「アート&デザイン」を名にもつ美術館が誕生

陽ざしが温かな季節になりました。春の旅行を楽しむ読者も多いのではないでしょうか。今回は、北陸を旅する方にはとくにお伝えしたい、アート、デザインの新しい場所を紹介します。3月末に一部開館となる「富山県美術館」(TAD/Toyama Prefectural Museum of Art and Design)です。

1981年に開館し、20世紀美術の充実したコレクションをはじめ、瀧口修造さんにちなんだコレクションやポスターや名作椅子のコレクションでも知られた富山県立近代美術館の理念を受けつぎ、発展させた、新しい美術館。今回は、同館に関するデザインそのものについてフォーカスしましょう。

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開館を伝えるポスターのデザインは佐藤 卓さん。「楽しそうで、不思議で、どんな美術館になるんだろう? という未完成なイメージを大事にしました」。© Toyama Prefectural Museum of Art and Design

豊かな自然や受け継がれてきた伝統産業に加えて食の楽しみもある富山。私自身、デザイン、クラフトの取材で訪れるたびにすっかり富山のファンになってしまったひとりです。先日も富山市と高岡市で、ガラスや木工、漆塗りや螺鈿、金属加工など、この地ならではの素材や技を活かした作品にとりくむ若き作家たちにお会いしていたところです。

このように訪ねるたびに楽しい驚きに満ちた地に誕生する施設であるということに加えて、「アート&デザイン」を掲げ、「アートとデザインをつなぐ美術館」という点でも期待がふくらみます。

まずは3月25日、美術館の一部であるアトリエ、レストラン(日本橋たいめいけん 富山店)とカフェ(Swallow Cafe)がオープン。続いて4月29日、「オノマトペの屋上」が開園に。展覧会の開幕は8月26日。開館記念展として、「LIFE — 楽園をもとめて」が予定されています。

美術館の設計を手がけたのは内藤 廣さん。「チーズを切ったような」と本人が表現されている建物のユニークな姿は、プロムナードである富岩運河環水公園や背後にそびえる立山連峰などを大切にしたもの。

「屋上から周囲に目を向けると環水公園が広がり、立山連峰も一望できるすばらしいロケーションです。景観を最大に活かしながら、訪れた人が作品と向きあったときにどのように時間を過ごすのかを思い描き、設計イメージを組み立てました」と内藤さん。

周囲の風景が望めるように建物東面は広くガラスばりに。氷見市の杉や地元産業の基軸のひとつであるアルミニウムの素材が各所に活かされるなど、富山ならではの建築設計が考えられています。

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展示空間は2、3階に。立山連峰を背景とするホワイエの吹き抜け空間では、コンサートやトークショーなどのイベントが行なわれます。Photo: Courtesy of Toyama Prefectural Museum of Art and Design

ロゴマークは、永井一正さんのデザイン。美術館についての記者会見の日に、永井さんは美術館への想いを語ってくれました。

「富山県立近代美術館で1985年に始まり、30年続いている世界ポスタートリエンナーレトヤマのポスターを担当してきたこともあり、強い思い入れのある美術館です。また、ポスター収蔵でも世界に知られている美術館です。美術館の理念を継承しながら、飛躍する美術館でありたい、未来に発展していくようにと、デザインしました」

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T(富山)、A(アート)、D(デザイン)のシルエット。Dは富山湾にもなぞらえています。美しいブルー! Design: Kazumasa Nagai

屋上も同館の大きな特色。グラフィックデザイナーの佐藤 卓さんのデザイン監修で、他にはない遊び場がつくられるのです。

美術館が建てられたこの場所にはこれまで子どもたちに人気の遊具「ふわふわドーム」がありました。それを美術館屋上に移すと同時に家族で楽しめる遊具を設置するとの計画を受けて佐藤さんが発想した名が「オノマトペの屋上」。そして遊具の名は、ふわふわ、ぐるぐる、ひそひそ、ぼこぼこ、うとうと、ぷりぷり……!

「楽しい遊具をつくるという発想ではなく、楽しい擬音語、擬態語(オノマトペ)を考えたうえで遊具をデザインしました。日本はオノマトペが豊富な国。日本ならではの感受性の豊かさも表現したいと思ったのです」

そういえば今回最初に掲載している美術館のポスターでも「きゅんきゅんきゅん」とオノマトペが活かされていますね。

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4月末に完成するオノマトペの屋上。「他にはない発想で楽しい空間にできないだろうかという想いが、屋上のアイディアにつながっている」と佐藤さん。その遊具の制作風景の写真をデザイン・ジャーナル読者に特別公開してくれました! Photo: Courtesy of Taku Satoh Design Office

madame Figaro.jpの読者の皆さんなら、スタッフのユニフォームも気になるところではないでしょうか。こちらのデザインは三宅一生さん。「富山の自然や文化を改めて勉強し、その爽やかな風と光をとり込みたいと考えました。開発から進化させてきたプリーツプリーズの技術やA-POCのエンジニアリングなど、最先端を結集しています」

斜めのプリーツによって、歩くとふわりと軽やかに風をはらむデザインです。赤、青、黒、白、グリーンと、5つもの色が用意されていることにも驚かされます。秋冬のユニフォームとして、A-POCを発展させた無縫製のジャケットも用意されています。

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プリーツジャージィーのユニフォーム。円形でかたちづくられたデザインで、動くと軽やかに風をはらみます。秋冬にはジャケットも。© 2017 ISSEY MIYAKE INC.

世界が注目する建築家とデザイナーが集結したアート、デザインの新しい場。関わった皆さんの、今回のデザインに関することばをもう少しだけ添えておきます。

マークは複雑なものよりシンプルなものがよい、と述べていたのは永井さん。「シンプルな造形ほど、少し見方を変えて見たときの発見や、込められた意味を知ったときに『なるほど!』と思うような豊かさを持っています」

「ここから新しい風を起こしたい。そういう気持ちが伝われば、とつくったユニフォームです」と三宅さん。「この美術館の大きな特色は、目に見えないさまざまな体験ができるということ。本当に大事なのは目に見えないもの」と内藤さん。

作品と対話し、深く思いを巡らせる時間など、さまざまな時間が広がっていくのが美術館の醍醐味ですが、ここではどのような出会いが待っているでしょうか。私も、ドキドキきゅんきゅんきゅんしています。

富山県美術館(TAD)
3月25日、レストランとカフェ、ミュージアムショップがオープン。
展覧会開幕は8月26日。
富山県富山市木場町3-20
TEL 076-431-2711
http://tad-toyama.jp

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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