関係を呼び寄せる場、「call」。
皆川 明さんインタビュー(後編)

デザイン・ジャーナル

ミナ ペルホネン(minä perhonen)による新しい店が、青山のSPIRAL(スパイラル)5階にオープンしました。

名前は「call(コール)」。「日本からも海外からも、新しいものも古いものも、手づくりのものも工業製品も、生活にあると心地よいと思うさまざまなものを呼び寄せて紹介したい」との考えが込められています。さらには「creation-all」(クリエイションのすべて)の意も。皆川さんが出会った多くのプロフェッショナルな仲間たちとものをつくり、紹介していく場です。

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Photo: Kazuhiro Shiraishi, Courtesy of minä perhonen

 

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Photo: Masahiro Sanbe, Courtesy of minä perhonen

 

ショップではアルネ・J・ヤコブセンがデザインしたドロップ・チェア(フリッツハンセン社)など皆川さんの好きな家具もミナ ペルホネンの生地張りで購入できます。callのためのリチャード ジノリのプレートにも出会えました。ジノリ社のアートディレクターを務めていたジオ・ポンティが最も好んだというシンプルなプレートに現代のマエストロが手描した藍色の柄の魅力的なこと……! イタリアでも販売されていない貴重なものです。

280年の歴史をもつジノリの制作環境は変えることなく、まだされていないことで何ができるだろうかと考えました。装飾的ではなく日々食材をうけとめてくれるプレートに、マエストロが手描きで書くのはどうかと。細かな作業で高額なものになってしまうと皆さんに喜ばれるものにはならないので、そうではないものにしたかった。通常の量産品にマエストロが手描することはないのですが、シンプルながらも異なる表情の、楽しい皿をつくれないかと考えたものです」

「ただ、彼らの普段の仕事をじゃましてはならないので、毎朝、工房に来たときに必要とされる手ならし、筆ならしをしてもらうのならマエストロも楽しいのではないかと……。裏には彼らのサインも入っているので、毎日使いながら、これはジョヴァンニのつくったプレート、などと(笑)、ストーリーも感じていただけます。特別でありながらも大層ではないこと、誰でも手にできて、けれど今までになかったことではないかと思います」

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Photo: Kazuhiro Shiraishi, Courtesy of minä perhonen

 

かつてない依頼を受けて楽しいとまどい(笑)を味わうマエストロの姿を、ふと想像しました。セストフィオレンティーノの工房における皆川さんと彼らの会話の温かな空気も、伝わってくるようです。

「『アキラはきっとこんなことを望んでいるのだろう』という話をしていたらしいです(笑)。……リチャード ジノリとの仕事は2011年のスペシャルエディションから始まっていて、昨年もマエストロと何日か過ごし、食事も一緒にしていたのでこの相談をしてみたのですが、このように人間関係のうえでできるものづくりの可能性は今後も重要ですし、ものの良し悪しでだけはなく、多くのひととの関係性から生まれるものづくりや表現を、callでは紹介していきたいと思っています」

その関係性がなかったら生まれなかったものたちと、私たちの出会いの場。古今東西さまざまなもの、関係を「呼び寄せる」、「call」の醍醐味です。

そしてもうひとつ、カフェとは別に食品、食材を扱う「グローサリー」にも触れておきましょう。お米や味噌から有機食品の野菜、ジャム、ハーブティ、ワイン。ハーブのブーケも。壁には「安全で生命力に満ちた、無農薬の野菜や愛情がたっぷり注がれた食材をお楽しみ下さい」との文字があります。アトリエで、「まかない」としてスタッフに手料理をふるまうこともある皆川さん。食材への想いも気になるところです。

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「きのうも食器を選ばれたお客様に、この皿にはこんなお料理があいますよね、お肉にはこのペッパーがあいますよ、とお話しをさせていただいてレシピも話していたところです」と皆川さん。 Photo: Masahiro Sanbe, Courtesy of minä perhonen

 

「食材を扱うことも自分たちの気持ちとしては自然なことでした。材料を吟味し、技術や労力を惜しまずつくることと、食材をつくることや料理をすることはつながっていて、同じ目線で語ることができます。まずは、米、みそ、塩といった基本的な調味料を揃えるのが大事だと思いました。また、お客様に買っていただくだけでなく、カフェ『家と庭』と連動させることで、野菜をはじめ、むだなく活かしていけるという点もあります」

「小規模ながらも良い生産者は日本に限らず世界中にいて、それはファッションの世界にも近い状況です。小規模ゆえに流通が難しかったり、規模が小さいので近所での消費に留まっていたりして、知ることが難しい食材もありますよね。無農薬で安全な食材という点に加えて、そうした生産者を紹介できる場でありたいと思っていました。自分ひとりでは難しいので、店鋪の設計を手伝ってもらった中原慎一郎さんに協力していただいています」

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Photo: Noriko Kawakami

 

話をうかがいながら、私は、callに最初にうかがったときから頭のなかを巡っていた「時間」の大切さについて、さらに考えていました。時間を費やしてつくられるもの、伝えられてきたもの。これからも大切にしていかなくてはらないもの。それら忘れてはならないことに触れ、考え続ける時間もまた重要だということ……

「僕も時間に関しては思うところがあります」と皆川さん。時間は、長さでいえば有限ですが、深さでいうと無限だなあっていつも思うんです。1時間は1時間ですが、自分の人生をどう過ごすかで、人生に対する深みは、どのようにもなっていく。ものに含まれる時間、使っていく時間も、どれほど深くなっていくのか。それに値する対価がどうであるのか……

「ものの適正な価値も、時間をぬきにしては考えられないと思うのです。僕が愛用するソファで、callでも扱っているハンス・J・ウェグナーのベアチェアがあるのですが、昨年、デンマークのPPモブラー社を訪ねてクッション材の構造や馬の毛を用いた製造の現場を目にし、繰り返しリペアができること、使うほどに風合が増していく様子を実感しました。そこに自分たちのファブリックを張ることで、同じ想いを重ねられると考えています」

callに貫かれている深い視点を感じます。

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Photo: Masahiro Sanbe, Courtesy of minä perhonen

 

「本当にすばらしいものは、長く使っていけることで、いわゆる貨幣価値だけでは計れないものになっていく。何十年という時間の長さが、いわゆる貨幣価値を解放していって、使う人の満足と同時に、価値そのものが熟成するような不思議な段階があるんです。callで扱うものを選ぶ際に僕たちが大切にしているのは、この先も長く存在するものであること、そのものを使う方の人生において満足してもらえる時間となること。そのことが、僕たちにとっても喜びです」

「土台や環境をつくるのが自分の役割」。皆川さんが以前に口にされていたことばが、この日の話に重なりました。callとは、1995年から20年以上となるミナ ペルホネンの活動のなかで考えられてきたことや、育まれてきた多くのひととの時間が凝縮された場。それもこの先の時間にしっかり目を向けながら。

だからこそ、私たちが大切にしなくてはならない多くのことを気づかせてくれると同時に、なんともいえない温かな空気を味わうことができるのだと思います。

 

call
東京都港区南青山 5-6-23、SPIRAL5階
TEL 03-6825-3733
11:00-20:00(カフェのラストオーダーは19:30)
無休
http://www.mp-call.jp

川上典李子 Noriko Kawakami

ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行なうほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp

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