うつわディクショナリー#02伊藤聡信さんの色、いろいろ
うつわディクショナリー 2017.02.22
やさしい色と柄のいい関係
伊藤聡信さんといえば、ふんわりとした花柄のうつわが大人気の陶芸家。ほかのどの作家とも違うやさしい絵付けと使い勝手のいい形、一度使ったら手放せない作品作りのルーツを聞きました。
—伊藤聡信さんといえば、印判の色絵のうつわが印象的です。印判をはじめたきっかけは何だったのですか?
伊藤:印判というのは、焼物の技法のひとつで絵柄を彫ったハンコを用いてうつわにスタンプを施し模様を描いていくものです。僕が参考にしたのは江戸時代のこんにゃく印判などですが、最初からそれをしていたわけではありません。もともと美大で陶芸に出会いオブジェを中心に作っていました。でもそれだけではなかなか食べていけなくて。そんなとき2001年の芸術新潮の特集記事『骨董の目利きが選ぶ ふだんづかいの器』(のちにとんぼの本として書籍化・新潮社刊)に出会ったのがきっかけで、うつわを作ることに興味が出てきたんです。その本の中で西荻窪の「魯山」というお店の店主の大嶌さんという方の語りが面白くて。白磁のうつわを試作してその店を訪ねました。そうしたら「白磁に興味があるなら、印判とひき打ち(ろくろでひいた土を石膏型にのせ成形する方法)をやってみないか」と言われて。印判はそれからずっとやり続けています。
—印判での制作が楽しかったんですね?
伊藤:美大で版画をやったことがあったので、ハンコを作る要領はすぐに分かりました。印判の面白いところは、いろいろな具象を自由に組み合わせられることです。例えば、この染付の片口は、中央にダリアのような洋風の花型を押し、そのまわりに東洋の蓮の花弁のようなものを大小重ねて、西洋と東洋の具象を織り交ぜています。6個作ったんですが、全部違う組み合わせにしました。柄にしても色使いにしても、いろいろなものを作りたいというのが常にありますね。その中から、お店の方や使う人に好きなものを選んでもらえたらと思っています。
—うつわ一面に鮮やかな黄色を施したプレートにハッとしました。新鮮です。
伊藤:これは、淡路島に伝わる珉平焼(淡路焼ともいう)を参考にして作りました。骨董店で見かける珉平焼は鮮やかな黄色やグリーンが特徴で、龍の意匠が施してあるものが多いんですが、あるとき、それがない無地のものを見つけてとてもいいなと思ったんです。そこで、その色をイメージしてオリジナルで釉薬を調合しました。黄交趾釉と呼んでいます。
—形は、ヨーロッパの食器のようなオクトゴナル(八角形)のリム皿ですね。
伊藤:印判が自分の強みというか特徴と思えるようになってから、形は、国を限定しないで作りたいと考えるようになりました。絵付けの陶磁器は、中国にもベトナムにもヨーロッパにもあります。古いものを見て学び、そこから得た文様を印判として具象化したり、ヨーロッパのアンティーク食器のような白を出してみたり、文様、色、形を自分の中で自由に“組み替えて”楽しみながら作品にしています。
—そうしてできた伊藤さんのうつわは、いろいろな献立に使えます。
伊藤:僕はとにかく手を動かして作るだけ。ただ、作り込みすぎないようにはしています。工業製品のように作れないこともないかもしれませんが、すこし歪んでいたりして完璧でないほうが、ものの味がでますし、日常的に使えていいのではないかと思います。印判で同じように押したり、ひき打ちで同じように成形しても、土や窯の状態によって予期せぬ変化が生まれます。そうした味が使い勝手や心地よさにつながったらいいと思っています。
今日のうつわ用語【印判・いんばん】
印判とは、同じ図柄をいくつも焼きつけ効率的に焼物を生産するための転写(プリント)の技法。江戸時代にスタンプでプリントするこんにゃく印判、銅板や型紙での転写が生まれ、明治時代以降に盛んになった。
陶土に化粧土を施し、中央には花、周囲に蓮の花弁を印判でスタンプした粉引片口¥3,240/夏椿
アンティーク食器のような白に伊藤さんならではのやさしい色絵を合わせた角皿¥8,640/夏椿
黄色が眩しいオクトゴナル皿は、どんな料理を盛り付けようかとワクワクする。¥7,560/夏椿
日本の土から生まれたものなのに南ヨーロッパの風を感じさせる魅力的なマグカップ¥3,240/夏椿
小さくて大事なものをそっと閉まっておきたい小箱¥4,320/夏椿
フランスの陶器を意識したという色合わせに心奪われる鉢もの¥4,320/夏椿
【PROFILE】
伊藤聡信/AKINOBU ITO
工房:愛知県常滑市
素材:磁器(瀬戸土)、陶器(常滑土)、半磁器(瀬戸土)
経歴:兵庫県生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科在学時代に陶芸に出会い、オブジェを中心に制作ののちうつわの世界へ。日本六古窯のひとつでもある愛知県常滑市に工房を構える。
夏椿
東京都世田谷区桜3-6-20
Tel. 03-5799-4696
営業時間:12時〜19時
http://www.natsutsubaki.com
『伊藤聡信 個展』開催中
会期:2017年2/18(土)〜2/26(日)
会期中無休
工房:愛知県常滑市
素材:磁器(瀬戸土)、陶器(常滑土)、半磁器(瀬戸土)
経歴:兵庫県生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科在学時代に陶芸に出会い、オブジェを中心に制作ののちうつわの世界へ。日本六古窯のひとつでもある愛知県常滑市に工房を構える。
夏椿
東京都世田谷区桜3-6-20
Tel. 03-5799-4696
営業時間:12時〜19時
http://www.natsutsubaki.com
『伊藤聡信 個展』開催中
会期:2017年2/18(土)〜2/26(日)
会期中無休
photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA
ライター/ 編集者
子育てをきっかけにふつうのごはんを美味しく見せてくれる手仕事のうつわにのめり込んだら、テーブルの上でうつわ作家たちがおしゃべりしているようで賑やかで。献立の悩みもワンオペ家事の苦労もどこへやら、毎日が明るくなった。「おしゃべりなうつわ」は、私を支えるうちのうつわの記録です。著書『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)
Instagram:@enasaiko 衣奈彩子のウェブマガジン https://contain.jp/
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