Music Sketch

すっかり魅了された赤い公園のライヴ

Music Sketch

先月に観たライヴの中で、とても印象的だったものの一つが"赤い公園"だ。ギター&ソングライターを務める津野米咲さん(以下、敬称略)に『フィガロジャポン』(2014年12月号)の『BESTラヴソング特集』で登場していただいたので、覚えている読者の方もいるのでは? 父親が音楽家ということもあり、子供の頃からジャンルレスに多様な音楽に親しんできたうえに、ピアノを早くから弾きはじめ、中学校では吹奏楽部でサックスを担当、クラシック音楽の譜割りやアレンジに興味を持っていたという。彼女が作る曲は独創的な音遣いとキャッチーなフレーズが絶妙にミックスしたものが多く、SMAPの「JOY!!」も彼女の作詞作曲によるものだ。

赤い公園の楽曲は、最近はプロデューサー陣とのコラボ曲が増えたものの、基本そのほとんどを津野が手がけている。バンドは2010年に結成。2012年にメジャー・デビュー作として発表された、衝撃的なミニアルバム『透明なのか黒なのか』(通称:黒盤)と、続く『ランドリーで漂白を』(通称:白盤)で示した対極ぶりに私は魅了され、しばらくの間ライヴの最後に演奏していたオルタナティヴ色の強い「ふやける」も非常に好きな1曲だ。というのも、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドに通じる感覚派のギターを披露していた津野のギターをはじめ、毎回予測不能なパフォーマンスを4人が展開して、それがとにかくカッコ良かったからだ。

そして2枚のフルアルバムを経て、今春に発表された最新アルバム『純情ランドセル』はというと、発売時に取材した新聞にも書いたが、"平成の歌謡曲"と呼びたくなるほどの出来で、なかには小・中学生の音楽の教科書に載せたくなるような名曲揃いになった。

「黄色い花」(Short Ver.)


■ 曲を立て続けに演奏することで、多彩な魅力を堪能

そのアルバムを引っさげて《赤い公園 マンマンツアー 2016 〜咲き乱れNight〜》の16本目の最終公演が、彼女たちの地元東京で5月16日に開催された。何が印象的だったかというと、オープニングから4曲演奏した後、ちょっとしたトークを挟み、10曲続けて一気に演奏したこと。赤い公園といえば佐藤千明の遠慮のないパフォーマンスに加え、オールナイトニッポンの深夜枠でレギュラー番組を持っていたほどのガールズトークも人気。今回はそのトークをほぼ封印して、バンドとしてのパフォーマンスに集中させた。

01-musicsketch-20160708.jpg

2016年5月16日のツアーファイナル公演。Zepp DiverCityにて。撮影:福本和洋(MAETTICO)

観客は8:2の割合で男性ファンが多い。都会育ちならではの肩肘張らない立ち振る舞いに、ラジオなどでのあけすけなトーク。そして重低音のしっかりした演奏に、表現力豊かで伸びやかなヴォーカル。このギャップが男性にウケるのかもしれない。

外見に似合わず、ヘヴィロック系のバンドに在籍していたことのある藤本ひかりのベースと、歌川菜穂のドラムのキックの重さがマッチした「ショートホープ」、かと思えば、ハーモニーを効かせた「TOKYO HARBOR」と続き、真紅の照明が似合う「ボール」では動きのあるベース、ギターも真骨頂で、一気に熱量を上げる。そして、ここからはおなじみの人気曲が続き、会場を沸かせる。もちろん遊び心も忘れず、歌川が"大変だ〜、お台場で喧嘩やってる!"と口火を切って「喧嘩」に入り、佐藤が鍵盤で「猫踏んじゃった」を弾くと、ベースがそれを受けるなど、曲の中に和みを挟み、曲間の流れもよく曲を進めていく。

02-musicsketch-20160708.jpg

熱い演奏に見せられる超満員の会場。撮影:福本和洋(MAETTICO)


■ ディズニーの世界のように感じる美しい演出も

曲ごとにメリハリをつけるというより、曲の中での潔いほどの瞬発力があって、とても心地よい。ハーモニーを重視したサビがあるかと思うと、それぞれの演奏の個性で魅せるヤマもある。バラエティに富んでいるものの、最終的には演奏の音量に負けないヴォーカルが際立っていて、そのバランスが見事なのだ。

「Canvas」(Short Ver.)

MCで笑える話を挟みつつ、後半もさらに8曲演奏が続くが、ここではさらに1曲ごとの世界観を大切に展開していく。人気曲の「Canvas」は演奏力もさることながら、その音に負けない歌を聴かせる佐藤。「ナルコレプシー」から「おやすみ」に続くところでは、心地よいSEが流れ(と思ったら、終演後にメンバーに聞いたら、ドラムの歌川がパッドで生演奏していたそう!)、そこから津野がキーボード、佐藤がメトロノームを鳴らし、「おやすみ」へ。その純白ピンライトの照明が佐藤の好きなディズニーの世界のように美しく、最後にメトロノームを止める一瞬までもが映画のようだった。

直後から爆音で「デイドリーム」へ突入し、舞台はグリーンとブルーの照明に彩られ、ハーモニーとともに世界観を広げていき、ちょっとしたギターの音色の余韻にもライトの照度がマッチしていて、その心遣いも素晴らしい。そして名曲「ふやける」は曲名を明かしてから演奏するほど自信に溢れ、赤い照明はもちろんのこと、ドラムの残響音とコーラスの絶妙さなど、存分に見せる。そこからのヒットチューン「KOIKI」「NOW ON AIR」「黄色い花」への持っていき方も、平成生まれの彼女達なりのJ-POPを追究した見せ場となった。

「KOIKI」(Short Ver.)


■ 軽音楽部の先輩後輩で結成した楽しさそのまま

歌と演奏アンサンブルの魅力を活かした音響や照明とのコラボも素敵で、ステージ全体から伝わってくる完成度の高さも流石。そこにはマネージメントやレーベルが変わって気分一新した点も大きく作用していると思う。

「NOW ON AIR」(Short Ver.)

アンコールでは彼女たちの地元を愛とユーモアで歌にした「西東京」を。ここは拡声器を手にした佐藤千明のノリが全開で、しかも同じ高校の軽音楽部の先輩後輩で結成した楽しさそのまま、溢れる笑顔で幕を閉じた。

ミュージシャンのMCも楽しみに来ている観客は多いものの、何より生の演奏で魅了するのがライヴの醍醐味。それを実感させてくれたツアーファイナルだった。会場受付でもらった津野の手書きのセットリストは、バンド愛、音楽愛に溢れたおなじみのもの。サービス精神旺盛ながら、どこかアンバランスで掴みどころのない面も多々ある赤い公園への興味と期待は尽きず、今後の活躍がますます楽しみになった。

03-musicsketch-20160708.jpg

最新アルバム『純情ランドセル』

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。