Music Sketch

ドキュメンタリー映画『サクロモンテの丘』の監督にインタビュー

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現在、全国で順次公開されている、注目のドキュメンタリー映画『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』。サクロモンテの丘とはスペインのアンダルシア地方、グラナダ県サクロモンテ地区にあるフラメンコの聖地のこと。そこにある洞窟で、かつて迫害を受けながら暮らしていたロマたちが“洞窟フラメンコ”と呼ばれた独自の文化を築いていった様子を、チュス・グティエレス監督が世界で最も重要なフラメンコ・コミュニティのルーツと記憶を探るドキュメンタリー映画として製作したものだ。フラメンコを世界的に広めたラ・モナをはじめ、来日公演でなんども日本に来ている踊り手や歌い手、若手も登場するし、アメリカの要人との交流など見どころは多い。何より、本場フラメンコの熱情溢れるパフォーマンスに見入ってしまう。

私は20年ほど前だったか、ヴァイオリニストの古澤巌氏が移動集落で生活をするロマを訪ねて、「チャールダッシュ」等のジプシー発祥といわれる楽曲をその場で一緒に演奏するといった、道場破りのような旅に同行したことがある。その時のロマの印象には部外者を受け付けない閉鎖的な雰囲気が漂い、しかし演奏が盛り上がる中で次第に表情が緩み、打ち解けて行くというもので、緊張と歓喜が交互に押し寄せてくる貴重な時間を体験することができた。けれど、このドキュメンタリーで観た世界は、その時のものと明らかに違うものだった。チュス・グエティエレス監督に話を聞いた。

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チュス・グエティエレス監督。1962年グラナダ生まれ。スペインで人望の厚い監督のひとりだそう。

■生活も仕事も感情も観光客も巻き込んだ、レアな共同体

—この映画を撮って、一番驚いたことは何ですか?

チュス・グティエレス(以下、CG):「驚きの連続だったと言っても過言ではないわ。なぜかというと、私が彼らの世界もフラメンコのことも、そこまで深く知っていたわけではないので、発見がたくさんあったから。一番私が驚いたのは、共同体があった時代の様子で、みんなが生活している場が踊る場であり、働く場でもあり、みんなの感情もそこにあり、しかもそこに観光客も巻き込んで全部がごちゃまぜになっていること。そういったところが今はないので、その場に一番驚いたの」

—感情というのは、情熱的なものがそこに渦巻いていたということですか?

CG:「情熱ではなくて、貧しいところでみんなが助け合っていたという、共同体に対する思いのことね。そして、子供達がそれらを見ながら学んでいったという……。そういう状況を私は知らなかったし、そういう共同体に生きたことがないのでとても興味を持ったし、発見だったのよ」

—この映画は2012年〜13年の間に撮り終えたそうですが、作り終えた後に監督の中での何らかの変化はありました?

CG:「もう私は歳だから、そこまでの変化はないわ(笑)。でも変わったということより、学んだことはたくさんある。私は幸運にも映画監督という仕事をしているので、その1本1本から影響を受けるというのは当たり前のことだけど、自分が企画を考える時にテーマは自分で選んでいるから、一番興味のあることを主に撮影していくため発見はたくさんあるのよ。その興味がどんどん深くなっていって、驚きと共に自分に返ってくる。だから自分が人間的に変わったということよりは、学んだことはたくさんあるわね。特にインタビューをして感じたのは、その時に大人だった人は大変だったかもしれないけど、子どもたちが完璧な自由の中で暮らしていたということ。あんなにみんな貧しくて、父親はわずかなお金で働かなくてはならなかったのに、子どもたちにとっては非常に幸せな時代だったというとことがもうひとつの驚きだったわ」

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サクロモンテに住む誰もがファミリーのようで、全員でフラメンコを楽しむ。

■自分の感情や切なさ、生活を歌おうとした音楽は、全て共通する

—私はずいぶん前に日本人のバイオリストと一緒に移動集落のロマを訪ね、その時に、ロマが大勢集まる祭りとして知られるサント・マリー・ド・ラ・メールなども観てきました。ただ、アジア人はどうしても目立つし、なかなか受け入れてもらえない閉鎖的な雰囲気がありました。サクロモンテの丘では、彼らの居住地域であったこともあるのか、非ロマ人に対してもオープンですよね。監督は彼らの輪の中にスッと入れた感じですか?

CG:「彼らが普通のヒターノ(スペインのジプシー)と違うところは、元々サクロモンテにいる時から観光客を相手にしていたことね。なので、みんなとてもオープンに受け入れる体制ができているの。しかも全員がアーティストゆえ、他のヒターノたちとは違うのだと思うわ」

—ヒターノのルーツはインドという説がありますが、監督はフラメンコのルーツはどこだと思いますか?

