フィガロが選ぶ、今月の5冊 独特のユーモアが光る、イスラエル人作家の中短編集。
Culture 2019.02.11
類いまれなるユーモア、人生を賛美するセンス。
『クネレルのサマーキャンプ』
エトガル・ケレット著 母袋夏生訳 河出書房新社刊 ¥2,106
イスラエル生まれの作家エトガル・ケレットの独特のユーモアの源泉は、彼が歩んできた人生にある。両親もホロコーストの経験者であり、常に戦争にさらされる生活を送ってきた。どんな境遇に生まれたとしても、人はその先を生きていくほかない。そのほとんど祈りに近い信念が調子っぱずれのメロディのような彼の紡ぐ物語を根底から輝かせている。表題作は自殺者が集うあの世の話で、すでに死んでいるオレはかつての彼女を捜している。31の物語の中で死は生のすぐ隣にあって、唐突な幕切れに心をつかまれてしまうのはいまを映しているからだろう。
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*「フィガロジャポン」2019年2月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI