パンデミックで年を取ったと感じるのはなぜ?

Culture 2021.05.13

パンデミック宣言から1年以上経った。フランスでは、20歳から40歳の世代に、この間に10歳も年を取ったような奇妙な感覚が広がっている。急な老け込みはコロナ禍がもたらした二次被害? 体験談を集めた。

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生活リズムがスピードダウン、社会的交流がない、関心の対象が大人と同じ…パンデミックで年を取ったと感じるのはなぜか。 photo : Getty Images

「40歳ですが、72歳の気分」。これが、カミーユに年齢を聞いたときの返事。原因は? パンデミック、全国夜間外出禁止令、そして3度のロックダウン。より正確に言うと、彼女の場合、新しい話題がないことと変化のない日常が「衰えた」と感じさせる要因らしい。

「初めてのことを経験するという刺激が若さのもとなのに、今は毎日が同じことの繰り返し。驚きがない」と彼女はいう。「身体にも影響が出ています。疲れやすくなった。友人同士で雑談するときも、話題といえば食べ物か自分の健康のことぐらい。気が滅入ります」

急な老け込みは、パンデミックによる二次的被害なのだろうか? いずれにせよ、同様の感想は、何人もの人から寄せられている。活動休止を強いられているよう。リズムが遅くなった。実年齢とずれた暮らしを送っている感じ。確かに2020年3月に社会生活が中断されて以来、スケジュールは空っぽ。生活リズムもスピードダウンしている。

コロナ以前は毎晩外出していたというのは、28歳のダフネ。若さを享受していた彼女は、急激な方向転換を余儀なくされた。「前は夜にひとりで家にいると、社会生活を疎かにしているような気分になった」と彼女は語る。「いまは何もできないので、Netflixを見ながらハーブティーを飲む。アルコールの量もずいぶん減ったし、寝るのも早い…自分でもこういうのって”年寄り”じみているなと思います」

ズレている感じ

もちろんこうした感想はどれも頭の中で描いたイメージ、若さや老いについての固定観念から生じたもので、紋切り型ではある。いずれにせよ、パンデミック下での生活は「若者の生活というステレオタイプ」とかなり違う、というのは、対人関係を専門とする社会心理学者のドミニク・ピカールだ。「どちらかといえば高齢者の生活のイメージに近い毎日を送っている感じです」

それはまさに看護学校に通う20歳のローラの実感だ。「若さを満喫した後の大人の生活はこんな感じかなと思います」。彼女は自分が「本来なら今しているはず」のことを実際に経験するのが夢だと言う。たとえば、研修が終わった後に、テラスでビールを飲むとか。決して特別ではないが、彼女のような年齢の若者には不可欠なことだ。高等教育を受けながら自立した生活の第一歩を踏み出し、大人の暮らしを味わうために。

この「大人の生活」の中で、ローラはいま、家事をきちんとこなすという面だけを体験している。彼女に言わせると、あまり嬉しくない大人化が進んだということのようだ。「家事全般、清潔な服を着るために洗濯をするとか...。若くてももちろん身の回りのことは責任を持ってするべき。でも適当にやったり、さぼったりすることもありますよね」と彼女は話す。「それが、家に閉じこもっているので、家事をしないわけにはいかない。そもそもそれしかすることがない」

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時が止まった空間

哲学者のマリー・ロベールは、パンデミック宣言から1年以上たったいま、若者が抱いているこの老いの感覚は、極度の倦怠感、時が止まった世界、視界の狭さに関連しているという。「同じことの繰り返しがずっと続くと、習慣に縛られているような気持ちになります。突然、あらゆる可能性が閉ざされてしまった。可能性があるのが若さであり、停止という側面は老年の特徴とされているのに」

移動制限も知らぬ間に脳に影響を及ぼしている。「先のことを考えるという人間本来の能力が、空間内の移動の自由がないという状況に直面している」とロベールは続ける。「私たちはいま初めて、移動の自由を制限することが思考の自由も制限することに気づいたのです。制限が課されたことで、新しい観念も生まれています。たとえば、私たちは夜7時(注:夜間外出制限の開始時間)に時計を見るようになりました。夜の7時といえば、まだ宵の口なのに! 若い人たちにとってはなおさらです」

