things to do 2019 村上春樹に伊坂幸太郎、日本文学原作の映画に注目。

Culture 2019.01.22

原作のある映画は、原作とは別に成り立つクリエイション。
触れる人の感慨を深めてくれる、原作文学&映画両方に浸る知の時間を。

日本文学原作の 映画にじっくり親しむ。

原作小説のファンは小説と映画の違いをつい拒みがち。だが、ケネディ暗殺の真相の有力仮説に触発された伊坂幸太郎会心の長編『ゴールデンスランバー』が、大統領制下の政治スキャンダルを体感した韓国の新鋭の手で、恐怖感をどす黒く増殖させるスリルを見よ。小説を一旦解きほぐし、異なる風土で再構築する映画の冒険は、村上春樹の好短編『納屋を焼く』を韓国の巨匠イ・チャンドンが大胆に翻案した『バーニング 劇場版』によって極限にいたる。

「役に立たない納屋を焼いてる、と謎の男が明かすのがね」と、イ監督は語る。小説の文体は洒脱だが、「比喩として、使い道なく役立たずと人やシステムに決めつけられる、競争社会に組み込まれた近年の若者の怒りを、この謎の解決や結末を持たないミステリーに感じたんだ」。主人公が空港でフォークナーの短編集を読むのを「村上さんの文学的宣言」と監督は受け取る。そして「痛苦に耐える人の物語を描くのが作家の使命」というアメリカ南部作家の志を継ぎ、都市小説を主役の故郷の「解体された農村共同体」へと拡げる。その怒りの爆発力! 小説に依存するのではなく、敬意ある決闘を小説に挑む映画を、私たちは求めている。

知性の鉄人監督が描く物語の奥。
『バーニング 劇場版』

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作家の「僕」が納屋の放火という「彼」の内緒話を聞いた後、「彼女」は姿を消す。映画は3人をジョンス、ベン、ヘミと命名。村上春樹の短編との異同の肝は、冷静な「僕」と違い、作家未満のジョンスが幼なじみヘミの不在に恋をこじらせること。なお、「彼」=ベンのキャラクターはフィッツジェラルドのギャツビーを匂わせ、フォークナーには短編『Barn Burning』(納屋を焼く)がある。

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『蛍・納屋を焼く・その他の短編』 村上春樹著 新潮文庫 ¥498

『バーニング 劇場版』

監督・共同脚本/イ・チャンドン
出演/ユ・アイン、スティーブン・ユァン、チョン・ジョンソ
2018年、韓国映画 148分
配給/ツイン
2月1日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開

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アクション精度も高いエンタメ。
『ゴールデンスランバー』

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女子を暴漢から守った青年・青柳は、何者かの陰謀で首相暗殺爆弾テロの犯人に仕立て上げられる。原作は視点や時間軸を変えた5部構成。緻密に伏線を張りつつ、ビートルズの名曲をフックに逃亡劇を友情譚へと着地させる。韓国版映画は逃亡が攻撃に転ずる新趣向を凝らし、活劇に厚みがある。屈指のストーリーテラー、中村義洋監督の日本版との比較も一興。

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『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎著 新潮文庫 ¥1,015

『ゴールデンスランバー』

監督/ノ・ドンソク
出演/カン・ドンウォン、キム・ウィソン、キム・ソンギュン
2018年、韓国映画 108分
配給/ハーク
シネマート新宿ほか全国にて順次公開中
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texte : TAKASHI GOTO

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