Music Sketch

傑作『X』を発表したエド・シーラン、最新インタビュー

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『フィガロジャポン』本誌でも何度かご紹介しているエド・シーラン。ボブ・ディランとエミネムの大ファンであり、ジャンルを超えて好きな音楽をアコースティック・ギターでの演奏に収束してきた彼は、自主盤EPを5枚発表してからメジャーデビューし、大ブレイク。その才能は彼のマネージメントを担当している会社のボスのエルトン・ジョンをはじめ、多くのミュージシャンが絶賛しています。最新アルバム『X(マルティプライ)』について、先日インタビューできたので、ご紹介します。

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エド・シーラン、23歳。父親がアイリッシュなので、彼も赤毛が特徴。

■ 僕自身がずっと聴いていたい曲を選んだ

― 1stアルバム『+(プラス)』を発表してからの約2年半は、2012年のイギリスの音楽賞BRITS AWARDで男性ソロ部門と新人賞を受賞、その直後からスノウ・パトロールとの北米ツアー、2013年には テイラー・スウィフトとの北米ツアー、そしてマジソン・スクエア・ガーデンの単独公演が3日間ソールドアウトするなど、本当に忙しい年でしたね。一番印象的だった出来事は何ですか?

エド・シーラン(以下、E):「ここ3年間の最もハイライトとなったのは、もっと若い時に抱いていた夢、達成できるなんて思ってもいなかった素晴らしいことを実現させることができた。全部がとてもうまくいったんだよね」

― 『X』に向けて120曲ほど曲を書いたそうですが、そのなかから収録する曲を決めた基準は何だったの?

E:「とにかく何度も聴き直すことに尽きるね。2回聴いた後に自分で辟易してしまうのはどの曲なのか、そして500回聴いても飽きないのはどの曲なのか、ということを考えた。僕はこれらの曲を何度も演奏していかなければならないわけだから、自分自身がずっと聴いていたいと思う曲を心がけて選んだ」

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多いときは1年間に312回ライヴをやってきたほど、歌うのが好き。観客を自分のペースに巻き込むのも上手。以下、2012年3月@代官山UNITでのライヴ時の写真。

■ 「Sing」は観客に参加してもらうための曲

― プロデューサーにリック・ルービン、今大人気のファレル・ウィリアムスを選んだ理由を教えてください。

E:「"ぜひ一緒に仕事をしたい"と、ふたりにこちらから頼むつもりではなかったんだ。僕なんかと仕事をしてくれるとは思ってもいなかったからね。ところが両者とも、突然どこからともなく浮上し、僕に興味を持ってくれた。だから、この機会を逃す手はないと思ったわけさ。両者ともとても才能豊かな、実績のあるプロデューサーだからね」

― 彼らと作業してみて、自分の新たな面が引き出されたと思うところがあれば教えてください。

E:「ファレルとは一緒に仕事をしてみて、将来、音楽的に進んでいくことができる新たな道の数々が切り開かれたと感じるね。そして彼はまた、僕に『Sing』という、僕のこれまでの曲の中で最もビッグなヒット曲をもたらしてくれた(笑)。リックからは再びエネルギーをもらったと思う。というのも、彼がやって来た頃には、僕は気持ち的にあまりこのアルバムに入れ込んでいるわけではなかったから。あまりにも長い期間をかけて作業を続けて来たからなんだけど、彼が不必要なものをすべて削ぎ落して、僕を演奏することだけに集中させてくれた。そういうやり方でやるように促してくれたんだ」

エド・シーランがブレイクするきっかけになった「The A Team」

― ファレルと知り合ったのは、ツイッターがきっかけだったとか。

E:「そう、彼は僕の曲『A team〜飛べない天使達〜』についてツイートしてくれた。グラミー賞授賞式でたまたま僕は彼の前の席だったから、挨拶をしたら、そこで彼は"一緒にスタジオに入ろう"と言ってくれたんだ。彼はとてもソウルフルで思慮深い人で、彼が言うことはすべてぐっと心に訴えるようなことばかりだ。とても明瞭だし、才能溢れる人だね」

― あなたが弾いていたギターのカッティングを気に入って、ファレルが「ずっと弾き続けてみろよ」といったところから「Sing」が生まれたそうですね。この曲はミュージックヴィデオも含めて楽しめるし、コンサートでハイライトとなる曲ですよね?

