フィガロが選ぶ、今月の5冊 ジェーン・スーが父について語る、傑作エッセイ。

Culture 2018.08.03

何歳になっても親を見つめることはできる。

『生きるとか死ぬとか父親とか』

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ジェーン・スー著 新潮社刊 ¥1,512

当たり前のことだが、誰にでも、「良いところ」があれば「悪いところ」もある。人間は、人生の中で多くの他人と出会い、相手の「良いところ」を探し、「悪いところ」は見ないようにして、友人や恋人を愛する。

でも、家族となると、「悪いところ」をじっと見つめがちになる気がする。そして、その「悪いところ」を受け止めて関係を続けることができるのが家族の醍醐味だ。『生きるとか死ぬとか父親とか』は、ジェーン・スーが自分の父親について率直に綴ったエッセイだ。父親が何を着ていたか、何を食べていたか、細々と記されており、「ああ、こういう人が実際に地球上で生きているんだなあ」と人物をリアルに感じることができる。

家族を文章にする場合、周囲の目を気にして冷静さを欠き、まるで自己卑下するかのごとく家族卑下してしまったり、あるいは逆に「家族愛を書かなければ」という思い込みからステレオタイプな「良い人」に書いてしまったりする。でも、ジェーン・スーは落ち着いている。「良いところ」も「悪いところ」も、しっかりと平坦に連ねる。おそらく、ご自身の経済力によって父親との関係を築ける段になり、冷静さを得たのだと思う。

ジェーン・スーのお父さんは、かなりキュートだ。もしも、こんな方が他人として自分の近くにいたら、魅力を感じて、「友だちになりたい」と願うだろう。でも、家族として接する中では、お金の感覚に問題を感じたり、母親に対する態度で許しがたいことがあったり、いろいろと思うことがあるのにちがいない。

戦中に生まれ、戦後を生きたひとりの人間としての父親を、「悪いところ」も含めてしっかりと見つめようと決めたジェーン・スーの覚悟が一文一文に満ちている。見習いたい。何歳になっても、親を見つめることはできるのだ。

文/山崎ナオコーラ 小説家

1978年生まれ。2004年『人のセックスを笑うな』(河出書房新社刊)でデビュー。近著に『母ではなくて、親になる』(河出書房新社刊)、『偽姉妹』(中央公論新社刊)など。

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*「フィガロジャポン」2018年8月号より抜粋

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