CG:「(スペインの民謡、フラメンコの歌を次々と歌ってくれる)例えば日本だったら民謡の節回しに似てると言った人もいて、インドからロマが来たとはいえ、その間にアラブも通っているので、アラブ地方の歌を聴いた時に、これもフラメンコだと思ったの。つまり、全部同じだと思う。なぜかというと、各地域の人たちが自分の感情や自分の切なさ、自分の生活を歌おうとした時に出て来るもののベースは全て同じだから。フラメンコが独立しているわけではなくて、日本の民謡にも繋がる、全てのところに共通している最も古い音楽のひとつだと思っているわ」

—人間の心の歌は、万国共通だと。

CG:「そうよ。もうひとつ、フラメンコの踊りの方を見てもらえれば、アラブの踊りと共通するところはたくさんある。スペインのサクロモンテのヒターノたちはスペインがモーロ人(北西アフリカのイスラム教徒の呼称)に占領されていた時にみんなやって来て、レコンキスタが終わった後に居着ついたので、直接の関係があるの。問題はそれらが全部ぐちゃぐちゃに混じって、それで出来上がったものだということ。なんでもそうだけど、人は常に進化しているし、常に影響を受けて与えて、総合的な動きがあるのが普通だから、私は全部共通だと思っているわ」

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写真左が、この映画の案内役のクーロ・アルバイシン。スペインのフラメンコで、最も愛されているアイコン的人物の一人だそう。

■自分が信じないものは映画にできない

—今まで会って来たヒターノで一番魅了を感じたのは誰ですか?

CG:「3人いる息子の中で誰が一番好きかと聞かれるようなものね(笑)。クーロ・アルバイシンが私を導いてくれた人だし、サクロモンテの丘の全てを見せてくれたわ。だから、クーロね。もし、これをもし自分ひとりでやったとしたら、発見するのにものすご時間がかかったと思う」

—監督が80年代にバンドをやっていた時の映像を動画で発見しました。フラメンコの衣装を着ていましたが、あの時はどういうことを表現したかったのですか?

CG:「あら、見たの?(笑)。あの当時はとても若くて何かしたかったし、80年代はすごく自由な時代だったので、集まって何かしようとしていたのよね」

—今は自由ではないのですか?

CG:「ノー。今はみんな完璧じゃないとダメでしょう? 80年代と今は全然違うわ。今はできるだけ金持ちで有名にならないといけない。80年代は何かをするにおいて、そういうことは全然関係なかったのよ」

—今の監督の人生の一番の目標は何ですか?

CG:「私は80年代の人間なので、今やっていることを続けていくということね。私は信じないものは映画にできないので、自分に重要なことを続けていくしかないわ」

—「信じないものは映画にできない」って、素晴らしいですね。

CG:「だから、ゴミみたいな映画を作るよりは、貧乏でもいいから、自分が『コレだ!』と信じる映画を作っていきたいの」

 

映画『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』予告編

—監督が音楽に惹かれる理由は何ですか?

CG:「常に音楽のある家庭に育ったからでしょうね。いつも家でのホームパーティの時にはみんなが歌って踊ってギターを弾いて、という、常に音楽がある環境で、兄がミュージシャンだったこともあるわ。自分の中では『音楽=楽しさと分かち合い』というイメージがあるのよ」

—では、音楽の道へは進まず、映画を撮るようになったきっかけは何?

CG:「映画を撮り始めたのはとても偶然なの。私は若い時はとても書くことが好きだったのよね。アパートで同室だった学生が映画専攻で、私はその時タイプの練習をしていたので、『脚本をタイプで清書してあげる』と、タイプをした時に、物語を語っている内容が面白そうと思って、だんだん映画の方に進んでしまったの」

—脚本家からスタートしたという?

CG:「そう。本当はそのまま作家になっていた方がひとりでできるので、もっと簡単だったかもしれない。映画は作るのにすごく人数がいるから」

—でも、小説はこれから書けますよね。

CG:「もちろん! もうちょっと歳をとったら作家に転身するわ。とはいえ、脚本はずいぶん書いてきているわ(笑)」

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取材中に歌を披露してくれた、気さくな監督。

 『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』
監督:チュス・グティエレス
参加アーティスト:クーロ・アルバイシン、ライムンド・エレディア、ペペ・アビチュエラ、ハイメ・エル・パロン、フアン・アンドレス・マジャ、チョンチ・エレディア、マノレーテ他多数
配給:アップリンク
有楽町スバル座、アップリンク渋谷ほか全国公開中
http://www.uplink.co.jp/sacromonte/

*To Be Continued

伊藤なつみ Natsumi Itoh
音楽ジャーナリスト/編集者

『フィガロジャポン』をはじめ、『pen』『装苑』ほかモード誌などで、取材、対談、原稿執筆、編集を担当。ほかにCD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュース等も。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
Twitter:@natsumiitoh

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