うさぎのオブジェや復活祭の卵も忘れずに。
5月1日はパリではすずらん祭の日だけど、当然今年はコロナ禍のせいで、中止になるという。生産者たちは、せっかく大事に育てた花なのに、咲いてしまってから売れないといわれてもどうしたらいいかわからない、と悲鳴をあげている。結局ネットでオーダーして配達することにしたようだ。
本来ならミモザやラベンダーの花が、春を告げる時期なのに。
自粛していると、やはりフランスのことが気になり、パリの友人たちとワッツアップやメールで交信している。報道でみると、路上も無人になり緊迫したパリだけど、結構みんなは自宅でそれぞれおこもり生活を堪能しているようにみえる。
「ローランス・べナイムが、オンラインでオークションを始めたそうよ」
女友達が教えてくれた。ローランスはパリの有名なモード編集者で、自分で「スティレット」というファッション誌を創刊している。彼女がどうしてオークションを?
「だってほら、フランスでは老人ホームで1000人近い人たちが亡くなり、大変なのよ。そうした人たちを支援するためなの」
ローランスの呼びかけで多くのメゾンが参加したらしく、「セリーヌ」からはエディ・スリマンのデザインした白い椅子、「イネス・ド・ラ・フレサンジュ」はトレンチ、「シャネル」はココ・シャネル・アトリエの見学チケット。レティシア・カスタや、人気のイラストレーター、ジャン=フィリップ・デロームといったセレブリティも参加したという。
別の友人は、大至急「復活祭(パーク)のための家の中の飾り付けの写真を送って」といってくる。
「は? 私カトリック教徒ではないし」というとがっかりしている。そういえばパリにいた頃は、4月になるとうさぎのオブジェや色とりどりの復活祭(パーク)の卵が家の中に飾られていたものだ。
自粛して暮らしていると、どういうわけか、華やかな想い出よりも、むしろそうした季節の花や、なにげない伝統的な行事が懐かしくなってくる。
一体いつまで続くのか、誰もがそう思っているけど、いつまでもそれをくり返していても仕方がない。
そうしてぼんやりと窓の向こうを眺めていたら、ある日パリの親友から、あなたが大好きなアフリカの動物写真家ピーター・ベアードがモントークで行方不明になった、というメールがきた。それから数日後「ニューヨーク・タイムズ」に、ベアードの遺体が見つかった、という記事が出て、それも自ら命を絶ったことを知る。
暗いニュースばかりだけど、とりあえずうちのテラスの小さな生命体、野薔薇のつぼみだけは大事に見守ってあげたい。
自粛に入る前に、パリから帰ってきた建築家の田根剛さんに会ったら、エストニアの国立博物館も完成して、目下超多忙な田根さんは、「僕にとっては、ヴァカンスだな」と笑っていた。人それぞれ。
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