『ザ・ダンサー』で見せた、女優・ソーコの新たな境地。

インタビュー

ミュージシャンのソーコが、伝説のダンサーを演じる。それだけでも十分に興味を掻き立てられるが、この作品にはそれだけではない、ひとりの女性の“執念”ともいうべき魔力が備わっているーー。

6月3日(土)に公開される映画『ザ・ダンサー』は、モダンダンスの“祖”であり舞台照明のパイオニアでもあった、ロイ・フラーの人生に焦点を当てた作品。19世紀末のパリを舞台に、ソーコ演じる主人公ロイが血の滲むような修練と実験を重ね、アールヌーヴォー界の寵児として迎い入れられる姿と、その裏に隠された嫉妬や羨望といった闇の部分が、リリー=ローズ・デップ演じるライバルとの対比で見事に描かれている。

メガホンをとったのは、長年クリエイティブの分野で活躍してきた気鋭の女性監督、ステファニー・ディ・ジュースト。来日していたソーコに、オファーを受けた時の気持ちや、体当たりで挑んだ本作の魅力、そして衣装や自身のファッションについて語ってもらった。

170508-soko01.pngシンガーソングライターとして活動する傍ら映画にも出演。また類稀なセンスでも注目され、ファッションアイコンとしても人気に。また過去に女優のクリステン・スチュワートと交際していたりと、私生活においてもボーダーレスな生き方で注目を集める。
Photo: MasatoSeto、coiffure&maquillage: Naoki Hirayama (Wani)

——監督は主人公のロイ役を、最初からソーコさんありきで考えていたそうですが、この作品への参加を決めた理由は?

「ステファニー(監督)とは長い付き合いだったから、私を主人公に脚本を書いているのは以前から知っていて。それがどんなストーリーであっても必ず参加したいと思っていたの。彼女は映画監督としてデビューする前、クリエイターとして様々な作品を手がけているんだけど、そのどれもが素晴らしくて!  ロイ・フラーを題材に映画を撮りたいと聞いたとき、これはすごい作品になると直感したわ。私が演じた主人公のロイは、ダンスやコスチューム、舞台照明に至るまで、すべてを自分で生み出し、時代を切り開いてきた力強い女性。だけどダンサーとしてデビューしたのが27歳と遅咲きで、おまけに性的マイノリティで……。彼女の人生を知っていくうちに、この人もアートがなければ生き延びられなかったんだろうなと、胸に迫るものを感じたの」

170508-soko02.pngシルクを80m(!)も用いた壮大なドレスを最大限にはためかせ、サーペインタインダンス(蛇の踊り)と呼ばれる幻想的な舞いを披露したソーコ。

——主役のフラー役を演じるにあたり、ダンスの猛特訓を受けたと聞きましたが、その経験はソーコさんの肉体やメンタルにどのような変化をもたらしましたか?

「今回はダンスを習得しなければならないという点で、これまでとは肉体的にもまったく異なる挑戦となったわ。一日に7時間もトレーニングを行うなんてことが、自分にできるとは最初は想像もしなかったけど、日に日に強くなっていく身体の変化を感じて、最終的には中毒のようになっていったの。私は肉体の優美さもないしどちらかといえば不器用なほうだけど、スクリーンでは女性的な軽やかさ、しなやかさを表現しなければならなかった。ステファニー(監督)はそれを、完璧なダンスではなく、内側にある“火”のようなエネルギーを使って演じてほしいと言い、私も必死で応えた。困難もたくさんあったけど、決してやり遂げられないと思っていたことをやり遂げたという意味で、大きな価値があったと思う。私は幼少期から母に勧められ、ダンスや乗馬、演劇など、いろんな活動に参加してきたのだけど、こうした過去の経験も、女優として活動する際に大きな力となっているわ」

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ソーコと特別な関係性を育む伯爵役は、グザヴィエ・ドラン監督の『たかが世界の終わり』で主演を務めた美形の演技派、ギャスパー・ウリエルが演じた。

