レナ・マーフフ、YouTubeを揺るがすポップ旋風。

Culture 2020.12.06

レナ・マーフフ、ファッション界も熱烈なラブコールを送る彼女。編集に工夫を凝らしたリアリティ動画が人気沸騰中で、数百万人のフォロワーを持つ22歳の起業家が『いつもプラス』を上梓した。「ガールボス」を自認する注目の彼女にインタビュー。

レナのYouTube→Léna Situations

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あなたの職業は?との質問にレナ・マーフフから返ってきた答えは「インポスター症候群のユーチューバー」。インポスターですって? 彼女が運営するユーチューブのチャンネル「レナ・シチュアシオン」の登録数は168万人。インスタグラムは265万人、TikTokは140万人、ツイッターは93万人ものフォロワーを数える。SNS界に彗星の如く現れたクールキッドは、いまやZ世代だけでなくミレニアル世代全般のアイコンでもある。フェイスブックは?と聞くと、「もうずいぶん利用していないわ。あれは私たちにとっては過去のメディア!」と笑った。

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バルマン特派員

愛嬌たっぷり、ざっくばらん、元気溌剌。いたずらっぽい大きな目、晴れやかな笑顔が可愛いブルネット。レナは、自然な魅力と誠実さをトレードマークにユーチューブでいま大活躍中だ。2016年から、日常の出来事や、仕事やプライベートのエピソード、仲のいい仲間たち(“スクワッド”と彼女は呼ぶ)と過ごすひとときを題材にした動画をSNSで配信開始。どんなにイライラしている人でも一発で機嫌が直ってしまうような、ハッピーでエネルギーにあふれた映像が人気を呼んでいる。なかでも有名な「8月のvlog」は毎年8月、1日1本の動画をあげる、4年前からのシリーズで、ネットフリックスの人気ドラマ並みに多くのファンがついている。動画を見てすっかり気に入ったジャーナリストのロイック・プリジャンのバックアップを得て、レナは今年ついに輝かしいファッションの世界にも進出。ファッションはレナにとって10代の頃からの憧れの業界だ。

「彼女のことは前からフォローしていました。ユーチューブの動画を見てこれはおもしろいと。シットコムのような描き方ですが、これがやけにハマるんです」とロイックは話す。「レナはプロダクション会社の仕事をひとりで全部やっている。それに、とんでもないカリスマ性の持ち主。パチパチ弾けるレモネードのようで、彼女が笑うと、すべてが光り輝く。まさに太陽の光のような女の子です」。ファッションドキュメンタリーのベテラン監督でもあるロイックは、今年2月、ミラノファッションウィークから帰国後、2週間の自宅隔離を余儀なくされた。そこで自分が行うはずだったバルマンのショーの取材をレナに一任することに。その時の動画が「レナ・シチュアシオン、バルマンに潜入!」というタイトルの爆笑ビデオだ。ファッション業界は閉じられた狭い世界だが、拍子抜けするほど素直なこの動画が配信されるや、再生回数はあっという間に数百万回に達した。「正直なところ、どきどきしていました」と特派員のレナはいたずらっぽく話す。「ショーを見たことはあったけど、立ち見しか知らなかった。ところが今回はフロントロウ、しかも周りはセレブだらけ」

ロイック・プリジャンのこの後押しがきっかけで、それまで彼女のことをまともに「計算に入れていなかった」ファッションというきらびやかな世界が彼女にラブコールを送り始める。ディオールやミュウミュウ、プラダからコラボレーションの依頼が舞い込み、ファッション界の王子ことシモン・ポルト・ジャックムスからは、ごく限られた人たちだけを招いて行われた麦畑を会場にした最新ショーにも招待された。「夢を見ているみたい」と彼女は言う。

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「ポジティブはポジティブを呼ぶ」

そんな彼女の著書が9月に出版された。タイトルは『いつもプラス』。これは自伝というより(「まだそんな年齢ではない」とレナは言う)、自分に自信を持つための鍵を提供してくれる自己啓発本だ。自分の強みと弱点を知る、時間管理術を身につける、ありのままの自分を認める、他人を受け入れる、別れの後の立ち直り方……。22歳のガールボスはこうしたトピックスをすべてマスターしている。そんな彼女が自ら成功の秘訣として挙げるのが、ファンの間ですっかり有名になった “+ = + ” という等式だ。ブランド「ジェニファー」と共同でデザインしたTシャツにもプリントされているこのスローガンを、彼女は文字どおり実行している。「バカロレア試験の時の下書きに必ずメモしていたのがこの式なの。“全力で突き進め”という意味よ。ポジティブな気持ちはポジティブな結果をもたらすものだから」

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レナ・マーフフ『いつもプラス』ロベール・ラフォン刊、152ページ、19,50ユーロ

