最近はやっているSDGsや、北欧からきた「ヒュッゲ」という言葉から連想されるライフスタイル。地球が疲れ始めちゃっているから声高に叫ばれているけど、もっと昔から、「関わる人々がみんな満足して幸せにならなければ、ビジネスとして未来がない」、そんな考え方で経営している会社もあります。
ある夏の日、山梨県・小淵沢にあるアルソアの本社に行ってきました。アルソア クイーンシルバーという黒い石鹸で有名な化粧品会社です。
森の中に突如現れる、モダンな建築。イタリア人デザイナー、マリオ・ベリーニ氏による建築で、上空から見た時、鳥が翼を広げているようなカタチになります。
東京・渋谷からこちらに引っ越してきたのは1998年。ここには約170人の社員の方々が働いているそう。
小淵沢の森の中に、こんなモダンな建物があること自体驚きですが、こんなにデザイン重視を貫きとおす設計が、日本の、決して大きくはない企業で実現したことにもびっくりです。ファッション撮影でも使えそうなおしゃれ感で、屋内の劇場はもちろん、野外劇場として使えるスペースも。古代ローマ建築のようなフォルムの建物では、バイオリニストの古澤巌さんがPR映像を撮影したりなさったこともあるそうです。
中央に水が張られ、風が吹き抜け、背景に山々の緑と空が見える絶景なのです。
高いところに段々になった席があります。
円形になった席から見えるのがこの山を背景にしたスペース。ここが舞台になります。
社屋内のいたるところにスペースがゆったり取られていて、こういうところでちょっとした打ち合わせができたりするのも素敵です。
家具などのセレクトもデザイナーのマリオ・ベリーニによるもの。絶妙な職人技が織りなす壁のムラを出すスタッコ仕上げで、アルソアを代表する商品であるクイーンシルバーの色を表現しています。
また互いの声が響き合うようなドーム型のスペシャルなミーティングスペースも! 小さな宇宙をイメージしたような、銀色の空に星が瞬いているような場所です。
置かれている弦楽器の中にスピーカーが仕込まれています。
---fadeinpager---
こういったハード面での、社員がセンスアップまでできそうな心地いい空間を提供していることはもちろんですが、アルソア本社訪問で私が感動したのは、社屋のすぐ近くにある農園、アルソアレインボーファームでした。
こちらの農園の責任者、山野洋輝さん。東海大学を出て、自らの実験室のように、日々風雨太陽にさらされながらも畑を育てています。
どうやってその畑を育てていくか、自然農法といえど、いろんな方法があるそうです。山野さんに説明していただいたことで目から鱗が落ちたのは、「(ここで育てているような)見た目が美しい野菜は、健やかで味もおいしい」ということ。虫食いがあるのは農薬を使っていないから、不格好だとナチュラルに育てたから、という説もありますが、ここですくすくと育っている野菜たちは、農薬も一切使用されていないし、土壌には自然状態で共生すべき虫たちがたくさんいます。でも、虫は作物をむやみに食べたりしないのです。
ヒトの肌を想像してみてください。健やかな肌には雑菌も入りにくく、傷もつきにくい。つまり肌そのものの免疫力が高いので、傷みにくいのです。野菜も同じ。健やかに育った免疫力の強い野菜は、自らを守る成分を表面に出すため、そこに虫がひっつかなくなります。土壌の中で、モグラが根っこを通ってしまったりすると、虫食いが起きます。だからってここの農園ではモグラ退治はしません。
このキレイな球体のキャベツ! いただいて外側から毎日はがして長い時間をかけて食べましたが、最後までおいしかったです。甘くてみずみずしくて、味が濃い。芯もシャキシャキとフレッシュ。裏返した時に、中央に芯があり均等に葉が育っているものがおいしいキャベツの見分け方です。
現場でレタスを食べました。苦いレタスは久しぶり。味が薄いものが多いですよね、スーパーで購入すると。ちなみに畑は6ヘクタールの広さがあります。
こちらでは肥料は一切使いません。では、健やかな野菜の栄養源は何か? それは土そのものです。土壌が、いるべき生物やリン酸がきちんといて良い状態であれば、おいしい野菜が育ちます。そのための堆肥作りを、山野さんがずっと研究し続けました。
こちらの堆肥は自然の発酵により、リン酸や乳酸菌を多く含みます。堆肥ってハエが飛び回るイメージですが、こちらには蝶々や蜂がとまります。香りが甘いからです。そして糞尿の臭いではなく、ドライフルーツ入りのケーキのような香りがします。
堆肥の原料はその時々で異なりますが、廃棄される予定のパンや地場産業で不要になったキノコの菌床やビールの麦芽の搾りカスなどです。廃棄せずに、こちらの堆肥用にくださるそうです。そこから作った堆肥による土壌で育てた野菜を、このベーカリーの調理パン用に提供。つまり、何もかもが動物と植物の生活循環にあります。素晴らしい! 未来のある生き方、考え方だな……と心から納得。
触れるとあたたかいです、堆肥は。そして一次発酵だけでなく、二次的発酵までプラニングして、最適な状態で土壌にする、という手間のかけよう。
ハウスの中にはズッキーニがなっていました。茎がまっすぐ生えている。この実り方も難しいのだそう。
収穫体験です! 切ったところから水分がしたたってきました。花ズッキーニもきれい。リコッタチーズ詰めてフライにしたいですね~。
こちらは霊芝のハウス。堆肥を使用し管理しつつ、ここの畑作りには障がい者の方々の手も借りて畑を運営しているそうです。
---fadeinpager---
完全無農薬栽培にアルソアが取り組む理由は、こちらが販売している健康食品、ジオリナシリーズ(酵素や錠剤など12種類)に役立つ栄養価の高い原料の生産のため。現在は100%ではないけれど、将来的にはパーフェクトを目指す!という強い意志に基づいています。それ以外の余剰な野菜を、社員食堂やレストランに提供しています。
フィギュアスケーターの浅田真央さんもアルソアのミューズを務めてますが、レインボーファームに何度も訪れ、自身でも野菜づくりをされているそうです。最近、アーシングという言葉もよく耳にしますが、大地と繋がる感覚は、誰にでも大切。多忙や緊張など、注目されストレスが多い生活をしている著名人の真央さんには、ここでの農ライフが、癒しになっているのかもしれません。ただ、山野さんがおっしゃっていましたが、ショベルなどを扱うのは、やはり体力がないと難しいそうです。真央さんはさすがアスリートらしく、細身だけれども筋肉の使い方が上手で力が強い、とのことでした。
アルソアは社屋のすぐ近くにレストラン「奏樹 カフェ&ダイニング」経営していて、ここには一般の方々も訪れて食事できます。
レインボーファームで採れた野菜をはじめ、近隣の食材を使ってサーブされる色鮮やかな料理たち。胃腸に優しく、食後はお腹いっぱいなのに、時間が経つときれいに消化されます。おまけに、お通じもバッチリ!
アルソアの食への取り組みのスタートは社員食堂でした。ホールフーズの概念を生かしてマクロビのメニューを提案。だんだん味のレベルも向上しているそうです。1998年に小淵沢への引っ越し時に、「まずは社員から健康に!」を主義に、食の事業に力を入れ始めたそう。社屋も従業員のカラダを考えて、当初から全面禁煙です。
社員食堂のレシピ本『美肌ごはん』(2012年刊行、ビオクラ)。美味しく食べられる調理法を研究し、現在のレシピは3000種類以上! 社員食堂で同じメニューが出ることはなかなかないそうで、その一部が紹介されています。宣伝をもっと積極的にしていたら……何回も重版かかるくらい売れるのに~。
こちらで提案している食品ブランド、 ビオクラの「クレーム・タルト・オ・シトロン」は、フィガロジャポン2020年9月号のお取り寄せ特集でも登場。品のよい甘さと酸っぱさで、常備ケーキにしたいくらい。
---fadeinpager---
最後に、いちばん大事な商品、クイーンシルバー(黒い石鹸)について触れます。これがアルソアのビジネスのスタートであり、そして最初から一度もリニューアルしていない、品質の高さを誇る逸品です。
デザインなどは変革しているけれど、中身は変わらないまま。1972年という時代で女性創始者、というのも素晴らしいです。「日本の女性たちの肌をきれいにしたい」というピュアな願いから生まれました。
アルソアの社員の方々は、みなこの石鹸を泡立てるのが上手です。男性社員ももちろん。ちゃんと泡立てると、それは洗い流すものではなく、まるで上質の「クリーム」のようです。洗った後でも肌はしっとり柔らかく、そのおかげで次に使うスキンケアの吸収もよくなります。乾燥肌悩みのある方には本当におすすめです。もちろん枠練り製法で、使用する水にこだわり、成分中のミネラルにこだわっています。
私、編集KIMもがんばってここまで泡をつくりました!いまや、浴室のバディです。 アルソア クイーンシルバー 70g ¥2,420、135g ¥4,400/アルソア
カラダも心も目覚める楽しい会社訪問でした。
アルソアは、2022年に創立50周年を迎えます。小淵沢という土地と共生して、「女神の森」と名付けたレストラン奏樹、文化ホール、レインボーファームは、アルソアという企業の理念を体感できる場所も発展中。コロナ禍が終わったら、一般の方々にもビジットできる機会がもっと増えて、「いい企業ってなんだろう? 社員が心地よく働ける場所ってどういうことだろう?」「食や健康を日常できちんと意識するとは?」など、生活、気持ちが豊かになるような問いと答えに出会えるといいな、と思います。
バッグの中に放り込んでいたメガネに……ズッキーニの花がくっついていて! なんだかクスリ。最後まで楽しい旅でした。
【関連記事】
ストレス解消に、土に触れるワイルドライフのすすめ。
人も地球も健康に!「プラネタリー・ヘルス」を始めよう。