うつわディクショナリー#09 高島大樹さんがうつわを作る理由

大人気作家の正体は、働き者の“やきものやさん”でした

陶芸家の高島大樹さんが個展を開くのは、一年にたった2回。見た目に楽しく使い勝手もいいうつわは、行列ができるほど多くの人に愛されているが、その人気の裏には、求めてくれる人にとにかく答えたいとひたすら作り続けてきた真摯な心がありました。

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白黒の輪花皿やエキゾチックな絵付けのお皿など、これぞ高島さんの作品と言われるうつわが生まれた背景を教えてください。
高島:うちは京都で曽祖父の代から製陶所(手作りの焼物を量産する工場)を営んでいました。僕もそれを継ぐつもりで焼物の勉強をしたんですが、世の中には洋食器も増え昔ほどは売れなくなっていました。そんな時にある洋食屋さんからディナープレートを作ってほしいという注文が入ったんです。ディナープレートというと9寸(27cm程)。和食器では作ったことのない大きさでしたけど、なるべく平らで縁だけ少し上がっているものがいいというリクエストにとにかく応えようとやってみたら、いい感じにできたんです。その時「そやな、この感じええな」と思ったのが僕のスタイルの始まりかもしれません。洋食は西洋料理のエッセンスを取り入れた日本の料理。そんなふうに和洋が混在しているうつわがあったらいいなという気持ちでやってきました。焼物を始めて、もう25年になります。
 
—25年前の日常使いのうつわというとどんなものでしたか?
高島:和食器か洋食器かにはっきり分かれていましたね。和食器では粉引(こひき)の白いうつわが出回っていたんですが、僕は、あえて真っ白ではなく鉄分の黒いツブツブが出ているような粉引でカップを作ってみたんです。京都ではそういうラフなものは全く受け入れられなかったんですけど、東京では好評でたくさんの人が買ってくれました。それが嬉しくて、求められているものならもっと追求してみようと思いましたね。
 
—粉引の白い輪花皿は、いまでは高島さんの代表作ですね。
高島:輪花皿は、10年くらい前に魯山人のうつわを見ていてやってみたくなりました。可愛らしい形なので、僕が作るなら甘くなりすぎないようにしたいなと。粉引は化粧土という白い土の掛け方で随分印象が変わるんです。僕は、輪郭をシャープに出すような掛け方を工夫しています。
 
—そうした細かい心遣いが高島さんらしさとなっているんですね。独特な絵付けにもこだわりがあるのですか?
高島:かなり自由にやっていることがこだわりかもしれません(笑)。特に飾り皿は、筆ではなく細い針のようなもので線描きをして素焼きしてから、塗り絵のように色で線の内側を埋めていきます。通常の染付や色絵の絵の具ではなく、釉薬で色をつけるので、窯の中で釉薬が流れて水彩のようなやさしいタッチになったり、ぽってりと溜まって立体感が出たりします。
 
ーまるで絵画のようですね。動物の顔つきもチャーミングです。
高島:子供の頃から絵を描くのだけは大好きでね。「ドカベン」の水島新司の世界に憧れていました。漫画のようなタッチ、好きですねえ。トルコの焼物にあった鳥を洋皿に描いたり、イタリアの陶器で見つけた鹿を和食器の形に写してみたり、飾り皿は特に自由にやっていて、裏には「Daiki 1965(生まれ年!)」というサインもしています。これに関しては「俺が描いたんやぞ!」って気持ちをちょっと出したいのかもしれません。
 
—インスピレーションはどこから?
高島:スペインで手にしたうつわやオランダのデルフト焼、図録で見たモチーフ、日本や中国の古いものなど、これまで見たり感じてきたいろいろなものが頭の中に蓄積されています。新作を作ろうと思ったら、それらを思い出して引き出してくる感じですね。頭の中でほぼ完璧な設計図を作ってから一気に手を動かしていくんです。若い頃に西洋のうつわの形やモチーフに触れたことで「こんな表現もあるんや」と楽になれたというか。写す部分と自分で作り上げる部分を混在させることで、日本の焼物ということから、いい意味で自由になれたんだと思います。
 
—今回の個展では2000点ものうつわを作ったとか。お一人でどうしてそんなに頑張れるのですか?
高島:家業ですから、25年やっていてもいまだに作家という意識はないんです。人気作家なんて言われてもどこか遠くで起こっていることのような感じで……。僕は、求められたことをひたすらやるだけ。2000点必要なほど欲しいといってくれるお客様がいるのならば、そこに届くように、ただただ作る。それだけです。朝5時に起きて仕事して終わったら寝る。うちではそれが当たり前でした。これからも作家というより「やきものやさん」として作り続けるだけですね。
 
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今日のうつわ用語【輪花・りんか】
お皿や鉢物などの縁に規則的な切り込みや凹凸があり花弁のようになったものを輪花と称する。輪花皿、輪花鉢など。リズミカルで華やかな意匠は見ために美しく料理を華やかに引き立ていつの時代も愛されてきた。

洋皿にオリエンタルな絵付けを施した飾り皿シリーズは西洋と東洋の間をいく高島さん独自の世界観。飾り皿¥8,640/千鳥 UTSUWA GALLERY

和風の稜花皿にイタリアの陶器からとった鹿の絵をマッチング。水彩のような背景でやさしい表情に仕上げた。飾り皿¥8,640/千鳥 UTSUWA GALLERY

オランダのデルフト焼の形とモチーフを高島さん流にアレンジした豆皿¥3,780/千鳥 UTSUWA GALLERY

お料理のためうつわは絵付けも控えめに、でもチャーミングに。どの国にもタワーはあるもの。こちらはなんと京都タワー。¥3,240/千鳥 UTSUWA GALLERY

輪花シリーズは、丸皿、楕円皿、鉢物、湯飲みなどさまざまに展開して大人気。輪花五寸皿¥4,320/千鳥 UTSUWA GALLERY

黒い輪花皿は見た目よりも薄く使いやすい。できるだけ釉薬が薄くのるように工夫し一枚一枚手をかけて作るそう。輪花楕円小皿¥3,240/千鳥 UTSUWA GALLERY

【PROFILE】
高島大樹/DAIKI TAKASHIMA
工房:奈良県生駒市
素材:陶器
経歴:1965年京都にて代々続く製陶所に生まれる。京都府陶工訓練校、京都市工業試験場を経て2008年に独立し奈良県生駒市に工房を構える。http://domingoman.exblog.jp/tags/高島大樹/

千鳥 UTSUWA GALLERY
東京都千代田区三崎町3-10-5原島第二ビル201A
Tel. 03-6906-8631
営業時間:12時〜18時
不定休(定休日はHP、ブログで確認のこと)
http://www.chidori.info
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『高島大樹展』開催中 会期:2017年6/17(土)〜6/24(土) 会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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