>>ソーコが感じた主人公フラーとの共通点。そして大好きなファッションについて。

© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

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——本作ではソーコさん演じるロイ・フラーと、リリー=ローズ・デップさん演じるイサンドラ・ダンカンが、対照的なダンサーとして描かれています。演じてみていかがでしたか? ご自身との共通項はあったのでしょうか。

「ロイ・フラーは非常に自己破壊的な傾向のある人物で、その悪魔的ともいえる感情やエネルギーの中から、美しさや軽やかさを作り出していった人。だからクリエイションに人生を捧げているアーティストは皆、彼女に自分の姿を重ねることができると思うわ。この映画を観たマドンナが、私に会いたいとコンタクトを取ってくれたんだけど、きっと彼女もロイに自分と近いものを感じたのだと思う。そして創作に没頭するあまり、プライベートをおろそかにしてしまうのも、私とロイの共通点ね。私は5歳のときに父親を亡くしていて、その喪失感を埋めるように創作活動にのめり込むようになったんだけど、ロイも父の死を通して、“いまこそ本当の自分自身にならなければいけない”と意識し始めたと思うの。人生には必ず終わりがあるし、夢は自分のことを待ってはくれない。生の儚さを知ったからこそ、常にクリエイションし続けなきゃいけないんだと、いまはそう感じているわ」

170508-soko04.pngライバルを演じたリリー=ローズ・デップとの共演も見どころ。主要な役を演じるのは初めてだったという彼女だが「16歳なのにすべてが堂に入っていて、スターを相手にしているようだった」と監督もその才能に驚いたそう。

——幻想的なシルクのドレスに始まり、19世紀らしいクラシカルな衣装など、本作はコスチュームのクオリティもとても高く感じました。おしゃれなソーコさんの目に、劇中のファッションはどう映りましたか?

「ダンスのコスチュームをはじめ……もう信じられないくらい素晴らしかった! 結果、衣装はセザール賞にも選ばれ、本当によかったと思ってる。私は演じるとき、衣装を最終的に纏うことで役柄になりきれたと感じるのだけど、今回もまさしくそうだったわ。一方、ふだんはヴィンテージのようなレアなアイテムを身につけるのが好きで、できるだけいろんな色にトライするようにしているの。どんなものにインスピレーション受けているのかがわかるファッションって見ていて楽しいし、洋服で周りにいいフィーリングが届けられたと思ってる。今回の来日では、自分の生まれ年(1985年)の映画『グーニーズ』のTシャツを購入したり、東京のありとあらゆるヴィンテージショップにお金をばらまいたわ(笑)。いろんなデザイナーがコンタクトをくれたから、到着2日目にしてドン・キホーテでスーツケースも買い足したの。そのあとは宮古島へ飛んで、自然と戯れたり…….。いまは次のアルバムに向けて曲を作っている最中なんだけど、日本で受けたインスピレーションが、良い形で反映されるといいなと思ってる」

170508-soko05.pngカメラ、照明、衣装、舞台装置ーー。監督が信頼を寄せる、各界のプロフェッショナル達が結集し生み出された、ため息がでるほど美しい映像美にも注目を。

『ザ・ダンサー』
●監督/ステファニー・ディ・ジュースト
●出演/ソーコ(「博士と私の危険な関係」)、リリー=ローズ・デップ(「Mr.タスク」)、ギャスパー・ウリエル(「たかが世界の終わり」)
●原題/La Danseuse  
●2016年 、フランス・ベルギー映画
●108分
●配給/コムストック・グループ
●配給協力/キノフィルムズ
●6月3日(土)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国にて公開。
Soko  ソーコ
1985年フランス生まれ。本名はステファニー・ソコリンスキ。22歳のときにシングル「I’ll Kill Her」が北ヨーロッパを中心にヒット、頭角を表す。音楽活動と平行し10代から女優としても活躍。最新作『ザ・ダンサー』では、セザール賞の主演女優賞にノミネートされた。

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texte:YURI TANAKA

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