フィガロが選ぶ、今月の5冊 ベルリンを舞台にした多和田葉子の短編集『百年の散歩』。
Culture 2017.07.08
ふたつの言語を行き来する、多和田葉子ならではの連作。
『百年の散歩』
多和田葉子著 新潮社刊 ¥1,836
カント通りにある「奇異茶店」で「わたし」は「あの人」を待っている。短編のタイトルはベルリンに実在する通りの名前。かつて東と西を隔てる壁が存在したこの街も、いまや世界中の人々が行き交う。耳に飛び込んでくるのもドイツ語ばかりではない。言葉の音を変換し、直訳することで、さまざまな連想が広がる。散歩する 「わたし」に過去の歴史が語りかけてくる。言語が街をひもとくパスワードになっている。渡独して35年。昨年ドイツの権威ある文学賞クライスト賞を受賞。日本語とドイツ語を自在に行き来して、作品を発表してきた著者ならではの連作短編集。
*「フィガロジャポン」2017年7月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI