気分で選ぶ、私のおすすめ映画。#09 編集KIMが思いきり泣きたいときに観る映画3本。

Culture 2017.03.03

madameFIGARO.jpで「編集KIMのシネマに片想い」も連載中の、映画をこよなく愛する編集KIMが選んだのは、思いきり泣きたいときに観る映画。映画を観て、泣きのスイッチが入る瞬間とは? さまざまな想いから涙が流れる、名作3本をご紹介。

どうしようもないコトを受け止めている人に共感してしまう。

誰かが死ぬとか、余命がどうとか、目標を叶えた達成感があるとか……そういった、「泣き」に対して順当な「ストーリー」に泣くか?といえば、個人的には泣けない、と思う。じゃあ、どうして泣きのスイッチが入るのか……共通の理由があるとすれば、どうにもならない状況でもそれを受け止める主人公の真摯な姿に泣くのかもしれない。

『テルマ&ルイーズ』は、女ふたりの逃避行の物語。現実生活に疲れていて、そこから逃げ出したくて旅に出るが、ふたりの女性は極めて弱気でフツウなのに、どんどんワルの道にハマっていってしまう。意図してないのに。ラストシーン、崖っぷちで車に乗った彼女たちは警察に追い詰められ、ふたりで顔を見合わせる。スーザン・サランドンとジーナ・デイヴィス。ジーナ・デイヴィスの何ともいえない表情がめちゃくちゃ素敵だ。もう仕方ない、このまま行こう!と。ハーヴェイ・カイテルが「つらい思いばかりしてきた女たちなんだぞ!」と、攻め立てる警察を制そうとするけれど、ふたりは崖から爽快に空中に車をぶっ飛ばす。笑顔で……。覚悟を決めた女たちの、その道を選ぶしかなかった人生と、偶然の仕業に、もう泣けて泣けて、映画館を出て新宿駅に着くまで、大失恋した女子みたいに涙でぼろぼろでした……。

『初恋の来た道』。チャン・ツィイーのデビュー作。中国の奥深くにこんな可愛い女の子がいたら、木々生い茂る道を歩く姿見るだけでジーンときちゃうな、と思わせるほど愛くるしい。主人公は大好きな青年がいるのだけれど、想いが伝わらなくて、自身の昂ぶる感情に素直に戸惑い、そして彼のために作ったお弁当の陶器が割れちゃったことにも、初々しく傷ついてしまうやわらかな心を持っている……。娘の想いに気づいた母親が、割れてしまった陶器を丁寧に直してくれる。そのいたわりの深さは、直された陶器のアップで示される。自分の心の中にある恋心に対して真っすぐで、叶わないこと、届かない想いに対して、ごまかしのない透明感のある描写に、こちらが流す涙まで純粋成分でできているんじゃなかろうか、と思える細やかな演出の1本。

『オアシス』は、観た後、なかなか席を立つことができなかったくらいズンときた映画。世の中、男らしさを誇示する男はたくさんいる。言い訳ばかりする男も。でも、ソル・ギョング演じる主人公は、決して言い訳せず、否定せず、身体障害者であるひとりの女(ムン・ソリ)を、心から、時間をかけて愛する健常者の男。ふつうに生活し誰かと恋愛したいと夢見る障害者の女性役のムン・ソリの演技も素晴らしい。でも、家族など周りの健常者が、そんなふたりの間に愛が成立するわけないじゃないか!と偏見から引き裂き、男に罪まで着せてしまう。何も悪いこともしていないのに、その誤解をも受け入れ、男は刑に服す。ムショから届く彼の手紙をとてもうれしそうに読むムン・ソリの姿は、ときめきを抱いて恋する女子そのもの。追い詰められてもひたむきに生きる人間の姿に、静かな涙がほほを伝った。

01. 『テルマ&ルイーズ』

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若い時代の超絶カッコいいブラピがジーナ・デイヴィスと絡む役で登場。トラック爆破シーンなど、ワイルドな光景を駆け抜ける「実は臆病な女たち」が可愛い。

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●監督/リドリー・スコット
●脚本/カーリー・クーリ
●出演/スーザン・サランドン、ジーナ・デイビス、ハーベイ・カイテル
●1991年、アメリカ映画
●Blu-ray¥2,057
●販売元/20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
© 2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

02. 『初恋のきた道』

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都会から故郷に戻ってきた青年に対する田舎の女の子の恋を描きながら、最終的に伝えたいメッセージは、親への感謝と愛情。揺れる恋心と親孝行、二重の意味で泣ける。

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●監督/チャン・イーモウ
●脚本/パオ・シー
●出演/チャン・ツィイー、スン・ホンレイ、チョン・ハオ、チャオ・ユエリン
●1999年、アメリカ・中国映画
●DVD¥1,382
●販売元/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2000 COLUMBIA PICTURES FILM PRODUCTION ASIA LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

03. 『オアシス』

170303_movie_KIM_05new.jpg© Courtesy Everett Collection/amanaimages

170303_movie_KIM_06new.jpg© Allstar/EAST FILM/amanaimages

前科のある男と脳性麻痺の女性の恋。家族でさえ味方ではない状況で、支えあうふたり。ヴェネツィア映画祭で監督賞や複数の賞を受賞した。

●監督・脚本/イ・チャンドン
●出演/ソル・ギョング、ムン・ソリ
●2002年、韓国映画

●特集INDEX
●映画監督・俳優の松居大悟が選ぶ、笑いたいときに観る映画。
●フォトグラファーシトウレイが選ぶ、おしゃれしたいときに観る映画。
●アーティストのとんだ林蘭が選ぶ、怖くてドキドキしたいときに観る映画。

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イラストエッセイストの犬山紙子が選ぶ、疲れたときに観る映画。
●フラワーアーティスト篠崎恵美さんが選ぶ、部屋の模様替えをしたいときに観る映画。
●脳科学者の茂木健一郎が選ぶ、元気を出したいときに観る映画。
●スタイリスト岡尾美代子が選ぶ、ロマンティックな気分に浸りたいときに観る映画。

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編集KIM Editor KIM
フィガロ編集部イチの映画マニア、フィガロジャポン副編集長・森田聖美。madame FIGARO.jpで「編集KIMのシネマに片想い」を連載中。

 

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