時間との関係も変化した。若さにつきものの即時性は、どんちゃん騒ぎ、つかの間の交流、パーティといった物事とともに退場し、代わりにスパンの長い時間概念が登場した。「今はむしろ将来のことを考えています。たとえば、今できないことがあっても、その分、後で楽しめばいいと思うようになった」と28歳のピエールは話す。「そして、どんな大人になりたいかをずっと考えています」

関心の方向も一変した。「アパルトマンの内装に興味が生まれました。部屋をデコレーションしたり、植物を植え替えたり」とピエール。「毎月の生活費を把握して計画的にお金を使うために、家計簿をつけるようになりました」

「2日に1日はバーでシャルキュトリの盛り合わせを食べていた」というダフネも、今は体を動かす機会が減ったかわりに健康にいい食事をしようと、旬の果物や野菜はどんなものがあるかと考えるようになった。「服を選ぶときも、“おしゃれ”かどうかではなくて、着心地のいい、実用的なものを探すようになった」

病が常に身近に

1年以上もの間パンデミックの中で暮らしていると、若さならではの軽さや欲望も希薄になる。「感染リスクがあるので、責任を感じるし、あまり軽率な行動はしなくなりました」と28歳のロバンは話す。「大人になったら、若いときと同じようには物事を考えなくなる。コロナでその変化が早まったように感じています」

「死は若者の世界には属さない」と前述のピカールはコメントする。「それなのにいま私たちは絶えず死に直面しています」

「いまや病は日常的なものとなり、そこら中に存在している」とロベールは言う。「病は目に見えませんが、誰もが恐怖を感じています。病が日常に住み着き、私たちが流動的な関係を持つことを阻んでいるのです」。心はもう無垢ではなくなり、行動からは自発性が失われてしまった。「夜間外出禁止措置を破るなど、違反をするときでさえ、言い訳をあらかじめ用意しようと考える。私たちは操作されているのです」と哲学者のロベールは付け加える。

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分別のある健全な生活?

若さゆえの軽さが失われたことを嘆く人もいるが、分別がついたと言う人もいる。夜遊びが大好きで、夜の10時から翌日正午まで遊び明かすこともざらだったというシャルリーは、心理学を学ぶ25歳。コロナ禍でそんな熱い青春にブレーキを掛けざるをえなくなった。「パーティがないのは寂しいけど、新しい生活スタイルを取り入れてから、体調がよくなりました。もう前ほどお酒を飲まなくなったし、食生活も改善したし、睡眠もしっかり取っています。以前の生活リズムに戻りたいとは思いません」と彼女は断言する。

ピエールは「以前より少ないもので満足する」ようになったと言う。「この状況が終わった後、出掛けようと誘われても、“やめておく、僕は行かない”と気楽に言えるようになると思う。人付き合いの義務感のようなものから解放された」

もっと若い世代の場合だと、状況はなかなか厳しそうだ。「青春を台無しにされたという気持ちがだんだん強くなってきている」と20歳のローラは打ち明ける。「誰かがわざとやったわけではないとわかっているけど、私たちの世代は上の世代の人たちがしたことをする権利がないんだと考えてしまう」

長期的にはどんな影響が出るのか? パンデミックは私たちを根本的に変えてしまったのだろうか? 「私たちはすぐにまた元の習慣を取り戻すと確信しています」とロベールは言う。「生きる力は簡単には止められない。ただ、たとえすべての物事が再起動したとしても、状況が不安定であることに変わりはありません。人生という長い尺度で見れば、あるいは“安定した何不自由ない”生活をしている人の場合は、この時間もじきに取り返せるでしょう。若い人たちの場合は、そう簡単ではないと思います」

※一部、仮名を使用しています。

texte : Ophélie Ostermann (madame.lefigaro.fr)

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