E:「オーディエンスに参加してもらうのが目的の歌なので、みんなにこの曲に合わせて一緒に歌ってほしい。コンサートで演奏されるべき歌なんだよ」

世界的に大ヒットした「Sing」。ファレルも登場する。

― この曲が完成したことで、何か変わってきた部分はあります?

E:「もっとファンキーでR&Bの音楽を作っていくという新たな方向性へと広がっていったと思う。人々から僕のことをはなからアコースティックのシンガー・ソングライターだと決めつけられるということがそれほどなくなったと思うよ。どういうレッテルを貼ったらいいかわからないくらいが、僕にとっては良いことだね(笑)」

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ステージ上でもオフでも変わらない、フランクな人柄も人気。

■ 自分に自信のあることを実験していく

― より実験的な側面を引き出せるようになったということ?

E:「将来、ある時点ではね。実験的なことをやろうとすると、大概自分ではそれほど自信がないようなことを試すものだけれど、僕の場合は自分に自信があることをやろうとするんだ」

― 「Don't」は2ヴァージョン試して、結局リックとベニー・ブランコと一緒に仕上げました。これは最初シングル候補だったそうですが、特に気に入っている部分はどこですか?

E:「2種類のプロダクションでやったんだけれど、リックのヴァージョンはライヴ録りした、モーグ(アナログ・シンセサイザー)でやったベースがコーラスへと導いていくというもの。これは素晴らしいと思ったね。この曲の中で僕が最も気に入っている箇所だ。一方ベニーのはポップのセンスがあり、よりラジオ的なサウンドなった。それからドラムもよりクールなんだ。リックのヴァージョンではドラムの音は僕のギター(を叩いて)でやったからね。そういうわけで、それぞれのキーとなる要素を組み合わせれば、とてもクールなサウンドとなると思って、実際にそうなったよ」

レコード会社を批判した歌という「You Need Me, I Don't Need You」。ループペダルを使ったパフォーマンスも特徴で、ライヴでは4分ほどの曲が軽く10分を超えてしまう。

― 以前インタビューした時に、「恋愛の歌は書きやすいけど、怒りについての歌は時間をかけて歌詞を練る」と話していました。「Don't」や「Take It Back」を歌にし、ここに収録しようと思ったのは特に理由があるのでしょうか?

E:「恋愛の歌が憎しみや怒りの歌よりも書きやすいというのは、正直言って、恋愛の歌の方が韻を踏むというのがやりやすく、それほど深く言及せずに言いたいことを伝えることができるからさ。例えばあまり希望がないような意味合いのことを歌うと、人々はそれに共感してくれる。ところが怒りについての歌だと、単刀直入に自分がなぜそう感じるのかを言わないといけない。そういうわけで、『Don't』や『Take It Back』がなぜこのアルバムに収録されたかというと、少し時間が経ったけれど、その時に実際に僕が感じていた気持ちを言い表しているからなんだと思う」

― 「I See Fire」はとても美しい楽曲ですが、ニュージーランドへ行って、『ホビット 竜に奪われた王国』の映画を見てからすぐに書いたそうですね。どのようなイメージで曲をまとめていったのでしょうか。

E:「何にインスパイアされて書いたかというと、この映画そのものを観たという体験。ストーリーを捉え、ドワーフの王の一人トーリン・オーケンシールドが、山の上でその瞬間、竜が飛びまわりながら辺りを破壊している様子をどのような思いで見下ろしていたのかというのを、表現したかった」

映画『ホビット』シリーズの2作目『竜に奪われた王国(The Hobbit:The Desolation of Smaug)』の主題歌「I See Fire」

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音がいいことと弾きやすいことから小さめのギターを愛用し、全てに女の子の名前を付けている。無類の猫好き。

■ 『X』では、これまでのことを何倍にもしたい

― アルバムタイトルを『X』にした理由を教えて。

E:「1stアルバムのタイトルは『+』で、それまでのインディペンデントでのリリースすべてにプラスするものという意味合いだった。本作『X』ではそれまで『+』でやったことを基にして、それを何倍にもするというつもりだ。つまり、曲のアイデアももっとビッグなものとなり、プロダクションもより大きく、ファン、ライヴ会場などすべてをよりビッグにしようというわけだ」

― このアルバムで、今の気分で一番お気に入りの曲はどれですか?

