Noism新作『ラ・バヤデール』について、 井関佐和子×中川賢がトーク
えっ!? ソロル(戦士)は正義のヒーロー!?
振り付けはパズル!? 衣裳が三人目のダンサー!?
......実は『ラ・バヤデール』は好きではない!!??
前回の芸術監督・金森穣氏に続き、
副芸術監督・井関佐和子氏とNoism1・中川賢氏の言葉からお伝えします。
劇的舞踊『カルメン』(2014年初演)Photo:Kishin Shinoyama
怪我で1年半休養中だった中川氏が今年2月に行った、劇的舞踊『カルメン』再演で本格復活、
新作としては2年ぶりの共演となるふたり。
井関「なんだか以前より互いに信頼関係が増している感じがします」
中川「もちろん、Noismで一緒にやってきた年月の積み重ねもあると思うけれど、1年半離れていたことで、改めて相手の良さが見えてきたというか......」
井関「なんだか恋人みたいだけど(笑)、やはりあの人ってすごいな、ということを確認するために必要な時間だったんだと思います」
中川「今までは互いに"頑張って"踊っていた。けれど、今回はもっと自然」
井関「互いに、今やろうとしていることを信じあえている感じです。リハーサルの時間の中でも同じ目標に向かって進んでいるのが伝わってくるんです」
Noism作品では常に主要な役を演じてきた二人が、
踊りの見せ場でもあるパートナリングにおいて、
今新たな扉を開こうとしている。
井関「一人より、二人の方が、伝える力が大きくなる。踊りだからこそできることです」
『ラ・バヤデール―幻の国』リハーサルより Photo:Ryu Endo
ところで、前回も述べたが、
この作品の主要な人物である戦士は、バレエ界きっての"ダメ男"である。
金と名誉、美貌に目がくらんで恋人を裏切り、
挙句、失ったものの大きさを悔やみ薬物依存になるのだから。
その戦士を、中川氏がどのようなキャラクターとして演じるのかは見どころだ。
中川「戦士は野心家ですよね。しかしNoism版ではちょっと描かれ方が違います。金や権力が欲しいのではなく、
民族間の対立の中でいかに自分の属する部族に自由をもたらせるか、ということを根底に置いて、行動しているように思える」
井関「バレエでは、美しい皇女に目が眩むのだけれど、ここでは政治的な思惑の中で翻弄されているという風にも描かれているよね。残念な男には見えない」
中川「判断基準は個人的な欲望の延長線上だけではなく、自分が帰属している社会にもある。自分の部族の自由のために、個人的な愛情や葛藤を犠牲にしている感じがします」
ダメ男どころか、正義感の強い捨て身のヒーローじゃないか!
井関「権力に対する自由、というテーマの中で、バレエでは恋人に裏切られる主人公ニキヤが、
ここではマランシュという国における階級制度の最下位にいることで権力者たちからの影響を受けざるを得ない存在・ミランとして描かれています」
『ラ・バヤデール―幻の国』リハーサルより Photo:Ryu Endo
愛と欲、の対立が、自由と権力、の対立として描かれた
Noism版『ラ・バヤデール』。
おとぎ話から、現代社会にも通じる問題提起の物語に発展している?
井関「問題提起は、振り付けにも盛り込まれているように思います」
というのも、
今回は各場面ごとにテーマを金森芸術監督が提示し、
メンバーらがキーワードをそれぞれ上げ、
それに対して短い動きを各人が創る、
最終的にそれらのピースを金森氏が選択して編集し振り付けとしてつなぐ、
という過程を経て、振り付けが行われているからだ。
井関「今の時代誰でも振り付けはできる。しかし、作品には深い理念に基づいた演出が欠かせないものであるということを甘く見ているきらいがある。
穣さんは、作品くらい自分も創れると思っている現代の舞踊家たちに"疑いを持て"という問題提起を行っているように思えます」
劇的舞踊『カルメン』(2014年初演)Photo:Kishin Shinoyama
いったいどんな振り付けになっていくのだろう?
