なぜイチゴ柄のドレスがネットを席巻したのか。
Culture 2020.08.25
これほどまでネット上で注目を浴びるとは想像もしなかったイチゴ柄ドレスが、パンデミック中にもかかわらず流行した。そして状況を一転させたのだ。
ウエストをリボンできゅっと結び、フリルが施されたピンク色のイチゴ柄チュールドレスの画像がネット上にあふれている。ヴィンテージファッションとハリー・ポッターのファンである若きダンサー、ヴィオレッタ・コミシャンがこのチュールをあしらったイチゴ柄ドレスを着ている姿や、アーティストカップルがイチゴ柄を称賛している様子、あるインフルエンサーがヒマワリ畑でポーズをとっている姿などを目にすることができる。ストロベリードレス(strawberry dress)という単語をインスタグラムで検索すると、そうした写真が山のように出てくるのだ。またティックトックでも同様に、このハッシュタグが760万回表示され、このドレスに関連したビデオやイラスト、写真などが掲載されている。まるでディズニーの世界から抜け出てきたような甘いドレスには、誰もがウキウキするに違いない。
---fadeinpager---
コットンフリース素材が人気。
コソボ出身でニューヨークを拠点に活動するデザイナー、リリカ・マトシは2019年7月にこのドレスを発表した。今年の7月にはこのドレスの売り上げは前月同時期に比べて1073%に急増し、SNSを席巻した。デザイナーはインフルエンサーたちとチームを組み、数十万人のフォロワーにこのイチゴ柄ドレスを具体的に表現してほしいと呼びかけたが、この突然のバイラル(口コミ)はそれだけでは説明がつかないほどである。
ネット上のバイラル現象の記録に特化したアメリカのサイト「Know Your Meme」の編集長であるマット・シモコヴィッツ氏は、この人気が新型コロナウイルスによるパンデミックが始まって以降ブームとなっている「ステージコア(田舎暮らしをロマンティックに解釈した美学)」と関係があることを示唆した。
ファッションサイトのスタイライト(Stylight)によると、ティックトックで顕著なこの傾向は、“素朴でシンプルな暮らしへの回帰”を人々が喜んでいる証拠だという。服そのものに関していえば、ロックダウン中、多くの人が着心地のよいコットンフリース素材に関心を寄せ、リリカ・マトシがデザインするヴィクトリアンスタイルとナイトガウンの間のようなカーディガンや花柄、さらにパステルのドレスへ注目が集まった。
19歳の少女、ソフィア・モートンソンはお金を貯めて韓国旅行をする予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大のせいでキャンセルせざるを得なかった。そして貯金を費やし、490ドルのこのドレスを購入した。「特にいまのような状況下で、この素敵なピンクのドレスが欲しくない人なんていないと思うわ。このドレスは現実逃避なの。これを見ているとパンデミック以外のことを考えられるから」
モデルのシャンティ・チェトラムは撮影でこのドレスを着用した後、こう語った。「世界は狂気に満ちているわ。パンデミック中、家に閉じこもりっきりでいるよりも、いつも草原の中でピクニックをしている気分でいられるほうが素敵でしょう」
---fadeinpager---
グラミー賞では最悪なドレスとして注目を浴びたけれど……。
しかしながら、フランスで人気のチーズ、ベル・デ・シャンのパッケージに描かれた農村の少女のように愛らしいこのドレスは、今年1月の時点ではさほど注目を浴びていなかった。さらにはインスタグラムに最も多く投稿されたドレスのひとつとなる前に、このイチゴ柄ドレスはグラミー賞のレッドカーペットに登場した最悪なドレスのひとつとして、いくつかの米国メディアによって注目されてしまったのだ。その例がプラスサイズモデルのテス・ホリデーで、グラミー賞授賞式でこのドレスを着用していた。
この数週間の間、自身がイチゴ柄ドレスを着用していたことがネット上で騒ぎとなったのを受けて、テス・ホリデーは一連のゴシップを非難すべく自身のインスタグラムにコメントを投稿した。「このドレスはベーシックなデザインではないけれど、ここ最近、私の周りでも最も人気のあるアイテムのひとつ。いまではティックトックでたくさんの痩せた人たちがこのドレスを着て、世界中から注目されているわ。端的にいえば、私たちの社会は太った人が嫌いで、特に太った人が活躍しているのを見るのが嫌なのでしょう」
このドレスは、独立系ブランドには珍しく幅広いサイズ展開をしていることでも成功を収めているといえる。
【関連記事】
インスタグラマーという職業の理想と地獄。
インスタフィードがモノクロセルフィーであふれた理由。
明るい気分にさせてくれる、日々を楽しむセレブの写真。
texte : Sabrina Pons (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi