ピーターラビットと湖水地方 ビアトリクス・ポターゆかりの地を、湖水地方に訪ねて。
Travel 2017.07.20
「世界一有名なウサギ」ピーターラビットの作者、ビアトリクス・ポター。16歳のとき家族とのホリデーで初めて訪れて以来、彼女にとって特別な場所となった湖水地方には、ゆかりの場所があちこちに散りばめられている。美しい風景に抱かれた、それらを訪ね歩いてみよう。
ビアトリクスにとって湖水地方での生活の第一歩となった「ヒルトップ」。花に彩られてはいるものの、思いのほか飾られていない外観にビアトリクスの美意識を感じさせられる。現在はナショナル・トラストが管理している。
風光明媚な湖水地方の観光拠点として知られる町ウィンダミアやアンブルサイドから離れ、緑の丘に囲まれたなかにぽつりとあるニア・ソーリー村。この小さな集落に、かの有名なビアトリクス・ポターのコテージ「ヒルトップ」がある。
ロンドンに暮らしていたビアトリクスがここを購入したのは『ピーターラビットのおはなし』が大ヒットした後の1905年。押しも押されぬ人気絵本作家となった彼女が望んだのは、豪華な邸宅ではなく、この田舎の慎ましやかな一軒家だということに、あらためて彼女の人柄を感じさせられる。
エントランスを入ってすぐの暖炉のある居間。この部屋のあちこちが、挿絵の「舞台」として物語に何度も登場している。その箇所を探すのも楽しい。
玄関を入ってすぐの暖炉のある部屋をはじめ、あちこちに『ひげのサムエルのおはなし』や『グロースターの仕立て屋』などの挿絵を彷彿とさせるコーナーがあり、すでに物語のなかに迷い込んでしまったよう。
ベッドルームの壁には、少女が刺繍の練習のために刺したサンプラーの額を飾って。壁紙はウィリアム・モリスによるデザイン。
2階のベッドルームはアーツ・アンド・クラフツ運動の立役者、ウィリアム・モリスがデザインした壁紙で飾られ、ベッド周囲を飾るキャノピー(天蓋)に施された手刺繍や、マットレス上のキルトがキュート。ファンならずともその可愛らしさにぐっとくるはず。
展示されているドールハウスの窓を覗くと、『2ひきのわるいねずみのはなし』に登場するのとそっくりのごちそうが……
ビアトリクスがこだわって選んだであろう家具や小物はすべて当時のまま。所有していた陶磁器やドールハウスなどの小物のディスプレイもあり、彼女の世界観がぎゅっと詰まった場所となっている。
村にあるキュートな赤いポスト。ここに手紙を投函するピーターの絵も残されている。
庭はビアトリクスの死後、彼女の絵本に登場するシーンなどを参考に設計され、彼女が暮らした当時のままの方法で花や野菜が育てられている。そんなオーガニックな手法は、現在はロンドンのキューガーデンも取り入れており、全国に広がりつつあるという。
『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』に登場する三叉路は、ニア・ソーリー村のはずれにある。
また、ニア・ソーリー村のあちこちにも絵のインスピレーションとなった場所があり、作品を見比べながら散策するのも楽しい。
>>ビアトリクスの新たな一面を発見できるギャラリー。
---page---
「ビアトリス・ポター ギャラリー」は、現在はナショナルトラストの管轄下にある。
ビアトリクスの絵を鑑賞するのならば、ホークスヘッドにある「ビアトリクス・ポター ギャラリー」へ。17世紀築の石造りの建物は、当時はビアトリクスの夫ウィリアム・ヒーリスの弁護士事務所だったそう。
「ビアトリクス・ポター ギャラリー」の展示から。家具のフォルムから施された装飾までを細かに観察しているのが分かる。道具も生物も、とことん研究を重ねて描いていた。
ピーターラビットシリーズをはじめとする原画やビアトリクスにまつわる品を数多く所蔵し、定期的に内容を変えながら彼女の作品とその周辺を紹介している。
『こねこのトムのおはなし』の挿絵の「舞台」は、実は「ヒルトップ」の玄関。当時の写真(立っているのは夫のウィリアム)とその後の写真と合わせて見るのが楽しい。
ビアトリクスが子どものときに弟とともに採取していた昆虫などを収めた棚。研究家顔負けで熱心に集めていたのがよくわかる。
2017年は、彼女の絵とその背景となった場所の写真を並べて展示。ビアトリクスが、いかにこの土地の人々の暮らしを愛情を込めて注意深く見つめ、その姿を動物たちに変えて物語のなかで再現していたかが分かる。
また、現在の様子と見比べて、このエリアがほぼ昔の姿のまま大切に保護されていることも実感できる。
「アーミット・ミュージアム&ライブラリー」には、ビアトリクスが残した手紙や文書も多く展示されている。
