立田敦子のカンヌ映画祭レポート2017 #11 「ある視点」大賞は、 不屈のイラン監督の映画が受賞!

Culture 2017.05.30

 映画祭のクロージングを前に、サイドバーの各賞が続々と発表になりました。「ある視点」部門の大賞を受賞したのは、イランのモハマド・ラスロフ監督の作品『Lerd』。町を離れて農場で暮らすことを好む、女性レザの物語なのですが、このモハマド・ラスロフ監督の経歴も実に興味深いのです。

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『Lerd』より。
©French Association of the International Film Festival

 イランは国による検閲が厳しいことでも有名。故アッバス・キアロスタミ監督やモフセン・マフマルバフ監督をはじめ、『別離』(2012年)に続いて『セールスマン』(6月10日より公開)で2回目のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したばかりのアスガー・ファルハディ監督など、弾圧を逃れて、国外で制作を続ける監督も多くいます。

モハマド・ラスロフ監督も、無許可で撮影を行った罪で、1年間ほど投獄された経験があります。それでも当局と戦いながら映画制作を続け、11年には『グッドバイ』で「ある視点」部門監督賞、13年には『Manuscripts  Don't Burn(マニュスクリプト・ドント・バーン)』で国際批評家連盟賞を受賞しています。今回の受賞は、彼のキャリアを知るカンヌのジャーナリストたちからも、大きな拍手をもって迎えられました。

 審査員賞は、メキシコのミシェル・フランコ監督の『April's Daughter(エイプリルズ・ドーター)』が獲得。12年に『父の秘密』で「ある視点」部門グランプリを受賞、15年にはティム・ロス主演の『或る終焉』で脚本賞を受賞しています。若い監督ながら、すでにカンヌでは常連!

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『April's Daughter(エイプリルズ・ドーター)』より。
©French Association of the International Film Festival

 監督賞は『Wind River(ウィンド・リバー)』のテイラー・シェリダン。15年にコンペで上映された、ドゥニ・ビルヌーヴ監督作でエミリー・ブラント主演『ボーダーライン』の脚本家であるテイラー・シェリダンですが、こちらは監督作としては2作目。今後、監督としての活躍も期待できます。

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『Wind River(ウィンド・リバー)』より。©French Association of the International Film Festival

女優賞は、イタリアの名優セルジオ・カステリットが監督した作品、『Fortunata(フォルトゥナータ)』の主演ジャスミン・トリンカ。「ある視点」部門の他賞は毎回イレギュラーで設けられますが、今年は女優賞が設けられました。

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『Fortunata(フォルトゥナータ)』より。©French Association of the International Film Festival

また今年の特別部門として設けられたのは、「シネマ・ポエトリー」賞。詩的な語り口が評価されて、オープニングを飾った『Barbara(バルバラ)』の監督マチュー・アマルリックが受賞しました!

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多くの受賞者が登壇し、華やぐ授賞式。

 サイドバーではないですが、河瀬直美監督の『光』は、エキュメニカル審査員賞を受賞。人間の精神的な苦痛や弱点ならびに可能性にフォーカスして、人間の神秘に満ちた深遠さを示現する、という芸術的優秀性のある作品を表彰する目的の賞です。キリスト教徒の評論家や映画関係の専門家によって選出されます。視力を失ったカメラマンの苦悩と再生の映画『光』は、まさにこのテーマにふさわしいといえますね。

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『光』のエキュメニカル審査員賞を受賞を喜ぶ、河瀬直美監督と主演の永瀬正敏。
©Kazuko Wakayama
©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

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映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。
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