うつわディクショナリー#14 いまこそ使いたい三浦ナオコさんの白いうつわ

料理を引き立てるやさしい白

うつわ作家として独立して5年目のニューフェイス。三浦ナオコさんの個展を訪ねると、そこは白一色のうつわの世界。思わず手にとり持ち帰りたくなる可愛らしさと手作りのやさしさにあふれた展示空間が広がっていました。
 
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—菱形、木瓜型、四角形、お花型やつぼみ型……。三浦さんの作品は、ひとつも見逃したくないほど可愛らしい形にひかれます。
三浦:こうやって並べると新鮮に見えますが、どれも古くからあるうつわの形なんです。特に木瓜型や隅切りの四角形は、日本の家紋に由来すると言われています。木瓜型は、鳥の巣に似ていることから子宝に恵まれる縁起のいい形とされてたり。
 
—確かにこれまでも見たことのある形なんですが、すべて白で統一されているからかグラフィカルでモダンに見えます。
三浦:形に特徴のあるお皿類は、型物(かたもの)といって、あらかじめ作っておいた石膏の型に粘土の板を押し当てて成形します。ろくろで作るよりも焼いた時に歪みが出やすいんですが、その歪みが愛嬌になって目を引くのかもしれません。
 
—そうなんです。白いうつわにもいろいろありますが、独特な愛らしさを感じます。白にこだわっていることには理由があるんですか?
三浦:昔から、古いものを見るのがとても好きだったんです。陶磁器に限らず、ガラスや木工品、日本のもの、李朝のもの、西洋のものと何でも面白がって見てきました。そういう中で、いろいろな白があることに気づくようになって。特に焼物の白は、白磁、粉引、白釉など種類が豊富ですよね。
 
—三浦さんの白は、真っ白というより、すこしグレーがかったやさしい色味ですね。
三浦:焼物の世界では、その昔、皆が中国の真っ白な磁器に憧れていました。日本やヨーロッパには、当時、磁器を焼く技術がなかったので陶器で白いうつわを作ろうとしたんです。だけど、身の回りからとれる素材からだと真っ白にはほど遠く、土の色も影響してくすんだ白になる。そうやって真っ白に憧れて格闘していた頃の時代の白を、私はいいなと思うんです。完璧じゃないところがいいのかな。それであえてそういう仕上がりになる土や釉薬を探ってきたんです。
 
—現代なら完璧な白もできるはずなのに、あえてそうではない白を目指すというのは、むしろ難しそう。
三浦:いま作っている形はいわゆる和食器なので、和食を綺麗に見せるようなキリッとしたところも残したい。やさしい質感を持ちつつ締まりのある形というところには、気を配っています。そういう形に合うように土の配合と釉薬の相性をいろいろと試したり、窯の種類を電気からガスに変えたりと思考錯誤して生まれた白なので、この白には自分でも愛着があるんです。同じように見えますが、うつわによって陶器と半磁器の2種類の土を使い分けています。
 
—木瓜型のデミタスカップも、小さくて繊細でキュンとします。
三浦:陶芸の前はデザインを学んでいたので、新しい形を作ることも自然にするようになりました。デミタスカップは、木瓜型の猪口に私なりに取っ手をつけたもの。古いものって、いまの感覚からすると小さめのうつわが多いんですけど、そのまま写してみると可愛いんです。反対にこれまで見たものを頭の中で組み合わせて形にすることもありますよ。古いものを参考に現代ならどう使うか、自分の感覚を通してアレンジしていくのは楽しい作業です。
 
—ものにあふれた現代に、手作りのうつわを使う意味ってどんなところにあるのでしょう。
三浦:料理もうつわも好きなので、うちでは古いものも作家ものも工業製品も合わせて使うんですが、人の手が作ったものの線には味わいがあって、空間にも料理にも一番馴染むような気がします。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
三浦:大事にしてもらえるもの、作っていきたいですね。
 
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今日のうつわ用語【型物・かたもの】
石膏などで作った型に粘土を押し当てて成形する技法。ろくろによる成形と異なり、時間をかけて納得のいく形に作り上げた型に粘土を当て、細部まで手で形を整えながら一枚一枚コツコツと作り上げる手間のかかる作業。お皿など平面のものの他、成形後に型を分解して外せるようにしたり、粘土を流し込む鋳込みという技法を用いることでカップなど立体的なものも作ることができる。

骨董市で見かけた古いうつわをもとにリムと見込みのバランスやサイズをアレンジした輪花浅鉢¥5,400/ KOHORO二子玉川

デミタスカップは上からみると木瓜型。和と洋を見事に融合させた人気の作品。木瓜デミカップ¥3,240/ KOHORO二子玉川

型物だけでなくろくろでの仕事にも定評のある三浦さん。つぼみを開いたばかりの花の情景を連想させる小鉢。輪花鉢小¥3,240/ KOHORO二子玉川

四角形の四隅を切り落とした隅切り型の小皿はエッジがきりっとしていて見た目に美しく使いやすさも抜群。八角リム皿¥3,024/ KOHORO二子玉川

家紋に由来する木瓜型は、鳥の巣の形に似ていることから子孫繁栄を意味する吉祥モチーフとされる。木瓜皿¥2,592/ KOHORO二子玉川

焼き魚やだし巻き卵、お菓子もいいかも!と盛り付ける料理が様々に浮かぶ隅入り長皿¥6,264/ KOHORO二子玉川

【PROFILE】
三浦ナオコ/NAOKO MIURAI
工房:岐阜県多治見市 studio MAVO
素材:陶器、半磁器
経歴:桑沢デザイン研究所でデザインを学ぶも陶芸教室で触れた焼物づくりに目覚め、卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所に入所。2年間学んだのち多治見市のstudio MAVOにて作陶をスタート。今回のKOHORO二子玉川での展示に続き、2018年1月13日より大阪のコホロ淀屋橋でも個展を開催予定。

KOHORO二子玉川
東京都世田谷区玉川3-12-11 1F
Tel.03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
不定休
http://www.kohoro.jp
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを
『三浦ナオコ展』開催中
会期:2017年9/16(土)〜9/27(水)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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