新しい女性像を撮り続ける、アニー・リーボヴィッツにインタビュー。

インタビュー

現在、東京・東雲のTOLOT/heuristic SHINONOMEで開催中のアニー・リーボヴィッツ新作肖像写真展『WOMEN: New Portraits』。タイトルからもわかるように、アニーは45年以上にわたって、女性とは、そしてジェンダーとは、といった普遍的なテーマに立ち向かい、時代を記録してきた。公私ともにパートナーだったスーザン・ソンタグと1999年に共同出版した写真集『Women』に端を発するこのプロジェクト。現代美術を支援するUBSの全面サポートのもと実現した、世界10都市巡回展の一環として開催されている本展で、作品に込めたメッセージについて、アニーが語ってくれた。

160226_annie_01.jpg

アメリカン・バレエ・シアター初の黒人プリンシパルとなったミスティ・コープランドのポートレートも。アニーは「彼女の立場はとても重要」とコメント。 © Annie Leibovitz. From WOMEN: New Portraits, Exclusive Commissioning Partner UBS

160229_annie_02.jpg

会見に臨むアニー。'WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME.

展示は『プロローグ』から始まる。

「ここには父がフィリピンのクラーク空軍基地にいた頃のものや、母マリリン・リーボヴィッツの写真など、家族を写したものもあります。もし『自分がいちばん好きな写真は?』と訊かれて、あえて選ぶならこの母の写真かもしれません。『カメラがなかったら、母はここまで真正面から私を見つめてくれただろうか?』そう思うからです。スーザン・ソンタグが崇拝していたヴァージニア・ウルフ、その英国南部の家にあった机も撮影しました。タバコの焼け焦げた跡やインクのシミが見えるでしょう? これは『人生には汚れがつきもの』といったことを意味していると思います。パリで撮ったスーザンの写真は、彼女の最期のポートレートとなったのですが、思い出深いですね」

160226_annie_02.jpg

'WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku

1970年代初頭に『ローリング・ストーン』誌の写真ジャーナリストからキャリアをスタートしたアニー。数々の伝説的な写真の中でも、最も有名なのは裸のジョン・レノンがオノ・ヨーコを抱擁した姿だろう。それが撮影されたのは、ジョンが射殺されるわずか数時間前のことだった。

「ふたりと初めて会って撮影した時、私はまだ無名の存在でした。だけど、彼らはそんな私を逆に面白がってくれました。ジョンのほうがノーマルでわかりやすい人でしたね。ヨーコは独創性のある女性で、すぐに理解し合えたわけではないのですが、彼女とお互いの仕事を色々見せ合っていくうちに親しくなれたんです。最近も彼女のカレンダーを撮影したんですよ」

そして新作の『WOMEN: New Portraits』。アーティスト、ミュージシャン、経営者、政治家、作家、慈善活動家など、実にさまざまな女性たちが被写体として登場しているが、完璧主義者と言われるアニーが「撮りたい」という衝動に駆られた相手ばかりだ。

「新作はシンプルな作りで、みな同じ大きさで展示しています。マララ・ユスフザイの写真はぜひこのシリーズに入れたいと思って、先週バーミンガムで撮影したばかり。故郷パキスタンで、わずか12歳の時に、タリバンに『あらゆる女性は教育を受ける権利がある』と抗議し殺されかけましたが、そんな彼女を教室で撮らせてもらいました。サリー・マンの写真は、彼女が住むバージニアを訪ね、1日ずっと一緒に過ごしたときのもの。私は"その人の場所"に行って撮影することが、とても重要だと思っています」

160229_annie_01.jpg

会場のアートスペースは印刷製本工場の2階にある。「珍しい、意外性のある場所を、今回の巡回展の会場に選んでいる」というアニー。ロンドンでの展示と同様、ギャラリー中央には作品の感想などを自由に話し合える「talking circle」が設置されている。'WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku

写真展は、人間を常に"男性"か"女性"のどちらかで描きがちな世の中に疑問を投げかけるものでもある。アニー自身は、そんな風潮についてどんな考えを持っているのだろう。

「ジェンダーは世界にふたつしかないわけではなく、もっと多様です。女性の役割もさまざま。累計で物事を考えるのではなく、目の前にいる人物の固有性に向き合うことが大事だと思っています。今回の作品にケイトリン・ジェンナーも登場していますが、彼女からは『人間にはもっと深い性差があるのではないか』と感じさせられます。今回の写真展にメッセージを寄せてくれた女性活動家のグロリア・スタイネムからは、先のロンドンでのオープニングでこう言われました。『アートにおける女性像に、決まりきったことはない。男性のポートレートはこれまでにもたくさんあったけれど、女性を主体としたものは少なかった。だから、あなたには撮る意味があるのよ』とね」

160229_annie_03.jpg

会場の一角にはライブラリーが設けられ、さまざまな写真集を閲覧することもできる。'WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Keizo Kioku

新作の中には、アウン・サン・スー・チーやウェンディ・マードックなどアジア女性の姿もある。

「アウン・サン・スー・チーはみなさんご存じのとおり、ビルマ民主化運動の旗手となった人。25年間も自宅軟禁されていたなんて、自分自身に置き換えたら想像できますか? 今回の写真は、演説前のたった5分の間に、急いで撮ったものです。ウェンディ・マードックを撮ったのは、彼女が闘う女性だから。とてもガッツがあり、生きのびる力を持っている人。欠かすことのできない存在だと感じています」

160226_annie_03.jpg

'WOMEN: New Portraits' a global tour of new photographs by Annie Leibovitz, commissioned by UBS, launches in Tokyo on 20 February at TOLOT/heuristic SHINONOME. © Christopher Jue, Getty Images

名だたる人物を撮ってきたアニーが、次に撮りたいのは誰なのかも気になるところ。

「写真集を出した1999年から比べて世の中の様相も変わり、撮りたいと思う女性も増えました。いまはパフォーマンス・アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチや、Facebook社のCOO、シェリル・サンドバーグなどですね。日本では、皇后陛下に興味があります。誰を撮りたい? と聞かれたら、私はとどまることを知りません(笑)」

そんな彼女は、日本に特別な親しみを抱いている様子。

「実は、1960年代に奨学金で日本に来たことがあるんです。小さい頃から写真を撮るのが好きで、1台目のカメラは日本で購入したんですよ。その時、富士山に登ったのですが、頂上が近付くにつれてカメラがとても重く感じられて。あの時『カメラという機材は自分の一部として取り込んでいかねばならない』と学びました」

『Woman』は、終わりのないプロジェクト。写真展は3月13日まで開催されている。

アニー・リーボヴィッツ「WOMEN:New Portraits」世界巡回展
会期:開催中~2016年3月13日(日)11:00~19:00
会場:TOLOT/heuristic SHINONOME
東京都江東区東雲2-9-13 2F
入場無料
www.ubs.com/annieleibovitz-jp

※会期中の毎週末にはファミリーワークショップを開催。
詳しくはこちら≫
https://www.ubs.com/microsites/annie-leibovitz/ja/family-workshop.html

texte:YOKO KONDO

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。