うつわディクショナリー#08 二階堂明弘さんがうつわで伝えたいこと

日本のうつわにできること

鉄のような質感の黒いうつわや出土品のような焼締めなど、和洋問わず使えるモダンなうつわで人気沸騰中の陶芸家・二階堂明弘さん。そんな彼がうつわを通して伝えたいのは、使いやすさの先にある日本のうつわの有りようでした。

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—二階堂さんは、なぜ陶芸家になったのですか?
二階堂:子供の頃からものを作ることが好きだったというわけではないので、きっかけといえば、中学生の時にバブル経済が崩壊したことですね。衝撃的でした。それまで日本では、いい大学に入っていい就職をするというのが幸せなこととされていましたけど、そういうことが目の前で崩れていったというか。子供ながらに、誰かが決めた価値観には意味がないんだなあと感じて。高校に入って進路を考える頃には、地に足がついたことというか、足元にある土からものを生み出すような仕事を意識するようになっていました。
 
—陶芸は、実際にやってみても続けたい職業だったんですね。
二階堂:粘土を直接手で触る感じは最初からとても好きでした。うつわは手を合わせることから始まった形です。自分の手で土の感触を確かめながら形を作るっていいなと思います。
 
—なめらかな曲線と極限まで薄い口造り。繊細でモダンな形は二階堂さんの作品の魅力のひとつです。
二階堂:独立した当時住んでいた益子の土は、薄いうつわには向かないとされていました。でも僕は、足元の土を使って自分のスタイルで作るということをしたかったので「やってやろうじゃないか!」と。 焼き方や釉薬を工夫することで薄く焼き上げることができるようになって、生まれたのが錆器(しょうき)という黒いうつわです。鉄の釉薬をハケで塗ることで表情を出しているんですが、最初は見向きもされませんでした。
 
—そうなんですか!? いまでは料理人の方にも支持されるほどなのに?
二階堂:こんな黒はあり得ないと言われましたよ。ムラはあるし、表面がマットだから使えばシミが残って使えないと。バブルの頃は量産のしみない陶磁器が主流だったので、その世代の人には馴染まなかったんだと思います。でも、お茶の世界を見ても、日本人は「貫入」とか「雨漏り(水分が染み込んで跡になった状態)」とか陶器の汚れを表情として楽しみ美しいものとして愛でてきました。そういう感性は、むしろ僕らの世代に受け継がれたのかもしれません。僕たちは、小さい頃にバブル経済の崩壊を経験し、大人になってからは東日本大震災を体験した。ものごとの本質とか自分たちの原点について考えながら生きてきた世代だと思います。
 
—うつわが汚れることを、二階堂さんはどう捉えているのですか?
二階堂:自分のものになっていくという感じですね。使った人の履歴がうつわに残っていく。僕は、ただただ作り、後は使う人に委ねたい。委ねることができるってすごいことだなって思うんです。
 
—料理人さんとのコラボレーションやNYなど海外での展示も、委ねることのひとつでしょうか。
二階堂:制作中、特にろくろで成形する時は、うつわという造形物で境界線を作っているような感覚なんです。できあがったうつわが空間に置かれ、人がそれをどう使い、どう人をもてなすか。人に委ねることでうつわという境界線の内と外にさまざまな思考が生まれます。日本のうつわは、使うものであると同時にアートだと思うんです。個人主義の西洋のアートとは違う共有することで思考を生み出すアートですね。
 
—その日本的な感覚は、海外の人にも伝わるんですか?
二階堂:むしろ言葉はあまり関係なくなるというか。そういう境界線の内と外に何かを見出せる人というのは、どの国にも必ずいます。ものの奥行きを感じてくれる人がいるから、毎年展示会が続いているんだと思いますよ。日本ほどうつわの表現や使い方に奥行きのある国はありません。しかも現代工芸の作り手はたくさんいて、いままさに生命力にあふれていますよね。使う人、見る人に委ねることで、現代に受け継がれた瑞々しいうつわ文化を伝えていけるのではないかと思っています。
 
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今日のうつわ用語【貫入・かんにゅう】
陶磁器は窯に入れて焼いた後、冷却するが、その時に素地と釉薬の収縮率の差により釉に生じるヒビ割れのこと。使ううちに茶しぶや油が染み込み色がつくこともあるが、日本人はこうした貫入をうつわの景色や味わいと捉え愛でてきた。

二階堂さんの真骨頂でもある鉄のような黒いうつわはその名も錆器(しょうき)。錆器ボウル¥5,400/sumica栖

出土品のような焼締めのうつわは料理をドラマチックに引き立てる。焼締め鉢¥5,940/sumica栖

鉄の釉薬をひとつひとつハケで塗ることで奥行きのある表情を出している。錆器リム皿¥4,320/sumica栖

ポットや急須などお茶の道具も繊細な造りで人気。¥14,040/sumica栖

オレンジがかった独特の色味と質感、土が織りなす景色が美しい。ツートーン片口¥5,400/sumica栖

真っ白い釉薬のうつわはしみやすいが生活の履歴としてそれも楽しんでほしいそう。焼締め白ボウル¥4,860/sumica栖

【PROFILE】
二階堂明弘/AKIHIRO NIKAIDO
工房:千葉県袖ケ浦市
素材:陶器
経歴:1977年札幌市生まれ。専門学校の陶磁科卒業後、2001年に独立。若手作家の作品発表の場「陶ISM」を主宰し、東日本大震災を機に被災地の仮設住宅にうつわを届ける「ウツワノチカラ Project」を開始するなど多角的に活動。NY、パリ、台湾をはじめ海外でも展示会を開催。

sumica栖
横浜市中区山下町90-1 ラ・コスタ横浜山下公園101号室
Tel. 03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
不定休
http://www.utsuwa-sumica.com/index.html
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『二階堂明弘 陶展 つながるうつわ』開催中
会期:2017年5/20(土)〜5/29(月)
定休日:24日(水)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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