失恋が脳、身体、心臓に及ぼす影響とは?

Culture 2020.12.18

軽視されやすい失恋の痛手。しかし身体や脳や心臓に及ぼす影響は身近な人の死と同じだという。専門家に解説をお願いした。

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失恋が心身に及ぼす影響は依然として軽視されがち。photo : iStock

「大丈夫、またすぐに別の人が見つかるよ」。「まだいくらでも出会いはあるよ」……。失恋した人にかける定番の慰め言葉だ。恋人との別れは辛いものだが、苦しみは一時だけということだろう。しかし、臨床心理士で『失恋』(1)の著者でもあるリザ・ルテシエに言わせると、それはまったくの間違い。失恋が紛れもない「トラウマ」であることを世間に認知させるため、彼女は何年も前から「闘い」を続けているという。なぜなら、愛する人が去ってしまうことによって、身体や心臓の機能には、実際にさまざまな影響が出るからだ。

身体が常時警戒態勢になる

「恋をすると、脳の中の、他者の感情の認知に関わる部分である扁桃体周辺の活動が低下します」と説明するのは、ジュネーブ大学神経心理学科の感情・情動神経科学教授ディディエ・グランジャンだ。「つまり恋をしている人は、常にある種の興奮・陶酔状態にあり、ストレスを感じにくくなるのです」

逆に、愛する人が「いなくなる」と、すべてが崩壊する。「別れによって、これまで作り上げてきた習慣がすべて壊れてしまう。さらに、もう一度すべて作り直さなければならないという事実が不安を著しく高めます」とグランジャンは説明する。それは、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンが通常時より多量に分泌されるため。その結果、身体は常に警戒態勢となり、恒常的にストレスに晒されている状態になる。突然の別れの場合はさらに危険だ。「程度の差はありますが、失恋のストレスから鬱になることも。最悪の場合は自殺を図るケースもあります」とグランジャンは言う。

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脳の“バグ”

失恋によって睡眠にもさまざまな影響が出る。睡眠の最も重要な役割は、神経システムの再生だ。「睡眠周期のひとつであるレム睡眠は、日中のストレスを解消する役目を果たしています」とルテシエは説明する。「許容範囲を超える出来事が起きると、脳の“記憶と感情”に関与する領域に残ってしまい、バグを作り出します」。その結果、脳は警戒態勢となり、寝る時にあれこれと雑念が渦巻いて寝つけなくなる。当然、睡眠不足は身体に影響し、いらいらし、怒りっぽくなる。

体重が落ちる

「失恋した人は体重が平均5kg落ちます」とルテシエは言う。食欲不振、消化不良、疲労……。失恋は心臓や呼吸器官に始まり、身体全体へ次から次へと影響する。グランジャンによれば、運動機能や集中力も低下するという。「副交感神経はリラックスしている時に働き、心拍数を減少させ、消化管の運動を調節する役割も果たしていますが、これが作動しなくなるのです」。その結果、心身が休まらず、消化器官のトラブルを起こしやすくなる。そこから食欲不振や、時には大きな体重減少に繋がるのだ。

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“ニューロンの崩壊”

恋人が去った時の「絶望的な空虚」についてグランジャンは言う。「恋人はそれまで脳のネットワークの大部分を占めていたのです。それがある日突然、何もなくなってしまう」。突如ぽっかりと空いたこの穴から、孤独と挫折の入り混じった深い感情が生まれる。「私は“愛の裏切り”とも呼んでいますが、恋人と別れる時には、自我や世界や他者について、それまで構築してきた図式が何もかも粉々になってしまう」と言うのは、モントリオールのマギル大学で心理学を研究するアラン・ブリュネ。「自我」が根底から覆され、どうして私が?私が何をしたの?どうすればよかったの?と次々に疑問が湧いてくる。ブリュネはこう続ける。「直観も分別も働かなくなっているので、堂々巡りの自問を繰り返す。そしてもっと早く気づけたはずなのに、と後悔します」

失恋、離婚、死別、大切な人との「別れ」に苦しむ人へ。

過去と関わりを持つレジリエンス
心理的なレベルでは、失恋を契機に過去に経験した苦痛が再び活性化されることがある。穏やかで安心できる、“安全”な環境で幼児期を過ごした人の場合は、落ち着いた恋愛関係を築くことができ、失恋のような苦境からも比較的容易に立ち直ることができる。逆に、不安定で暴力的な環境で育った場合は、失恋が「コップの水が溢れる最後の一滴」になることがあるとルテシエは言う。「見捨てられた経験や信頼感の喪失といった幼少期の問題が再び表面化しやすい」とグランジャンは言う。

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心臓の機能への影響

「原因が何であろうとストレスは心臓や血管の不調の要因となります。健康な心臓の持ち主でも同じこと」と、パリで開業する心臓専門医ドミニク・ゲジュ・メニエは指摘する。「ブロークンハート症候群」、または「たこつぼ症候群」は、近年研究が盛んに行われ、関心が高まっている新しい疾患だ。「たこつぼ症候群は、ネガティブかポジティブかにかかわらず、あらゆる感情的ストレスが原因となって起こります。失恋がきっかけで発症した例もあります」。そう語るのはトゥールーズ大学病院心臓科のクレマン・デルマ医師だ。

特に女性に多いたこつぼ症候群は心筋梗塞に似た心疾患の一種で、ときに症状が重くなることもある。不整脈を伴う動悸から、心臓の収縮不全まで症状は多様だ。「たこつぼ症候群から突然死に至ることも。心臓に血液が十分供給されなくなり、心臓が止まってしまうのです。しかしこれはかなり重症のケースに限ります」とデルマは解説する。

身近な人の死に匹敵する喪失感

恋に落ちると、脳内の報酬系システムがフル稼働し始め、エンドルフィンや幸福ホルモンと呼ばれるドーパミンが分泌される。失恋した時に、この「エンドルフィンを生み出す刺激」を求め続けてしまうことで、喪失感が生じる。前述の臨床心理士ルテシエによると、失恋は身近な人の死に匹敵する出来事だという。「心理的な観点から見ると、まったく同じ現象です」

愛する人を失うことは、去られた側にとっては、時間と忍耐を必要とする出来事。「カップルは互いに相手に依存し合っているとよく言われます」と前述のブリュネは話す。「人間は愛着を抱く生き物です。愛着を抱くことには長けていますが、離れることは苦手なのです」

(1)Lisa Letessier著「La Rupture Amoureuse」Odile Jacob出版 

texte : Louise Ginies (madame.lefigaro.fr)

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