映画『NOSE』に秘められた、ディオールの香水の物語。

Beauty 2021.02.22

「ファースト・ディオールはフレグランス」という女性は少なくないだろう。ひとりひとりの人生に寄り添う存在であり、毎日をエレガントに彩るディオールの名香を生み出しているのは、専属パフューマー クリエイター、フランソワ・ドゥマシーだ。

世界の香水界でも最高峰の「nez(ネ)」(フランス語で鼻、トップ調香師を示す言葉)のひとりと讃えられる彼の調香師としての仕事にフォーカスした映画『NOSE 調香師-世界で最も神秘的な仕事』が2月22日よりAmazon Prime video、Apple TV、Google playの有料動画配信サービスにて視聴が始まる。2年におよぶ撮影期間で、美しい香りを紡ぐイマジネーション、人や土地、植物との関わり、複雑で繊細な工程まで、神秘的で情感豊かな瞬間を記録した貴重なドキュメンタリー。配信に先立ち、フランソワ・ドゥマシーに話を聞いた。

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フランソワ・ドゥマシー
香水の聖地、グラースで幼少時代を過ごし、香水の原料や香水づくりを学ぶ。2006年ディオールのフレグランス クリエイターに就任。最高級の希少な原料と、ディオール フレグランスの熟達したノウハウとで、豊かなクリエイションを実現し続けている。

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―― 今回の映画が作られることになった経緯を教えてください。

3年以上前、ある製品をローンチする時にショートフィルムを製作したのですが、その撮影チームと意気投合。彼らが調香師という仕事に興味を持ってくれて、ドキュメンタリー作品を撮りたい、とアイデアを持ちかけられました。そこからは自然発生的にプロジェクトが進んだように思います。

―― 自身が被写体となることをどのように感じましたか?

私はもともと無口ですし、人前で自分について語るのはあまり得意ではありません。撮影されるのも苦手で、細かい場所にまでカメラが入り、常に見られているという状況には違和感もあり、最初はカメラの前で自然に振る舞うのが難しかったのですが、数カ月もすれば日常になっていきました。

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調香師という職業だけでなく、香り創りに関わる人々の知られざるストーリーが、ドゥマシーを通して描かれる。

―― 完成したフィルムを観て、いかがでしたか?

調香の仕事はとても抽象的な行為で、すべては空中にあるので、それが映像になっているということが不思議な気がしました。このフィルムでは原材料の産地を訪ねて旅をするシーンが数多く紹介されていますが、2006年にディオール パフューマー クリエイターに就任して以来、私にとって旅は特別なことではなく、ごく当たり前の日常です。スタッフは事実をそのまま伝える努力をしてくれたので、調香師という職業が忠実に映し出されているのではないでしょうか。

―― 原材料を現地で確認することによって、フレグランスのクリエイションにどんな影響がありますか?

“香りを創る”というのはチャレンジングな冒険。ローズやジャスミンは、加工をしなくてもそのままで香りが完成している存在で、さまざまなインスピレーションを与えてくれますが、原材料の品質は香水の美しさに直結するので、ルーツを辿ることは基本であり、もっとも大切な作業です。花瓶に生けられた花と畑に咲いている花では香りも違うし、同じインドでも、朝6時にジャスミン畑で感じる香りと、花市場で感じる香りは違います。さらに、植物に関わる生産者と会って対話することも欠かせません。彼らは多くのノウハウを持っているので、それによって香りの捉え方が変わることもあるのです。情熱を持って貴重な花々や原料を栽培している人々との出会い、直接見て、触れて、感じるという素晴らしい体験、それらの情報のすべてが私の心と嗅覚を豊かにし、香り創りにも多大な影響を与えます。

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グラースでドメーヌ ドゥ マノンの花農園を営むキャロル・ビアンカラナは、オーガニックの栽培技術で高品質の植物原料を育てることに成功した人物。ドゥマシーとも深い信頼関係で結ばれている。

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ディオールでは、フレグランスに最高品質の花々を採用しながら地域の再生を支援している。

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神秘的でエモーショナルな香りを創造する、調香師という職業。

―― 人々が自由に会うことができないこの時代だからこその、香りの意義や楽しみ方は?

香りはクリエイターが調合して終わり、というものではありません。原料を育てる人、収穫する人、香料に加工する人、ブレンドする人、製品を届ける人、販売する人、プロジェクトにはさまざまな人が関わり、その連鎖によって完成します。でも出来上がった香水は、ボトルの中に入った単なる液体。静物です。それを誰かがつけて初めて生きるもの。生きた香りはメッセージを持っていて、共有されるべきものなのです。コロナ禍でマスクを着けていて、微笑みを見ることができなくても、香りが伝わることで感情のやりとりができる。いっぽうで、香りというのは自分のためにつけるものでもあります。美しく感じる香りを身に纏うことで、なりたい自分になる、という楽しみ方もあるのです。

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キャロルにとって、植物や花は子どものようなもの。彼女は地元の栽培者を導く存在でもある。

―― フィルムの中で“香りを創る時、人にインスパイアされる”と紹介されていました。新しい香りを創造する時はいつも誰かを思い浮かべていますか? また、香りで表現してみたい、と思う具体的な人物はいますか?

インスピレーションの源は人だけではありません。場所であったり、瞬間であったり……。人物の場合も、必ずしもリアルな姿ではなく、私の主観で解釈したその人の側面、仕草や性格、ライフスタイルなど、あくまでもイメージを香りに投影しているに過ぎず、肖像画を描くようなものではないのです。具体的な人物といえば、たとえばジャドールのミューズであるシャーリーズ・セロンを思い浮かべますが、もしも人を表現する香りを創ることになれば、テストされるようで気を遣うでしょうね。気に入ってもらえるかわかりませんし。

本当に誰かのために香りを創るとしたら、それは私にとって大切な、ずっとそばにいて欲しい唯一の人、妻です。その香りはプライベートで独り占めしておきたいので非公開にします(笑)。

―― オープニングのタイトル部分などは、まるで007のようなおもしろさを感じました。フレグランスのボトルと絡む女性たちがとてもセンシュアルでもあります。フィルムのアートワークについては、どう感じましたか?

センシュアルという言葉は意味深で誤解を生みやすいので、あえて違う観点からお話ししましょう。

このフィルムでこだわったのはエモーションとしての香りを伝えること。香りは愛のようなもので、言葉だけで説明するのは難しいのです。どのようにしたらこの香りの魅力をシェアできるかを追求し、ビジュアルと音楽など、すべてを結集して香りを物語る作品になりました。私たちのチームワークを感じていただけると思います。

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『NOSE(ノーズ) 調香師 ‒ 世界で最も神秘的な仕事』
●原題/NOSE The Most Secret Job in The World
●監督/クレモン・ボーヴェ、アルチュール・ド・ケルソゾン
●2/22(月)よりAmazon Prime video、Apple TV、Google playの有料動画配信サービスにてにて配信開始
詳しくはこちら≫
『NOSE』の公開を記念して、メゾン ディオールは、作品に登場する香りを鑑賞しながら実際に香っていただけるいままでにない体験「ODORAMA」をお届けします。
フランス語で嗅覚を意味する”Odorat”を冠したディオール オドラマ ツールを用いて、映画に登場する香りを実際に体験していただけます。記載された上映時間の順にシールをめくり、映画とともに香りの旅をお楽しみください。

<利用方法>
2021年2月22日(月)より、公式オンラインブティックにて¥5,500以上ご購入のお客様で、ショッピングバッグ内にて【NOSE21】のプロモーションコードをご入力頂いた方に、ご購入製品と体験ツール「オドラマ 」をご一緒にお届けいたします。
※なくなり次第終了致します。1回の注文につき1コードまでご利用可能です。
※お試しいただける香りは販売製品の香りではございません。あらかじめご了承ください。

interview et texte:ERI KATAOKA

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