うつわディクショナリー#16 青に魅せられたひと、稲村真耶さんの染付

自然界の青をうつわにとじこめて

あるときは緻密に、あるときは軽やかに、またあるときは思いっきり可愛らしく。稲村真耶さんは、青い絵の具を使いこなしさまざまな気分の絵柄をうつわに描き出す。食卓の主役である料理とそれを作る人の気持ちに寄り添う青いうつわたち。
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—稲村さんは焼物の産地・常滑の出身。陶芸には、小さい頃から興味があったんですか?
稲村:全然そんなことはないんです。ただ、ものづくりが根づいた土地だからか、デザインや服飾など作ることを専門とする高校があって、そこで陶芸を専攻しオブジェを作るようになりました。その時「土ってなんて気持ちがいいんだろう」って妙にしっくりきたんですよね。なめらかで柔らかくって。
 
—オブジェではなく、うつわを作る陶芸家になったきっかけは?
稲村:私は小さい頃から一人で生きて行くことに憧れがあって。高校を卒業したら家族から離れて、できるだけ遠くに暮らしたいと夢見ていました。そんな時に、京都の陶芸家の藤塚光男先生の工房の求人をたまたま見つけて「これだ!」と。京都なら好きだったお寺めぐりもできるし、実家から距離もあってピッタリだという、いま思えばとても軽い理由で弟子入りを決めました。使ううつわのことを考えるようになったのは、藤塚先生に出会ったからです。
 
—藤塚光男さんは、伊万里焼の写しを中心に正統派の染付のうつわを作られますね。師匠から教わったことで、大切にしていることは何ですか?
稲村:うつわは、料理の脇役であるということです。先生は「うつわは料理の着物である」とよくおっしゃって、大きさや重さはもちろん、絵柄をどこに配置するかまで、料理を引きたてるためのうつわというものをとにかく追求していました。
 
—稲村さんにとって、料理を引きたてるうつわとはどんなものですか?
稲村:染付をしているのは先生の影響もありますが、もともと青と白がとても好きだったんです。常滑の海を見て育ったからか、私の頭の中には、自然界に存在する青色の記憶がたくさんある。だけどその青は、海や湖や空の青であって、物体として形をとどめているものはひとつもないんですよね。自然の中にあるあの青色を、うつわという「もの」に表現できたら自然の恵みである料理もきっと引き立つ。そんな風に考えているかもしれません。
 
—青色に魅せられた人の青。だからこんなにバリエーションがあるんですね。
稲村:いまは夫と娘と一緒に琵琶湖の近くに住んでいるんですが、湖の青もまた奥深くて。水面には青のグラデーション、底の方までぐっとのぞき込めば、どこまでも深い群青色が続きます。ほとんど黒に近いような瑠璃釉の作品は、そういう青を想像しながら。淡いブルーを一面にかけた作品は、琵琶湖のほとりに流れ着いた陶片の色があまりにも綺麗だったのでそれを再現しました。そんな青との偶然の出会いもなんだか嬉しくて。
 
—稲村さんの絵柄は、私たちの気分にぴったりの可愛らしさです。
稲村:染付というと正統派の和食器のイメージが強いと思うのですが、私たちが家庭でとる食事は和食だけではないので、和になりすぎない絵柄を探していたところ、奈良の正倉院の宝物殿にシルクロードから伝わったオリエンタルな絵の焼物を見つけて。それがとっても可愛らしくて!以来、西洋と東洋が混じりあったような絵柄を意識するようになりました。取り皿には、料理を邪魔しない線描きのさらりとした絵柄を。蓋物や盛り皿は、もうすこし華やかでもいいと思うので、全面に描き込みます。
 
—これからは、どんなものを作っていきたいですか?
稲村:もっともっと、いろいろな青を追求してみたいと思っています。
 
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今日のうつわ用語【染付・そめつけ】
白い素地に呉須と呼ばれる酸化コバルトを含んだ青色の顔料で絵付けを施し、透明の釉薬をかけて焼成したもの。

一点ものの蓋物は、個展のたびに力をいれてつくる思い入れのある作品。¥8,640/スタイルハグギャラリー

琵琶湖のほとりに流れ着いた、いつのものともわからない陶片の色を再現した夢のある青色。輪花鉢¥4,320/スタイルハグギャラリー

一点ものの鉢には中東やヨーロッパのさまざまな図案をミックスさせて。どら鉢¥17,280/スタイルハグギャラリー

取り皿として料理を邪魔しないよう、唐草模様は控えめに可憐に。5寸皿¥3,456/スタイルハグギャラリー

ただ置いておくだけでも可愛らしい豆皿は、アクセサリーなどをいれても。¥2,489/スタイルハグギャラリー

湖の深い青からインスピレーションを受けた黒に近い瑠璃色は、野菜の色を引き立てる。八角皿¥5,400/スタイルハグギャラリー

【PROFILE】
稲村真耶/MAYA INAMURA
工房:滋賀県大津市比叡山坂本
素材:磁器
経歴:愛知県立常滑高等学校セラミック科卒業後、瀬戸窯業高等学校陶芸専攻科を経て、陶芸家・藤塚光男氏に師事し4年間修行する。2009年京都鳴滝にて開窯。2010年比叡山坂本に築窯。子供の頃から青と白が好きなことから「青白窯」と名づける。

スタイルハグギャラリー
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-59-8-208
Tel.03-3401-7527
http://www.style-hug.com
✳展示会開催中のみオープン ✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『稲村真耶展』開催中
会期:2017年9/23(土)〜9/30(土)
営業時間:11時〜18時(最終日〜17時)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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