立田敦子のヴェネツィア国際映画祭レポート2017 #03 ヴェネツィア映画祭、注目女優で観るべき作品はコレ!

Culture 2017.09.14

「女性の地位向上」は、近年の映画界での重要なトピックスのひとつだけれど、アネット・ベニングが女性として11年ぶりに審査員長を務める今年のヴェネツィア国際映画祭は、女優たちの活躍が目立ちました。
年間製作される映画の8割が男性主演の作品ということを考えれば、女性が主演、あるいは重要な役を演じている作品がこれほど多いことは、ちょっとした驚きです。

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『Hannah』主演のシャーロット・ランプリング。

この女優豊作の年に、最優秀女優賞を受賞したのが、『Hannah』(原題)のシャーロット・ランプリング、71歳。
『Hannah』は、初老の女性ハンナ(ランプリング)の日常を淡々と追いかけます。富裕層の家の家政婦として働き、演技クラスや水泳に通い、何らかの理由で収監されている夫に面会に行く。そして、息子からは拒絶され、孫の誕生日も祝えない。
ハンナの人生に何が起こったのか、観客の想像力を掻き立てるランプリングの佇まいに釘づけになります。

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レッドカーペットに登場したランプリング。

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ランプリング(左)と『Hannah』のアンドレア・パラオロ監督。

監督は、イタリアのアンドレア・パラオロ。1982年生まれで、これが長編2作目という若手監督です。イギリス人のランプリングですが、そういえば、出世作であるリリアーナ・カヴァーニの『愛の嵐』(74年)はイタリア映画でしたし、イタリアとは所縁が深いですね。
ちなみに、アカデミー賞には、フランス映画『まぼろし』(2000年)と英国映画『さざなみ』(15年)でも2度ノミネートされていますが、『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督の新作『Lean on Pete』(原題)も、今年のコンペに選出されていました。

下馬評では、シャーロット・ランプリングを抑え、最優秀女優賞の呼び声が最も高かったのが、フランシス・マクドーマンド、60歳です。英国のマーティン・マクドナー監督が米国のミズーリで撮った『Three Billboards outside Ebbing, Missouri』(原題)。

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『Three Billboards outside Ebbing, Missouri』主演のフランシス・マクドーマンド。2018年日本公開予定。
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

マクドーマンドは、殺害された娘の事件を未解決のままに放っておく警察に抗議する50代の母親ミルドレッドを演じています。
その手段は挑発的でかなり過激ですが、それでも観客がシンパシーを感じてしまう、人間味あふれるキャラクターを演じきれる人はそういない。しかもこの作品、3分に1回は笑ってしまうくらいブラックユーモア満載なのだけれど、その“話術”は持って生まれたユーモアセンスからくるもの。そういえば、この作品に潜んでいるジョークのセンスは、ちょっとコーエン兄弟に近いものがありますね(マクドーマンドの夫は、ジョエル・コーエン)。

そのコーエン兄弟の脚本を元にジョージ・クルーニーが監督した『Suburbicon』(原題)も、コーエン流ブラックジョークに満ちたクライムサスペンス。
1950年代の米国の郊外。とある一家に強盗が押し入ったことから、人々の秘密や欲望、偏見などダークサイドが浮き掘りになってきます。マット・デイモン演じる一家の主人の妻とその姉の2役をジュリアン・ムーアが演じています。美しく、恐ろしい女を演じるとムーアは本当に上手い!

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『Suburbicon』より、ジュリアン・ムーア(左)とマット・デイモン(右)。
©2017 Paramount Pictures

辛辣なジョークの達人といえば、英国の名女優ヘレン・ミレン。アカデミー賞主演女優賞を受賞した『クィーン』(2006年)もこのヴェネツィアでプレミアされ賞レースを疾走した作品でしたが、今回は、イタリアのパオロ・ヴィルズィが米国で撮った『The Leisure Seeker』(原題)がコンペに選出されました。
キャンピングカーに乗って、ボストンからキーウエストまでを旅する老夫婦のロードムービーです。認知症が進行している夫をこちらも伝説的な俳優ドナルド・サザーランドが演じています。

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『The Leisure Seeker』より、ドナルド・サザーランド(左)とヘレン・ミレン(右)。

>>若きアカデミー女優・ジェニファー・ローレンスから栄誉金獅子賞に輝いたジェーン・フォンダまで、ほかにも注目女優の作品をチェック!

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若くしてアカデミー賞主演女優賞に輝いたジェニファー・ローレンスも、主演作『マザー!』でコンペに登場しました。

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『マザー!』主演のジェニファー・ローレンス。郊外で夫と暮らす妻を演じています。

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『マザー!』は2018年1月19日(金)より日本公開。

ハビエル・バルデム演じる詩人の夫と暮らす瀟洒な家に、ある日、見知らぬ男(エド・ハリス)とその妻(ミシェル・ファイファー)がやってきたことから始まる惨劇を描いたホラー。
監督のダーレン・アロノフスキーとこの作品をきっかけに交際を始めたこともあり注目が集まっていますが、ふたりにとってヴェネツィアは特別なはず。ローレンスは、17歳の時に出演したシャーリーズ・セロンが主演、プロデュースを務めた『あの日、欲望の大地で』で08年、第65回ヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。アロノフスキーは、同年に『レスラー』で金獅子賞を受賞しています。何とニアミスだったのです!

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『マザー!』のダーレン・アロノフスキー監督。

また、「アウト・オブ・コンペ」には、米英ふたりの重鎮が登場しました。

7度のアカデミー賞ノミネート、『恋におちたシェイクスピア』(98年)で助演女優賞を受賞しているジュディ・デンチ82歳は、スティーヴン・フリアーズ『Victoria and Abdul』(原題)でヴィクトリア女王を演じます。女王と彼女に仕えたインド人アブドゥルの交流を描いたドラマ。英国の名匠フリアーズは、『クィーン』とはまた別の視点で王室の内部を描きます。

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『Victoria and Abdul』でヴィクトリア女王を演じたジュディ・デンチ(左)。 © Focus_Features

2度のアカデミー賞に輝いたジェーン・フォンダ79歳は、ロバート・レッドフォード81歳とともに、今年、栄誉金獅子賞(ライフタイム・アチーブメント)を受賞しました。
60〜70年代に夫婦役を演じたレッドフォードと38年ぶりとなる共演作『Our Souls at Night』(原題)は、ケント・ハルーフの小説を『めぐり逢わせのお弁当』(2013年)のヒットで知られるインドの気鋭リティーシュ・バトラが映画化したもの。ともに配偶者を亡くした近所に住む男女が、とあるきっかけで心を通わせ、人生を分かち合うというハートフルなドラマです。

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『Our Souls at Night』で38年ぶりに共演したジェーン・フォンダ(左)とロバート・レッドフォード(右)。 
© Kerry_Brown

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こちらも『Our Souls at Night』より。 © Kerry_Brown

ちなみにこの作品は、Netflixオリジナル映画として制作され、9月28日から世界同時配信される予定。
今年5月のカンヌでは、フランス国内で劇場公開しない映画は、来年からはカンヌのラインナップにはピックアップされないことが発表されましたが、ヴェネツィアは配信サービス系の作品にも寛容な姿勢を貫くようです。

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立田敦子(映画ジャーナリスト)
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上。

© La Biennale di Venezia - foto ASAC

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