豊潤な山の恵みが気持ちいい! 『北アルプス国際芸術祭』。

Culture 2017.06.29

数々の芸術祭が行われる中、この地での開催は初。総合ディレクターに北川フラム氏を迎え、6月4日からスタートした北アルプス国際芸術祭。話題のクリエイティブチーム「目」や、その土地の土を使って大規模かつ緻密な絵画を描く淺井裕介など参加者も話題で、開幕以来、評判を呼んでいます。

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壮大な北アルプス連山に圧倒されます。

舞台は長野県大町市。鹿島槍ヶ岳や爺ヶ岳など3000メートル級の山々が壮麗な北アルプスの麓の町は、たわわな水の宝庫。町を歩けば傍らに川が流れ、商店街の脇には自由に飲める湧水があったりと、いたるところで水の気配が感じられ、歩いているだけでも清々しい場所です。北川氏が「信濃大町を訪れて、全身の五感を揺らすのは、圧倒的な水野奔流です」と言うように、水の町ともいえる大町でのアート体験は、また格別の感があります。

>>空間が迫り来る!? 山頂から眺めた信濃大町の風景。

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空間が迫り来る!? 山頂から眺めた信濃大町の風景。

では、見どころをいくつかご紹介していきます。まず個人的にもお薦めなのが、「目」。南川憲二、荒神明香、増井宏文の3名で活動するクリエイティブユニットですが、現実なのにどこか非現実的な空間を出現させる作品で、いつも私たちを想像力の彼方へ飛ばし、圧倒的な世界へといざなってくれます。

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鷹狩山の山頂から眺めた信濃大町の風景に注目して制作された『信濃大町実景舎』。photo:Tsuyoshi Hongo

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左から、増井宏文、荒神明香、南川憲二。photo:Tsuyoshi Hongo

「ひと目見てこの場所がいいと思った」と荒神さんと南川さん。「目がおかしくなるような、空間が迫ってくるような。でも空間はゆったりしているので、中でもゆったり過ごしてもらえると思います」とのこと。プレスプレビューの際はまだ制作中で(&彼らの作品は常にネタばれ禁止)、その全貌を見ることはできませんでしたが、きっとすごいことになっているはず!

PROFILE

ディレクター・南川憲二、アーティスト・荒神明香、制作統括・増井宏文の3名で活動するクリエイティブユニット。2013年より活動開始。それぞれが役割分担をすることで、個々のクリエイティビティを最大限に活かす。大地の芸術祭越後妻有トリエンナーレ2015『憶測の成立』、宇都宮美術館館外プロジェクト2014『おじさんの顔が空に浮かぶ日』などがある。www.facebook.com/mouthplustwo

>>線や楕円で視覚をゆさぶる、三次元空間。

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線や楕円で視覚をゆさぶる、三次元空間。
フェリーチェ・ヴァリーニ

スイス生まれ、パリ在住のフェリーチェ・ヴァリーニは、室内外問わず空間全体を絵画のように仕立ててしまう作家。プロジェクターを使い、壁などに幾何学的な模様を写し出してトレースすることで、日常に新たな景色を出現させていきます。また、一見ばらばらに描かれているように見える幾何学模様は、ある一点から見ると平面に見えるのが驚きです。

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里山に突如出現する異次元。『集落のための楕円』。photo:Tsuyoshi Hongo

ヴァリーニは、三世帯のみが集まる里山の集落で作品を展開。もともとあった家屋の壁面にイエローの鮮やかな楕円が合わさって、カラフルな光景が出現。棚田が広がる牧歌的な八坂の景色が異空間のよう。全体を見渡すと、その三次元ぶりにクラクラしてしまいます。上の写真で見ると楕円がきれいに見えますが、その他の場所から見ると黄色の線はバラバラです。

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別角度からの景色。photo:FIGARO japon

PROFILE
フェリーチェ・ヴァリーニ
1952年スイス生まれ、現在はパリ在住。プロジェクターで建物の壁に幾何学的な図形を投写&トレースすることで、日常の風景に新たな世界を出現させる。世界中の公共空間で作品を展開。『大阪・アート・カレイドスコープ2007~大大阪にあいたい~』(2007年)への参加、札幌ドーム『楕円を追って』(2001年)など。www.varini.org

