立田敦子のカンヌ映画祭レポート2018 #09 批評家ウケした、今年のカンヌの注目作。

Culture 2018.05.21

カンヌ映画祭の受賞作は審査員の合議によって決まるので、批評家たちの評価とは異なることがしばしばあります。ということで、受賞作も決定したいま、今年のコンペ部門で現地の批評家で評判がよかった作品をいくつか紹介したいと思います。

パルムドールを受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』、グランプリのスパイク・リー監督の『Brackkklansman』はもちろん、既に紹介済みの濱口竜介監督の『寝ても覚めても』、ロシアのキリル・セレブレンニコフ監督の『Leto』も、詳細を省きますが評判は大変よかったです。

『Cold War』(原題)パヴェヴ・パヴリコウスキ監督(ポーランド)
監督賞も受賞したこの作品は、1940年代に共産主義政権下で設立されたフォーク音楽&舞踊団で、運命的に出会った作曲家・指揮者の男性と歌手の10年以上に及ぶ愛を描いています。全編美しいモノクロ映像というのもチャレンジングですが、フォーク、シャンソン、ロックと変遷する音楽もおもしろく、日本でも人気になりそうです。『イーダ』(2013年)で第87回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した名監督の新作。

180521-acd03b04f319fb0ee6f2655a5dedb54c.jpg1940年代のフォーク音楽&舞踊団で繰り広げられる愛を描いた作品、『Cold War』(原題)より。

『Ash is Purest White』(英題)ジャ・ジャンクー監督(中国)
2001年、ヤクザのボスの愛人だった巧巧は、抗争に巻こまれた彼を助けて服役するが、出所した時には彼は姿を消していたというもの。15年以上にも及ぶ激しい愛の物語のヒロインを演じるのは、ジャ・ジャンクーのミューズであるチャオ・タオ。カンヌ映画祭の常連で、13年には『罪の手触り』で脚本賞を受賞しています。

180521-4819bb11f5ded271cf93ad769d331932.jpgチャオ・タオの美しさが光る、激しい愛の物語『Ash is Purest White』(英題)より。

『Burning』(原題)イ・チャンドン監督(韓国)
村上春樹の小説『納屋を焼く』の映画化。主人公ジョンスはモデルのヘンミと付き合い出すが、アフリカ旅行から戻ってきた彼女は、現地で知り合ったという金持ちのベンと一緒だったところから話は始まります。捉えどころのないふたりに翻弄され、平常心を失っていく主人公をユ・アインが見事に演じています。村上春樹の独特の世界観の影響をまるで受けていないかのような、イ・チャンドン節は健在! 無冠に終わったのが信じられないです。

180521-ae3057b5a43f0488bb79cd7afbbe0270.jpg村上春樹の独特の世界観をイ・チャンドン節で描き出した新作『Burning』(原題)。

『Capharnaum』(原題)ナディーン・ラバキー監督(レバノン)
中東のどこかのスラム街で、母親に置き去りにされた幼い少年のサバイバルの物語。移民問題や貧困などさまざまな社会問題をはらんだドラマなので、女性審査員たちの心も捉えたのか、審査員賞に輝きました。

180521-8ad9ed90c0d75cadf820d537b10a7dd4.jpg中東のスラム街を舞台にさまざまな社会問題を浮き彫りにした『Capharnaum』(原題)は、審査員賞を受賞。

180521-あ.jpg審査員賞を受賞したナディーン・ラバキー監督。

『Happy as Lazzaro』(英題)アリーチェ・ロルバケル監督(イタリア)
貴族と呼ばれる一家に使え、人のよさから利用されてばかりいるラザロの旅を描いています。現代劇でありながら、超個性的な登場人物やファンタジックな語り口はフェリーニの影響を感じさせます。14年に『夏をゆく人々』でグランプリを受賞しているロルバケル監督ですが、今作は前作よりも完成度は高く、脚本賞を受賞しました。

180521-8821129ee087669e72ce8eab5136e777.jpg個性的な登場人物やファンタジックな語り口で、脚本賞を受賞した『Happy as Lazzaro』(英題)

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

>>関連記事
#01 セレブカップル出演作でスタート! 第71回カンヌ国際映画祭。
#02 カンヌ映画祭"場外乱闘"の続報!
#03 ゴダールがフェイスタイムで記者会見に登場!
#04 是枝監督『万引き家族』に絶賛の声!
#05 カンヌも"#MeToo"問題にフォーカス!
#06 是枝監督『万引き家族』、日本映画21年ぶりのパルムドール!
#07 カンヌ映画祭2018での日本映画の評判は⁉
#08 カンヌ不在&カンヌカムバックの監督たち。

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories