フィガロが選ぶ、今月のアート 鏡の中から捉えた、鈴木理策初のポートレート写真展。

Culture 2016.12.08

『Mirror Portrait』

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撮る・撮られるという関係から解放された被写体は鏡の中に自分のお気に入りの表情を探し、シャッターチャンスは姿の見えない写真家の視線に委ねられている。これはセルフポートレートであり、ドキュメント写真でもある異色の肖像写真だ。左奥:『MP16,S-21』2016年。左:『MP16,T-23』2016年。

 霊山として知られる熊野の地を故郷にもつ鈴木理策の写真は、これまで「写真が映し出すもの」と「目に映らないもの」とのあわいにある領域の存在を常に言葉少なに示してきた。ライフワークである聖地・熊野。セザンヌが描いたサント・ヴィクトワール山。視界を覆い尽くす雪や桜。火の粉舞い散る夜祭。空気の質感までがおのずと変容する風景を通して、彼は「見る」という不安定で危うい経験の本質に近づこうとする。
 本展では初めての試みであるポートレートを発表するが、それも普通ではない。映画の尋問シーンなどでよく見るハーフミラー(半透鏡)を隔てて、撮影者と被写体の視線が交差しないまま撮影は行われた。「肖像写真とは撮られることを知っている人物の写真だ」という巨匠リチャード・アヴェドンの言葉に着想を得たという。これほど“自撮り”が定着してもなお、人は他者に向けられたカメラの前では緊張するものだ。撮影者はより自由で、場を支配する特権をもつ。写真家たちはポートレートを撮る時、被写体を勝手な物語の中に置くこともできるし、アレンジ自在なオブジェと捉えることもできる。ところがミラー越しのセッションでは、被写体は自分の姿を吟味し、表情をキメて臨む。写真家は鏡の中から彼女たちの“自撮り”を記録する。鈴木理策は、目の前に現れる唯一無二の風景と向き合ういつもの撮影のように、自身の姿も視線も消し、ただカメラの知覚を信じてシャッターを切るのである。

『Mirror Portrait』
会期:開催中〜12/24
タカ・イシイギャラリー(東京・六本木)
11時〜19時
休)日、月、祝
入場無料

●問い合わせ先:
tel:03-6434-7010
www.takaishiigallery.com

*「フィガロジャポン」2017年1月号より抜粋

 

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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