2016年、ユーチューブにチャンネルを開設して動画を投稿し始めた頃、パリのモーダ・ドマーニ研究所のファッション&ハイブランド専門マーケティング・コミュニケーション科の学士課程に通っていたレナは、学費と在学3年目のニューヨーク留学費用のために6つものアルバイトを経験した。「私が裕福な家庭に育ったと思っている人もいるようだけど、そうではないの。でも両親はお金の代わりに、たくさんの愛情を注いでくれたし、いつも私のことを応援し、やりたいようにさせてくれた」。デザイナー兼モデリストの母サブリナからは、ファッション好きの遺伝子を受け継いだ。レナの動画でもおなじみの人形劇俳優の父カリムからは、優しさと明るさを受け継いだのだろう。「両親ともアルジェリア生まれだけど、テロがあった頃にアルジェリアを逃れてきた。両親にとって家族は何よりも大事なもの。それから私が自立した女性になるように育ててくれた。誰にも頼らずに生きていけるようにならないといけない、特にパートナーに頼るようではいけないと、両親からいつも言われてきた。いまの私はまさにこの“ガール・パワー”を地で行っているわ」

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ポップカルチャーとDIY

両親の励まし、活発な性格(“過活動”児だった、と彼女は言う)、そして情熱。ニューヨークから戻ってきた彼女が新たな試練を乗り越えるには、それだけあれば十分だった。「その頃、貯金を使い果たして、授業料が払えなくなってしまった。そのいっぽうでユーチューブに開設した“レナ・シチュアシオン”の評判が上がり始めて。それでこれを仕事にしてみようって考えたの」。そこでレナは2016年の夏にシリーズ最初となる「8月のvlog」をスタート。まったく新しい番組作りに挑戦する。ケイシー・ナイスタットやゾエラといったユーチューバーに感化され、ドラマ「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」や「ハイスクール・ミュージカル」などアメリカのポップカルチャーに触れて育ったレナは、自分自身の生活をそのまま見せることを思いつく。ファッションブロガーのリタッチを施された凝りに凝った動画とはまさに対極の発想だ。レナはまた編集にも力を入れた。「編集の仕方は、全部、ユーチューブのチュートリアル動画で覚えたわ」。そうして出来上がったのが、うれしいことも嫌なことも包み隠さずさらけ出した、陽気でフレッシュな、創意に富んだ動画。ネットフリックスで見て以来大ファンというテレビドラマ『フレンズ』のように、ときには歌手のビラル・アサニや、恋人のセブ・ラ・フリットといったユーチューバー仲間、父親のカリムや親友の看護士のソレーヌなど身近な人たちが特別ゲストとして出演することもある。

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レナ・マーフフ世代

最近ラジオ局フランス・アンテールの番組でレナをゲストに迎えたパーソナリティのアントワーヌ・ドゥ・コーヌは、彼女のことをポップカルチャーのミルクシェイクに例え、温かいまなざしをもって世界を眺めるその姿勢を賞賛している。活力に満ちあふれたエネルギーの塊のようなレナは典型的なワーカホリックでもある。

ヴァカンスや引っ越しのエピソードや、旅を題材にした動画の編集に何時間でも費やしまう。「アイコニック」、「ショックだわ」、「わかった?」が口癖で、フランス語混じりの英語とアラビア語の間投詞が入り混じった造語(「ウェッシュ、チルいねー」など)を使いこなすレナは、ざっくばらんな話し方を好む彼女の世代を体現する存在でもある。解放運動に積極的に取り組むところも同世代の若者と同じで、ホモフォビアや性差別、人種差別といったテーマでも定期的に発言している(環境問題はあまり取り上げていないが、そのことについては「完璧であることが求められる分野だから。私はまだそれほど知識がない」と、謙虚に認めている)。要するに、誰からも好かれる女の子、それがレナだ。(彼女を“思考力を奪われたヘイター”と呼ぶ、悪意のあるコメントをする人たちはもちろんいるが)これだけ好感度が高いのも、いい時だけでなく、大変な時も、いつもありのままを晒け出しているからに違いない。

ところで、いまはどうやって生活しているのだろう?「動画はほとんどお金にならないけど、会社を立ち上げました。ブランドとコラボレーションして、コンサルティングや、プロダクトの共同制作をしているの」。2年の間にプロのユーチューバーとして世界各地を訪れる機会も得た。2019年のE!ピープルズ・チョイス・アワードでポップカルチャー・インフルエンサー賞を受賞した際にロサンゼルスを訪れたのをはじめ、東京、マイアミ、バンコク、オーストラリア、セネガル、南アフリカ……「いまもまだ信じられない」と彼女は話す。「でもだからこそ、自分のやっているすべてのことに関して、もっと頑張ろうという気持ちになる」。動画、旅、編集、様々な分野の才能とのコラボレーション、その合間に本まで出版した。休息はきちんと取っているのだろうか?「休むことはめったにないわ。サッカー選手にサッカーをやめたいかって、聞くようなものよ!」レナはただいまゴールに向けて邁進中だ!

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texte : Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)

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