Music Sketch

エレクトロニック界の新星、SOHNにインタビュー

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今年、思いのほかハマっているのがSOHN(ソン)だ。最初に「The Wheel」を聴いた時は自分の好きなタイプの音楽であることはすぐに確信したけれど、その当時は頭の中をジェイムス・ブレイクの存在が大きく占めていて、今思うと、先入観としてフォロワーのイメージが拭えなかった。しかし、デビュー・アルバム『Tremors』の発売に向けて、次々と新曲がMVと共に発表されていくにつれて、彼の音楽に引き込まれる頻度が増えていった。6月の初来日公演を大成功で終えることができた彼に、その直後にインタビューした。

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本名も年齢も明かさず、故郷イギリスを離れてオーストリアのウィーンへ移住し、活動を続けるソン。Banksの楽曲プロデュースや、ラナ・デル・レイ、ディスクロージャーなどのリミックスも手掛ける。

* * * * *

■ もともとはMUSEのようなバンドをやっていた

―バンド活動をしていたのに、エレクトロニック・ミュージックに興味を持ち、ソロ活動を始めるようになったきっかけを教えて下さい。

SOHN(以下、S):「MUSEのようなライヴバンドをやっていたんだけど、いい感じではなかったんだ。僕は歌とギター担当。なかでも大きな悩みは、ドラムやギターが、レコーディングした時に思うような感じにならなかったこと。それでコンピュータを使うなどして、レコーディング技術を学ぶようになったらイメージ通りの音楽ができるようになり、次第にバンドメンバーが不要になった。今はそれほどまでコンピュータを使ってはないけど、僕の世代はライヴ演奏よりも良い音でレコーディングできたんだ。特にRoland Jupiter-8(アナログ・シンセサイザー)と出合ってから、今のSOHNの方向性になっていった」

―そうしたら歌い方も変わってきませんか? シャウトすることがなくなるとか、緻密に音を構築できるので、やりたい音楽が変わってくるとか。

S:「確かに前はシャウトしていたよ(笑)。ロックだといつもハイ&ラウドだった。でも、ソングライティングとしてのアプローチは変わらなかった」

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瞑想するかのように自分の音楽世界に没頭するSOHN。6月21日、ホステス・クラブ・ウィークエンダーが開催された新木場スタジオ・コーストで。Photo:Kazumichi Kokei


―どういうことを歌っていきたい?

S:「僕の場合は言いたいことがあって歌詞を書くのではなく、無意識に歌うところからメロディができてきて、そこに歌詞を乗せていく。夢の中で書いている感覚というか、メロディが浮かんできたら、まず意味の成さない言葉を乗せて歌ってみる。そのなかでひとつだけはっきりした言葉が浮かんでくることがあって、たとえば最後に"undertow"という言葉が出てきたら、その言葉だけ残して、あれこれセンテンスを繋げていく。そうやって6、7行できた中で、"これは全体にこういうことをいいたい歌なんだな"というのが見えてくる。僕は常に歌詞は響きから入ってくるので、テーマや言いたいことは後付けになることが多い。歌詞というよりメロディだと思っているから、言葉を連ねてひとつのメロディになると良いと思っているんだ。母音とか言葉のどこにアクセントが来るかどうかは、最初の段階では意味合いよりも大事だったりする」
 

2012年11月に発表された「The Wheel」のMV。


■ 出したい音が見つからないから、自分で歌ってみた

―センセーショナルなデビュー曲になった「The Wheel」は、どのようにして曲ができ、リムショットやハーモニーのカットを加えてサウンドをまとめていったの?

S:「最初にひとつの音が決まって、そこから次の音が決まり、自然とシンプルなアイデアが湧き出て曲となり、次にメロディが浮かんでアイデアがさらに膨らみ、歌詞が最終的に完成していく。この曲は、最初にヴォーカル・チョップのアイデアが頭に浮かんだ。そこからどうやってできたかはもう覚えていないけど、何か歌っていたら、"I died a week ago(僕は一週間前に死んだ)"という歌詞が浮かんだ。それから発展してゆっくりとベースラインができて、次第に完成していった」

―建築のように組み立てていく感覚が面白いですね。

S:「建築? そうだね(笑)。指揮者みたいだね。ひとつのピースが来て、次はこっちだ、今度はこっちだ、っていう感じで。(指揮者の真似をしてみせる)」

―ヴォーカル・チョップという表現も面白い。これはそもそもあなたの声が美しいので、そこからハーモニーを構築したのだと思うけど、このアイデアはどこから浮かんだのですか?

