エリザベス・ペイトンが描く、肖像画の魅力とは。

Culture 2017.02.14

『エリザベス ペイトン:Still life 静/生』

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『Georgia O'Keeffe after Stieglitz 1918』 2006年(Collection David Teiger Trust )。巨匠スティーグリッツのカメラが捉えたオキーフの強い目や表情の描写には、女性画家の先輩へのリスペクトの気持ちが表れている。

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『Tim( Profile )』2013年(Private Collection)。控えめなサイズのペーパーに大胆な構図でクローズアップされた人物像は、色彩やタッチでさまざまな情感や緊張感を与えている。

 少しでも絵心のある人ならば、思春期に憧れのロックスターや映画俳優のポートレートを模写したことはないだろうか。アルバムジャケットや雑誌のキメ顔を描いたその絵はもちろん美術教師には受けが悪いが、自慢の宝物だったはずだ。
 そんなファン目線で描いた肖像画で90年代、ニューヨークのアートシーンに躍り出たのがエリザベス・ペイトンだった。ミュージシャンや芸術家など現代のカルチャーアイコン、名画やオペラの登場人物や歴史上の人物、そして彼女の親しい友人や恋人の写真をもとに、その外面と内面の美をきらめく色彩の小さな肖像画に封じ込めてきた。画風自体は特に目新しさはない伝統的なスタイルだ。ただ純粋に愛着や憧憬を感じる対象を丁寧に選んで、彼らの魅力を上品にすくい取るその筆致には、同じ時代を生きているオーディエンスの共感を呼ぶ強いリアリティがあり、肖像写真とは違う温度の求心力を持つ。日本で初めてまとまった形で画歴が紹介される本展では、有名人のポートレートにとどまらないペイトンの表現の深度に触れることができるだろう。時代の殉教者のように永遠の眠りについたカート・コバーン。真摯な研究から生まれたドラクロワやワーグナーをめぐる新しい解釈。過去の表現者への関心をモチベーションに描かれた絵画は、伝説化した人物も同時代の空気を吸った人物も、ヒエラルキーなく、フラットな観察眼と人間観によって描写され、新しい具象画のアプローチを提示してみせた。控えめな態度で、絵画と写真を隔てたがる美術の世界を、息のしやすい場所にしてくれた作家ともいえる。

『エリザベス ペイトン:Still life 静/生』

会期:開催中~5/7
原美術館(東京・品川)
営)11時~17時(祝日にあたる5/3を除く水曜は20時まで)
休)月、3/21(3/20は開館)
料)一般¥1,100

●問い合わせ先:
tel:03-3445-0651
www.haramuseum.or.jp

*「フィガロジャポン」2017年3月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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