孤独な少女と母、そしてフクロウが奏でる優しさの物語。

Culture 2019.01.27

もの言わず舞うことが表現する、母と娘の「対話」の強靭さ。

『マチルド、翼を広げ』

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子育てなどの重圧か、壊れかけた母への9歳のマチルドの応対はときに守護者のよう。少女が沈思する森の水辺のシーン。その浮遊感と飛翔感が麗しい。

人に対する優しさってなんだろう、と考えます。今のところ辿り着いているのは、「わかろうとすること」と「放っておかないこと」です。笑顔とか、共感的な返答というのは優しいイメージですが、そのもの自体が優しさとは言い切れません。無表情でも無口でも、怖い顔でもきつい言葉でも、相手のことを相手の立場になって考える人には優しさが感じられるはずです。

マチルドは、社会でうまく振る舞えず「思考が逃げていってしまう」と嘆く母に振り回されながらも否定せず、むしろ母がなるべく浮かないように気遣いを続けています。そのせいか学校でも家でも結構孤独。そんなマチルドのバディは、母からプレゼントされたフクロウ。なんとこのフクロウ、マチルドにだけ喋ります。もしかしたらマチルドの孤独が生み出した幻の会話かもしれませんが、それはどちらでも良い。大切なのはマチルドに支えがあることです。森の哲学者なのに少し抜けてるこのフクロウとマチルドは、授業用の人体模型の死を憂い、森に埋葬します。掘った穴にまず自ら入り、死者の気分をわかろうとするマチルドはやはり優しい。一方、母は徐々に破綻してしまい入院します。月日が経ち成長したマチルドと母が大雨の中、無言で舞う終盤の場面。母が恐らく言葉では捕まえきれない何かを舞で表現し、それにマチルドは応え、また母が舞ったり抱きしめ合ったり。無言ですがこれはまさに「対話」です。母とマチルド、優しいふたりがついに交わす対話を見つめるフクロウ。マチルドの父も含めて、優しい人ばかりの本作。優しさって愛なんだ、と実感しました。

『マチルド、翼を広げ』
監督・共同脚本/ノエミ・ルヴォウスキー
出演/リュス・ロドリゲス、ノエミ・ルヴォウスキー、マチュー・アマルリック、アナイス・ドゥムースティエほか
2017年、フランス映画 95分
配給/トゥモローフィルムズ、サンリス
新宿シネマカリテほか全国にて公開中
www.senlis.co.jp/mathilde-tsubasa
文/星野概念 精神科医、ミュージシャン

総合病院に勤務し、精神科医の道を歩む。共著に、いとうせいこうとの対談本『ラブという薬』(リトルモア刊)。「ブルータス」「ハナコ」ほか、多数の雑誌で現在連載中。音楽活動も継続中。

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*「フィガロジャポン」2019年2月号より抜粋

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