>>信濃大町の土が描く、壮大な壁画が完成。

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信濃大町の土が描く、壮大な壁画が完成。
淺井裕介

壁一面に描かれた大きな世界に、よく見ると、ちっちゃな動物が愛らしい姿で描かれていて、思わずくすり。淺井裕介は、ペンやテープ、土やほこりなどの身の回りにある素材を使い、絵を描きます。その場所はキャンバスにとどまらず、壁、地上、包み紙、紙ナプキンなど、とどまるところを知りません。

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まわりの景色とどこかなじんだ感じが心地いい、『土の泉』。photo:Tsuyoshi Hongo

今回のキャンバスは、山の中に立つエネルギー博物館の大きな壁。コンクリートの壁に描くのは初めてだそうですが、「壁にすっとしみ込んでいく感じでした」と淺井さん。地元の人たちの手も加わり、自由におおらかに描かれた壮大な絵は、信濃大町の歴史の中の、ひとつの足跡となりました。

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左:制作中の淺井さん。右:作品に寄るとさまざまな世界が繰り広げられています。photo:Tsuyoshi Hongo

 

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左:淺井さんが使っている道具類。右:今回の制作に使われた大町の土と水。photo:FIGARO japon

PROFILE
淺井裕介
1981年東京都生まれ、東京在住。2003年から、マスキングテープを使って植物を描く「マスキングプラント」の制作をスタート。滞在する場所で採取した土と水を使って描く泥絵は圧巻で、10mを超えるものを立て続けに制作し話題に。近年は、森美術館にて『淺井裕介 ― 絵の種 土の旅』(2015~16年)を開催、ヴァンジ彫刻庭園美術館にて『生きとし生けるもの』(2016年)などに参加。https://urano.tokyo/artists/yusuke_asai

>>真っ直ぐ伸びる、人々と空をつなぐ組紐。

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真っ直ぐ伸びる、人々と空をつなぐ組紐。
五十嵐靖晃

清々しい水風景が広がる木崎湖。そのほとりに五十嵐さんの作品はあります。人々との協働で新しい景色を生み出す表現活動を行う五十嵐さんは、昨年の瀬戸内国際芸術祭では、島の漁師さんが協力して網を編んでいくという作品を展開。彼の活動は、日常の中に新たな人々のつながりと記憶を生み出すのです。

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真っ直ぐ天へと向かう組紐。photo:Tsuyoshi Hongo

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町の人々と作業をする五十嵐さん。photo:Tsuyoshi Hongo

今回、木崎湖の桟橋で、地元の人々と太いロープを組んでいきました。垂直方向へ異世界へとつながっていくという山岳文化の精神を表す表現にも通じるこの作業は、神聖さも漂います。天へ向かって人々が紐を編み続ける――大自然の循環もイメージさせるようです。

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組紐に使用された紐。ブルーが美しい。photo:FIGARO japon

PROFILE
五十嵐靖晃
1978年千葉県生まれ、在住。その土地で出会う人達と協働することで、日常の生活に新たな視点とつながりを生み出す活動を行う。日比野克彦とのプロジェクトで2005年、ヨットで日本からミクロネシアまで約4000kmの航海を経験し、「海からの視座」を活動の根底とするように。2016年『瀬戸内国際芸術祭』にて地元の漁師たちと『そらあみ』を制作。http://blog.igayasu.com

【関連記事】
フィガロジャポン編集部ブログ「北アルプス国際芸術祭、番外編。」

北アルプス芸術祭2017~信濃大町 食とアートの廻廊~
開催期間:開催中~7月30日
開催場所:長野県大町各所
料金:一般¥2,500(作品鑑賞パスポート)

●問い合わせ:
tel:0261-23-5500
http://shinano-omachi.jp

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北アルプス国際芸術祭、番外編。
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