E:「『Thinking Out Loud』がこのアルバムの中でのお気に入りだね。一番最後に書いた曲だから、きっと僕の中で一番新鮮なんだろう。直球のラブソングでブルー・アイド・ソウルといった感じさ」

『X』より、「Thinking Out Loud」。音源のみ。

― どんなに売れても変わらないスタンスで活動していますが、ゴシップやパパラッチなど関係なく、自分らしさを見失わず、自分のペースで日々過ごしていく秘訣は何だと思いますか?

E:「変わらない秘訣というのは、イエスマンばかりが周りにいるのではなく、ちゃんとした意見を言う人たちに囲まれているということだと思う。僕の場合は、まずい状況であれば僕に対してはっきりとそう言ってくれる人に囲まれている。それから僕は、学校の時の友達ともよく一緒に遊ぶし、家族にもしょっちゅう会っている。TVやラジオのインタビュー、もしくはレコード会社に行った時などには、みんなから"僕の音楽を気に入っている"と言われるけど、僕の周りにいる人たちには謙虚な気持ちにさせられるものだよ」

『X』より、「Bloodstream」。音源のみ。リック・ルービンがエドの素のままの演奏を引き出している。

― メジャーデビューを果たし、世界中で大成功をおさめましたが、ストリートでの経験は役に立ったと思いますか?

E:「1stアルバムがリリースされるまでに僕がやってきたこと全部が、僕のキャリアの助けとなり、僕を地に足がついた人間にしてくれた。パフォーマンス面、ソングライティング、ギターの演奏能力や歌唱能力、観客との一体感といったそれ以降僕がやってきたことすべてが、たとえそれがネガティヴなことだったとしても、良い勉強の機会となったね。でも、もうやりたいとは思わないな。僕が常に自分のキャリアを広げていきたいと思うのであれば前進していたいから、音楽活動を始めた頃のストリートやクラブに戻るというのは全く意味のないこと。たまにプロモーションのために、1回きりのショーを小さな会場でやるのはいいけれどね」

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シンプルに、ひとりひとりに親密に語りかけてくるような歌が心に響く。

― 過去に3回日本に来日していますが、何か印象に残った出来事や思い出はありますか?

E:「東急ハンズというデパートだね。とにかくとってもクールなものを売っているから、かなり長い時間過ごしたよ。特にUSBに差し込むと犬がコンピュータに向かって腰を振るおもちゃは結構気に入った(笑)。あと、一番好きな食べ物は寿司なんだ。それからチキンカツカレーもね。日本食は僕が一番好きな食べ物なんだ。大好きだよ!」

― 日本のファンにメッセージをお願いします。

E:「日本で僕の音楽を気に入ってくれてどうもありがとう!もうすぐまた日本に行くよ。いくつかのショーをやる予定なので、僕の音楽を気に入ってくれるみんなにはきっと楽しんでもらえると思う。僕の音楽のファンではなくても、気に入ってもらえるなにかを見つけてくれるかもしれないよ。そこで会えると嬉しいな。ありがとう!」

2万人の大観衆もひとりで盛り上げてしまうエド・シーラン。Big Weekend 2014のステージより。

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最新アルバム『X(マルティプライ)』


最後に、このCDの日本盤の解説原稿を書かせていただいたのですが、音源や資料が届いてから時間のない中での作業だったため、直せていなかった箇所がいくつか発覚し、ここに訂正しておきます。エドがワン・ダイレクションに提供した曲は正しくは「Little Things」、UNITでの来日公演は2012年3月、ジェイク・ゴスリング→ジェイク・ゴズリングになります。

天才肌のエド・シーランのパフォーマンスは、本当に楽しく、心の奥底までストレートに音楽の魅力を届けてくれるものです。ぜひ機会があれば、足を運んでいただきたいです。


2014/8/6 (水)
大阪 BIG CAT(Sold Out)
OPEN 18:00 START 19:00
●問い合わせ
SMASH WEST
Tel.06-6535-5569

2014/8/8 (金)
新木場 STUDIO COAST
OPEN 18:00 START 19:00
スタンディング 前売り:¥5,800(ドリンク代別)
●問い合わせ
SMASH
Tel.03-3444-6751

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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