映画「ブルーに生まれついて」から考察する 辛酸なめ子の、才能あるダメ男はやっぱり魅力的!論。
Culture 2016.11.25
モテるバンドマンは、ボーカル兼ギターだったりするけれど、チェット・ベイカーはボーカル兼トランペット。トランペットにあまりモテのイメージはなかったのですが、この映画でイーサン・ホークが熱演する主人公の姿を見て、その人たらしぶりに、これは女性はよろめいてしまうかも、と実感しました。
イーサン・ホークは役作りのために6カ月におよぶトランペットの集中トレーニングを受けた。
劇中、名曲「マイ・ファニー・バレンタイン」を歌う姿は、チェット・ベイカーが乗り移ったかのように甘い声、必見!。
一度ハマると抜けられない、蟻地獄のようなダメ男の魅力。浮気相手の女とイチャつき、さらにヘロインまで注入するチェット・ベイカー。ジャンキー道まっしぐらの中、闇フェロモンがにじみ出てきたからか、スターとして主演映画も決まりました。チェットはさっそく相手役の女優ジェーンを口説きます。ボーリングデート中、「本当にジャンキー?」と訪ねるジェーンに「麻薬は楽しいよ」と率直に答えるチェット。この開き直り方、潔いくらいです。しかし知的なジェーンとチェットはどう見ても波動が合いません。哲学書について語るジェーンの横で、チェットはいきなりごろつきに殴られボコボコにされてしまいます。ドラッグ代金の踏み倒しという、底辺すぎる理由で……。顔の骨や前歯が折れて、トランペットが拭けない体になってしまったチェット。前歯が砕かれなくなった姿が、ダメオーラを増幅させます。半端なダメ男ではなく、徹底的にダメすぎると、女性は放っておけなくなる法則が。仕事の支援者も立ち去る中、ジェーンは親身に看病します。もしかしたらチェットは出会った瞬間から、面倒見のよい女性と見抜いていたのかもしれません。野良猫がエサをくれる人を見分けるように……。
仲睦まじいふたりの関係も、、、やはりダメ男によって終焉を迎えてしまうのか……。
>>次のページでは、男を狂わせた負のスパイラルについて……
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立ち直ろうと奮闘する彼に、どうしても付きまとう甘い誘惑。
ダメ人間でも天賦の才能はあるチェットは、義歯を入れてリハビリに励みます。でも全盛期に比べて全然吹けない下手な演奏が、また哀れで母性本能を刺激。「もう少し練習したら来てくれ」とピザ屋に追い帰されたりします。そしてジェーンに依存しまくり、彼女の女優の夢を邪魔したり、大きな子どものよう。純粋だからこそ人々の胸を打つメロディーか奏でられるのでしょう。チェットは時々ヘロインに手を出しそうになるところを、メタドンという別の薬物でまぎらわしたり、見ていて危なっかしいです。あとは、最近、出演前の楽屋のシーンを映し出す映画が流行っていますが(「バードマン」「スティーブ・ジョブズ 」など)、今回も、出演直前の楽屋のハラハラ感が。下手なアクション映画よりもスリリングです。
結局、チェットの人生を狂わせたのは最初に麻薬を教えた女でした。でもそのチェットはまた別の女の人生を狂わせて……と因果応報の輪廻が恐ろしいです。スクリーンごしに観ている分には、その負のスパイラルに巻き込まれないので安心です。
●監督・脚本/ロバート・バドロー ●2015年アメリカ、カナダ、イギリス ●
●97分 ●配給/ポニーキャニオン ●
●11月26日よりBunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿他にて全国公開。
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文・辛酸なめ子