アンブルサイドのある「アーミット・ミュージアム&ライブラリー」は、かつてビアトリクス自身もライブラリーの会員であり、キノコのボタニカルアートや古代遺物などの水彩画約300点を自ら寄贈した唯一の場所でもある。
暖かそうなハードウィックシープの羊毛を実際に手に取れるディスプレイも。断熱材やカーペットに加工されることが多いが、最近ではこの色合いを活かして織り上げたツイードで作るおしゃれな小物も登場している。
1階にある展示コーナーには、それらの絵の一部とともに、彼女自身が考案した「ピーターラビット」のライセンス商品や熱心に育成した羊、ハードウィックシープの資料なども。作家としてだけではなくビジネスウーマン、農家の女性としてのビアトリクスの別の顔も伝えていて興味深い。
>>ビアトリクスが愛した風景に囲まれた、ユー・ツリー・ファームへ。
---page---
「ザ・ワールド・オブ・ビアトリクス・ポター・アトラクション」のガーデン。物語の一場面を再現したコーナーも。
絵本の場面を再現したジオラマが展示されている「ザ・ワールド・オブ・ビアトリクス・ポター・アトラクション」は、世界中からやってくるファンでいつも賑わっている。展示と合わせて見逃せないのは、ここに併設された小さなガーデン。
「ヒルトップ」の庭と同様、ビアトリクスが推進したオーガニックな手法を用いて花や野菜を育てており、彼女が生きた時代から長い歳月を経た現在でも受け継がれている品種も多い。
ここで栽培されている物語に登場する植物の一覧。ピーターラビットのラディッシュをはじめ、19世紀半ばからの品種も少なくない。
おなじみのシーンのオーナメントも飾られていた。
物語のなかで、ピーターラビットがマグレガーさんの畑からこっそり失敬するラディッシュと同種のものも育てられていて、シーズンにはティールームで味わうことができるのがうれしい。
「ユー・ツリー・ファーム」のシープドッグ。羊を移動させるときなど、羊飼いたちの手足となってきびきびと働く、頼りになる子だ。
コニストンに位置する「ユー・ツリー・ファーム」は、かつてビアトリクスが所有していた農場だ。若き日のビアトリクスを描いた映画『ミス・ポター』のロケーションに使われた場所でもある。ビアトリクスが生育に力を注いだ地元原産の羊、ハードウィックシープを現在も当時同様のやり方で飼育している。
ファーム内には古い建物を改装した快適な貸しコテージもあり、ビアトリクスが愛した風景に囲まれてのステイを楽しむこともできる。
ビアトリクスも眺めたであろう、ファームからの絶景。いまでも変わらずあるのは、彼女の尽力の賜物といえる。
可愛らしい動物たちの物語の創作だけでなく、壮大な自然を未来に受け継ぐことにも尽力したビアトリクス・ポター。その意図を受け止めながらの湖水地方の訪問は、さらに思い出深いものになること間違いなし。
人なつこい羊たち。子羊の時は全身真っ黒で、成長とともに顔と手足が白く、ボディが茶色くなるのがハードウィックシープの特徴だとか。
【関連記事】ピーターラビットの生みの親、その知られざる素顔。
場所:Near Sawrey, Hawkshead, Ambleside, Cumbria LA22 0LF
営)日によって異なるので、HPで要確認。
料金:大人11ポンド50ペンス
www.nationaltrust.org.uk/hill-top
The Beatrix Potter Gallery
Main Street, Hawkshead, Cumbria LA22 0NS
営)日によって異なるので、HPで要確認。
料金:大人7ポンド
www.nationaltrust.org.uk/beatrix-potter-gallery-and-hawkshead
The Armitt Museum & Library
Rydal Road, Ambleside, LA22 9BL
営)10:00~17:00 (最終入場は16:00)
*10月まで。それ以降は変更の予定 。
休)日、月
料金:大人5ポンド
armitt.com/armitt_website/
The World of Beatrix Potter Attraction
Crag Brow, Bowness-on-Windermere LA23 3BX
営)10:00~17:30
無休
料金:大人7ポンド50ペンス
www.hop-skip-jump.com
Yew Tree Farm
Coniston, Cumbria LA21 8DP
Tel. 015394 41433
www.yewtree-farm.com
※1ポンド=約145円(2017年7月現在)
BEATRIX POTTER™ © FrederickWarne & Co.,2017
photos : SHU TOMIOKA, texte:MIYUKI SAKAMOTO