井関「それをお伝えしたいのですが、私の中でまだ全体がつながっていない。というのも、覚えるのが大変なんですよ。今までの作品は、
金森穣というひとりの人間が創った振り付けだったから、慣れていくうちにだんだん要領がつかめていき、予測もできるようになっていた。それが、
複数人の振り付けとなると、思いがけない動きの連続です。私も賢も振り覚えは早い方なのに、今回ばかりは苦戦しています。
賢は、最初のころ絶叫してたよね、わかんねーーーって(笑)」
動き方のパターンが全く読めない、というわけだ。
中川「まるで身体で伝言ゲームをやっている感じ。でも今回は、全員に見せ場がある」
井関「影の王国の群舞のシーンなんて本当に大変ですよ。だからこそとっても美しくまとまっています。複雑な動きがつながっていて、
バレエとは違うのだから個々の主体性が発揮されてもいい、なんて言われているけれど、群舞なのだから全体とのバランスも考えなくてはいけない。
高度なものを求められていますよ」
ところで、バレエの「ラ・バヤデール」は好きか? と尋ねたところ、
井関「これほどクエスチョンの多いバレエ作品はないですね。物語の筋書きがありながら、突拍子もないソロダンスが挟まれていたり、曲が突然ワルツになったり......」
『ラ・バヤデール―幻の国』リハーサルより Photo:Ryu Endo
中川「僕はバレエのバヤデールは知らなかったから、振り付けが始まってから作品に巻き込まれた、という感じです。
前情報が何もない分、動きから得る情報を信じるしかない。今、全体像がようやく見えてきたところなので、そろそろ役作りについて作戦を練らなくちゃ、と考えているところです」
『ラ・バヤデール―幻の国』リハーサルより Photo:Ryu Endo
どこでどういう風に壊れて行こうかな、と中川氏は言葉を続ける。
井関「この作品にとって、寺院の崩壊シーンは重要な意味を持つと思うんです。むしろこのシーンに向かっていることを念頭に置いて、
役柄に対する理解を深めることが重要だと思っています。愛だの欲だのをそのまま再現していたのでは、Noismがやる意味はないでしょう?
穣さんが崩壊のシーンを大切に温めているのも、大切な理由があるからだと思います」
ちなみにインタビュー時にはまだこの場面は完成していなかった。
バレエの『ラ・バヤデール』では、寺院の崩壊のシーンが割愛して上演されることが多い今、Noismがこの場面こそ重要と捉えている
その理由は、舞台の幕が開いてからのお楽しみ、というわけだ。
『ラ・バヤデール―幻の国』リハーサルより Photo:Ryu Endo
ところで、今回の衣裳は、ISSEY MIYAKEの宮前義之氏が担当する。
宮前氏は依然、『ASU』の時にも衣裳を担当しているが、直線であるプリーツを、
舞踊家の曲線的な動きと融合させたり、皮膚に近い素材を用い
ボディペインティングのような効果を狙った衣裳を提供したりと
印象的な仕事をされていた。さて今回は?
井関 「登場する部族それぞれの身体的な質感を持たせているのが特徴です。賢(バートル)の部族は硬質な"石"のイメージ、私(ミラン)の部族は"風"のイメージ。
衣裳の存在感もすごくて、私と賢がふたりで踊るシーンなどは衣裳の動きが一番美しく見えるタイミングも考えながら創っています。まるで3人で踊っている感じです」
やはりNoism版でも
戦士(バートル)と踊り子(ミラン)は愛し合っているのですよね?
井関「愛情で結ばれています。でも、二人で踊るシーンは一幕の一回だけなんです。そこでしっかり関係を見せないといけない。
ラブラブ、ということより、互いを大切に想っているということをしっかり伝えないと」
中川「短い場面だからこそ、印象的なシーンにしたいですね」
『ラ・バヤデール』という背景を用いた問題提起。
あなたの胸にはどんな風に響くことだろう。
6月からの公演ツアーが待ち遠しい。
公演特設サイトからは、あらすじや、登場人物の複雑な相関図も確認できる。
事前に頭に入れておくと、この作品の魅力をスケールアップして
楽しむことができるかも知れない。
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