S:「出したい音はわかっていたけど、出してくれる楽器が見つからなかった。それなら歌ってしまおうと思ったんだ。実はこの歌の最初にアクシデントがあって、カットアップ用に素材としてこういうのを歌って、タッタカタッタというのを作るつもりだったんだけど、声をチョップしてみたら最初に歌った素材の感じが良かった。人間的な味わいを残していたから、それも使い、そこからカットアップした素材も使って人間味のある響きと並行していくような流れを作った。大事なのは何のコード(和音)なのかわからないけど、とりあえず歌ってみたものを使ったから面白かったんだと思う。もし楽器で音を出していたら、こういう感じにはならなかったと思う」

この曲、特に好き。「Bloodflows」


■ 音楽制作は、理想の自分になるための修錬

―表現者は、生きるために、前に進むために表現していくのだと思いますが、こういう音楽を作ることによって、以前よりも自分の人生を生きやすくなりました? 歌詞も人生を模索するような、哲学的な内容のものもありますよね?

S:「生きやすくはならないけど、もっと自分自身を理解できるようになった。曲を作るというクリエイティヴな作業には個人的な理由があると思うけど、僕が(ソロになって)最初に考えていたのは、情報量を思い切り削ぎ落すことだった。というのも、僕は物凄くハイパーな人間でせかせかしていて、そういう自分が実は嫌いで、もっと落ち着いた、自分がはっきりと見えている人になりたかった。理想の自分を曲で伝えたいと思ったんだ。だから、今こうして自分で全て作る音楽の作業は、ひとつの修練。穏やかで強くて、より直接的でピースフルな人間になるためのエクササイズじゃないかなと思っている」

―故郷を離れてウィーンで暮らすことは、クリエイティヴな活動にはどうプラスになっています?

S:「まず母国語から切り離されたし、オーストリア人とは違う条件で住んでいるわけだから、孤独なところはあるかもしれない。でも僕にとっては良いことで、邪魔が入らないんだよね。しかも僕の背景、親が云々といったしがらみから切り離された。新たな環境にいるから、あくまでここにいる今の自分というところから作っていかなくてはいけない。それが僕にとっては効を奏していた気がする」

「Lights (Live Tremors Tour Video)」ライヴでは2人サポートが入り、ベースやシンセサイザー、ドラムビートなどを担当する。


■ フィジカル部分とマインド部分を関連させていく

―観衆を踊らせる一方で、心に入り込む音楽を試みている気がしますが、自分自身意識していることは?

S:「その今言っていた、フィジカルな部分とマインドの部分の要素をそれぞれ別のものに分けてほしくない。僕はそう思って意識的にやっているよ。かつてレディオヘッドがとても好きで、音楽というのはシリアスなものだと感じ、そしてマイケル・ジャクソンも大好きなんだけど、自分の中では分け隔てていた時期があった。でも、愛もセックスも哲学も関連し合っているように、どれかひとつを無視することは生きていく中で不可能なんじゃないかと思う。フィジカルな部分とマインドの部分の関連性は否定すればするほどくっついてくる、否定し切れないものさ」

―そこまで強調するのは何故?

S:「僕が育った環境というのは、お互いハグをしない環境だった。しかめっ面をしがちな環境だったので、僕もどちらかというと頭脳というか理論先攻で、身体はあとから付いてくる、みたいな考え方が当然な社会で育ってしまった。でも愛は理論で語れるものではないし、その肉体的なインタラクションも理論で語れるわけではない。結局人間だって動物なんだ。動物であるということで言えば、そこは分けて考えられないのさ」

人気の高いナンバーの一つ。「Artifice」


―最後に、このアルバム・ジャケットを選んだ理由を教えて下さい。

「最初はイメージはなく、色だけ浮かんでいた。氷の中に少し赤が欲しいけど、どういう赤が良いのかわからなくて。Flickrで好きな写真家のものばかり見ていた時に、これを見つけて驚くべき感動を得て、僕のアルバムにちょうど良いと思ったんだ。Carla Fernández Andradeの写真で、もしダメって言われたら一生後悔すると思ったけど、OKがもらえた。カラートーンが完璧だし、ひとりで旅していて、自然にブロックされていて、行けるのか行けないのかわからない、でも自然には敵わない極限まで行こうとしている写真なんだ」

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デビュー・アルバム『Tremors』


* * * * *
雑談部分は省略してしまったけれど、SOHNは会話の随所にとてもユーモアがあり、それがサウンドプロダクションにも表れていると感じた。5年前にウィーンへ移住したといい、最初はジェイムス・ブレイクと比較されることなどが嫌だったのかと勝手に想像していたが、彼の育った環境について自ら語ってきた時に、家庭環境を含め、よほどそこから解放されたいことがあったのかな、と思ってしまった。そして、ポップスやロック、R&Bも好んで聴いてきた彼のメロディラインは親しみやすく、遊び心と実験性の強いサウンドスケープも聴くほどに発見がある。この一瞬にして空気感を変えて深遠でクールな世界に誘導する音楽は、今や呼吸するように欠かせないものになってしまっているほどだ。

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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