わざわざ行く理由がある、東京シークレットストア4軒。 服とインテリアが共鳴し合う、羽根木の「08book」。

Interiors 2016.12.22

日々の欲しいものや必要なものは、家にいながらインターネット経由で簡単に手に入る。だからこそ、モノとの出合い、ヒトとの出会いの価値を見直したい。都内に点在する厳選4軒の、わざわざ行きたくなる理由とは? 最後は、羽根木の住宅街にある「08book」。

「08sircus(08サーカス)」のデザイナー森下公則氏がアトリエショップをオープン。しかも場所は世田谷区羽根木……。そんな情報を得て、「アクセスの悪い店ほどこだわりがあっていい店だ」という持論に自信があった私の期待値はみるみる上がった。

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共通の美意識で貫かれた、
服とインテリアの邸宅へ。

実際に訪ねてみて、まずその立地と門構えに驚いた。京王井の頭線の東松原駅から徒歩5~6分。閑静すぎる住宅街のなかに、「08book(ブック)」は豪邸のひとつとして存在していた。1980年代、かつてはちいさな森だった場所を、外国人用のモダンな邸宅として自然と共存するように建てられた物件だ。

どの窓も立派な大木を望み、どの方角からも自然光がたっぷりと注ぎ込む。そこにいるだけでパワーがみなぎってくるようなこの場所に、「08sircus」のアトリエを移したのが2014年のこと。メンズ・ウィメンズともに、日本だけでなく海外での評価が高まるなか、「服屋の概念を外れた、何か新しい店を作りたい。」というオーナー森下さんの想いが募り、1階と庭を改装して今年2016年4月にオープンさせた。

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季節の移り変わりを感じることのできる大きな窓。マイケル・アナスタシアデスの照明¥183,600 

とにかく美しくレイアウトされた店内。まるでここだけ時間がゆっくりと流れているかのような、そんな気にさせられるほど、空間を贅沢に使っていた。白、黒、真鍮、そして木や石。すべての色や素材がやさしく溶け合っている、緻密に計算された空間だった。

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有機的なものと無機的なものが融合するディスプレー。(左)カール・オーボックのチェーンのペーパーウェイト¥30,240、(右)グラスに置いて植物を育てることができるマイケル・アナスタシアデスの水耕栽培用の真鍮オブジェ・左¥19,440(disque)、右¥21,492(corn)

スタイリスト二村毅さんを相棒に、ヴィンテージ家具やアート、クラフトなど、国内外問わず幅広くセレクト。オーナーがかねてより自宅の家具を購入していたという中目黒のインテリアショップ「HIKE」の須磨光央さんもディレクションに加わった。アートブックや古書はlimArtの中島佑介さん。希少なヴィンテージのセラミックはELEPHANTの吉田安成さん。京都から買い付けた大杉を中心に、石や芭蕉を配した風情ある庭を作り上げたのは、Plant's Planet Garageの西川かをりさん。業界の垣根を越えた日本版アベンジャーズとも呼ぶべき、錚々たるメンバーが勢揃いした。

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計算し尽くされたレイアウトは、どこかポエティックな雰囲気が漂う。FLOSの照明¥159,840

服もインテリアも空間も、すべてが共通する高い美意識で貫かれていた。着てみないと似合うかが分からない服があるように、インテリアも置いてみないと分からない。気に入ったインテリアを見つけると、店に置く前に自宅に置いてみて、生活に馴染んでしっくりするかを試してみる。すべてのものがその過程を経ているわけではないが、そんなひとつひとつの物や作家に対する真摯な姿勢は店内の美しいレイアウトに滲み出ている。

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無造作に置かれたドライフラワーやオブジェにも店作りのこだわりの深さを感じさせる。熊谷幸治の土器のオブジェ各¥32,400

そもそも、店名「08book」の由来は、後世に残していける価値のあるもの(=本)を作りたいという想いから命名。「08sircus」と同じ「08~」から始まるのは、「08sircus」の服と同じ美意識を共有しているからこそ。ここは、服と、その服のまわりをイメージした空間なのである。

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2016AWシーズンより、さらなる進化を遂げてカムバックした「Kiminori Morishita」。

「08book」に並ぶ服は、「08sircus」以外にもうひとつ、デザイナー自身の名を冠した「Kiminori Morishita」がある。以前はパリでコレクションを発表し、一時代を築いたブランドが約8年ぶりに2016年秋冬シーズンより復活。時代に合わせてユニセックスな服として進化を遂げた。パッチワークのレザーブルゾンやビッグシルエットのファーコート。どれもディテールや縫製に手間をかけたラグジュアリーなアイテムばかり。国内ではこの店だけの取扱いということもあり、数少ないレアなアイテムを求めて昔からのファンが足を運んでいる。

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アメリカ人作家のリー・ヘイルによる、バラの棘をイメージしたブロンズのオブジェ。¥22,680~

モダンでミニマルな照明を手がける注目のデザイナー、マイケル・アナスタシアデスや、オーストリアの工芸家であるカール・オーボックなどのアイテムを数多く揃える一方で、若手の日本人作家の作品のセレクトにも並々ならぬこだわりがある。

金属の作家である渡辺遼や陶芸家の安齊賢太、土器や土偶を作る熊谷幸治など、知る人ぞ知る日本の若手作家たちの作品も取り揃え、北欧を中心とした海外の名作家たちの作品と見事な調和を奏でている。

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店の看板犬を務める、オーナー森下さんの愛犬むぎ。タイミング良く訪れれば会えるかも。

オーナー森下さんは、服と同じ感覚と美意識でインテリアやアートを見つめている。とはいえ、自分の好みにマッチするものだけでなく、スタイリストの二村さんやこの店を作っているチームのメンバーたちと議論を重ねて取捨選択をしている。店を客観的に見て、「もう少し黒を足してみようか」などという抽象的な提案もこのチームであれば理解し合える。

作家に店まで足を運んでもらい、想起したものを作ってもらう。そんな別注の作品を作ってもらう試みもしているが、すべてがまだ実験的な段階。オーナー森下さんは「いいね!と思えるまでに数年かかるかもしれない」と話す。その眼差しの先には、一体どんな最終形態が見えているのか。

服とアートとインテリアが互いに刺激し合って、進化し続ける店。オープンしてまだ1年に満たないこの店は、長年ファッション業界で研鑽を積んできた森下公則が見据える、次世代の店のかたちなのかもしれない。

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08book/ブック

東京都世田谷区羽根木1-21-12 Hanegi IGH Forest House #Q
tel. 03-5329-0801
営業時間:11時〜19時
定休日:月~水
http://08book.jp/

★12/29~1/19はコレクション準備のため休業。

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photos: YUTO KUDO

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