自然なことになった」と話していた。その瞬間が今もクリエイティビティの基盤になっているという。

「自分が他と1番違うなと思っていたのは、考え方と発想。芸術って何をやるかが大事だったりするじゃないですか。そこの最初の発想というのを、俺は周りを無視してできたというか。結構そのスタンスなんですよね、無視のスタイル(笑)。俺らが出てから、バンドがいっぱい出てきたんですよね。そしてその頃から常に言われてたんですよ。“The fin.が出てきて誰々が出てきた”とか“これは新時代だ”みたいなことを。また誰々が出てきて“(そこには)The fin.もいるよ”みたいな。常にThe fin.はどこかにいるけど(他のバンドは)全部変わっていくんですよ。みんな若いし、若さっていうのは脆さやから、みんな流されて周囲から振り回されて音楽もバンドも変わっちゃったりする中で、俺らはある程度そういう流れを無視して自分たちの世界を大事にしながら淡々とやって来れたので、それが今こういう風に繋がっているのかなって感じる」(Yuto)

日本全国をツアーしたり、対バンなどでお互いのファンを増やしていくということに重きを置くのではなく、それよりも丁寧に曲を作って、しかるべき時にちゃんとしたライヴをやればいいというスタンス。4人は幼稚園と小学校が一緒という幼馴染で、神戸でも宝塚の山の上の方といった自然に囲まれた環境で育ったという。「世間とは切り離されたみたいなところ」(Yuto)に住んでいたのが、今のスタンスに繋がっているのかもしれない。

「The Circle On The Snows」同じく海外で自分たちで撮影した映像で作成したMV。

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バンドは森なので、木を見て森を見ないようなことはしたくない。

クリエイティブな面はすべてYutoに任せているというが、実際それをステージ上で形にするためには他の3人の存在も必要不可欠。彼らにも話を聞いた。

「The fin.は当初からリズム隊の課題は大きくて、そこをもっと強化していこうっていうのがあったけれど、海外ツアーを回る中で今までの成果というか、目指してたグルーヴというのを自分なりには表現できて、しかもそれをライブ中に体感できたところは大きいですね。とは言えまだまだこれからも課題はいっぱいあるし、音が鳴ってない、空いている時のグルーヴはとても重要なので、そこは変わらず意識してますね」(Taguchi)

「これまでいろいろライブをしてきて、時期ごとに意識するところがちょっとずつ変わっていますね。BPMとか正確にちゃんとやらなきゃって思って、そこから次はベースとがっつり合わせようという時期があって、自分1人だけで全部を引っ張っていけるぐらいビートを出そうと思った時期があったり、今は何となく合わせてみようみたいな事だったり(笑)」(Nakazawa)

「僕個人的には演奏のことでいうと、Nakazawaが言ったように一時期すごく小さく見ていた時があって。つまりそれって“木”を見て“森”を見れてないっていうか。バンドって森じゃないですか? 僕はそう思ってるんですけど、ただそれは決して演奏に限ったことだけではなく、バンドの全てにおいて、“自分が、自分が”ってなってしまうと視野が狭くなっていく一方なので、とにかく今は全体を大きく見ようと意識しています」(Ryosuke)

「Till Dawn」1st フルアルバム『Days With Uncertainty』からの曲。

自分のリズムと他人のリズムがぶつかる瞬間を楽しみたい

インタビューの終盤に、「自分は日本にいるよりも海外の方が合っている気がする」というYutoが、こんな話をしてくれた。

「“自分にリズムがある”っていうことに、最近ハマってて。海外に行って強く思ったんですけど、向こうの人たちって自分の人生を自分のリズム感で生きてるんですよ。すごい衝撃的やったんが、ロンドンでオーストラリアの友人に誘われて飲みに行った時の話。俺らの横でずっとバラを持ちながら話してる超キザな奴がいて、そいつのことを噂してたら、“お前は花にセクシュアリティを感じるか? 俺はバラに性的興奮を覚える”といったことをずっと語ってきて。それを見た時に“こいつのリズム感”って凄いなと思った。“全然人と合ってなくてポリリズムみたいな感じやん(笑)”。俺らは4分の4拍子なのに、向こうは4分の3拍子で来て、でもお互いどこかでぶつかる瞬間があって。何かが生まれる瞬間ってこういう事なんかなって思ったりして。最終的にはそいつが“バラも酔っ払うから”ってバラをビールにつけだしたから、“すげえ面白い!”ってなって、みんなで酔っ払いながらバラを咥えて遊びだして、結局すごい意気投合したという(笑)」(Yuto)

「Through The Deep」最新2nd EP 『Through The Deep』から。

ロンドンへは、いつものように自宅でレコーディングした音源を持参して飛んだという。次のアルバムでは海外レーベルと足並みを揃えてリリースし、アメリカやイギリスでより大規模なツアーを開催できるよう目指していく。彼らのリズムに世界中のそれが合わさっていく瞬間を楽しみにしていたい。

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プロフィール

写真左から、Takayasu Taguchi(Ba)、Kaoru Nakazawa(Dr)、Yuto Uchino(Vo,Syn)、Ryosuke Odagaki(Gt)。兵庫県神戸で結成。80年代のシンセポップからシューゲイザー、チルウェーヴなどを昇華し、ゆったりとしたグルーヴの中に音風景を構築。曲作りに加え、レコーディングからミックスまでをYutoが手がける。2014年12月1stフルアルバム『Days With Uncertainty』をリリースし、2015年に起きた国内インディ・シーンの興隆に拍車をかける存在となった。
www.thefin.jp

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最新EP『Through The Deep』

今後のライブ予定

11/9 イギリス ロンドン The Shacklewell Arms

photos : KO-TA SHOJI, texte : NATSUMI ITOH

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