親からの「兄弟・姉妹平等」は、上の子にとって不平等?

Culture 2021.05.17

From Newsweek Japan

仲の良いきょうだいに育てたいのなら、平等に育てる必要はありません。はっきり区別して育てましょう。平等に愛情を注ぐのでなく、その時に一番愛情を必要としている方に集中的に与えることがポイントです。

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上の子にとって下の子の存在は「親の愛情を奪い合うライバル」 photo:Tom-N-iStock

新型コロナの感染拡大によって、たくさんの子どもたちが自宅待機を余儀なくされています。「家にこもってばかりで外で遊べる環境がないと、きょうだいゲンカが増えて大変!」という悲鳴があちこちの家庭から聞こえてきます。

ほとんどの親は「きょうだいは平等に育てるべきだ」と思っているでしょう。ところが「きょうだい平等の精神」こそが、ケンカの絶えない、仲の悪いきょうだいに育ててしまう一番の原因なのです。

「きょうだい平等の精神」は、上の子にとって受け入れ難い不平等です。なぜなら上の子は生まれてきた時は一人っ子だったからです。親の愛情は自分一人で100%独占するのが当たり前という前提で生まれてきたのです。

下の子ができた途端に「弟(妹)ができたから、これからはきょうだいで愛情を50%ずつ平等に分けます」と言われても納得できるものではありません。もちろん親はそんな言い方はしないでしょうが、上の子はそう感じるのです。

親の愛情が100%から50%へと一気に減額されてしまった上の子は「親から愛されている」という自信がガラガラと崩れ落ちていくのを感じるのです。

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赤ちゃん返りは愛情を取り戻すための手段

生まれてきた赤ちゃんがママの胸でおっぱいを飲んでいる姿を目にした時、上の子は「大好きなママが取られた!」と強いジェラシーを感じます。同時に「ママの愛情を取り戻さなければならない!」と必死で考えます。そして「自分も赤ちゃんになればいいんだ!」という素晴らしいアイデアを思いつくのです。

下の子が生まれると、上の子に指しゃぶり、おもらし、夜泣き、親へのまとわりつき、グズりなどの赤ちゃん返りが起こりますが、これらは全て親の愛情を取り戻すための行動です。上の子にとって下の子の存在は「親の愛情を奪い合うライバル」なのです。

親の愛情を取り戻すために「良い事」をしてくれれば楽なのですが、ほとんどの子どもは赤ちゃん返りをして親を困らせます。もちろん本人は悪い事をしているという意識はなく、ただ親の関心を自分へ引き寄せたい一心です。

この時、上の子の寂しい気持ちを理解せず「お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから面倒かけないで!」と突き放してしまうと、上の子の自信は喪失し、その反動で、母子分離ができなくなったり、環境の変化を過剰に怖がるという臆病な性格が形成されることがあります。

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おにいちゃん(おねえちゃん)だからは禁句!

上の子に「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だから我慢して!」は禁句です。下が生まれたという事実だけで、上の子は十分過ぎるほど「我慢」しているのです。母親に甘えたい気持を我慢して、抱っこしてもらいたい気持を我慢して、おっぱいを飲みたい気持を我慢して、ママと一緒にいたい気持を我慢しています。

上の子の気持を満たす一番の方法が、下の子の世話を手伝ってもらうことです。母親一人で赤ちゃんの世話をするのでなく、母親のサポーター役として上の子を頼りにするのです。

上の子は母親と一緒に過ごす時間が増えますから、どんな手伝いでも必ず引き受けてくれます。そして手伝いをすると母親からほめてもらう機会が増えますから「自分は親から必要とされている」という自信が回復するのです。

「◯◯ちゃん、悪いけどオムツを取ってきてもらえる?」と上の子にお願いします。そして手伝ってくれたら「ありがとう、手伝ってくれてママ助かったわ」と言ってギューと抱きしめます。これで「やっぱりボクの働きはママに必要なんだ!」と子どもは実感することができるのです。

オムツ交換、沐浴、着替えなど、母親が一人でさっさとやってしまわずに、上の子を頼ってみてください。小さい子どもに手伝わせるよりも母親が一人でやった方が簡単なことは分かります。しかし上の子に疎外感を味合わせないことが目的ですから、時間がかかっても上の子を頼りにすることが大切です。

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下の子は愛情不足にならないのか?

一方で下の子は生まれた時から上の子がいますから、そもそも親の愛情は独り占めできないもの、きょうだいで分け合うものという前提で生まれてきます。また授乳、抱っこ、添い寝など、母親と密接なスキンシップを常にしていますから、上の子に比べて愛情不足に陥ることは少ないのです。

ですから下の子は、母親が一人でがんばって育てるのでなく、父親や祖父母や兄弟姉妹の手を借りて、家族みんなで育ててください。子育ての雑用や赤ちゃんの遊び相手はできるだけ家族に任せましょう。

そして家族に下の子を見てもらっている隙に、愛情不足になっている上の子の心を満たしてあげましょう。「◯◯ちゃんに寂しい思いをさせてごめんね」と言って上の子を思い切り甘えさせてあげるのです。

子どもの愛情不足を解消する効果的な方法がスキンシップ(心地よい皮膚接触)です。抱っこしたり、添い寝をしたり、お風呂に一緒に入ったり、チュッチュッしたり、肩や背中を撫でたり、手足をマッサージしたり、子どもとの心地よい皮膚接触を増やすと「ママから愛されている自信」が復活します。

親の愛情が実感できれば、子どもの自信は大きくなり、問題行動は収まっていきます。そうしたら今度は、少しおあずけをくっていた下の子に愛情の集中投下をすればよいのです。

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きょうだいゲンカは愛情の奪い合い

きょうだいは助け合い、同時に、身近なライバルとしてお互いが張り合えるような関係であることが理想です。そのために親が注意すべきは、どちらの子どもが「より愛情を必要としているのか」を見極めることです。そして愛情不足に陥っている方に「愛情の補充」をしてあげてください。

きょうだいはアメ1個で大ゲンカをしますが、これは実は食べ物の争いではなく、親の愛情の奪い合いなのです。その時「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だから」と上の子を一方的に叱りつけたりすると、上の子の心は傷つきます。そしてその影響が尾を引き、仲の悪い兄弟に発展することが多いのです。

きょうだいは平等に愛情を注ぐのでなく、その時に一番愛情を必要としている方に集中的に与えることがポイントです。下の子が生まれると、上の子は必ず愛情不足になりますから、親は上の子に「愛情の補充」を心がけてください。

上の子が「妹(弟)ばっかりずるい」と言うのは、下の子が「親の愛情を自分よりもたくさん受けてずるい」「自分が学校に行っている間、ずっとママと一緒にいてずるい!」「ママを独り占めしてずるい!」という意味なのです。

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仲の良いきょうだいに育てるコツは?

きょうだいは平等に育てる必要はありません。はっきり区別して育てましょう。親は愛情不足に陥っている方に「愛情の補充」をすること、それぞれの子どもの良い部分(強み)を伸ばすことに目を向けてください。この二つを実践すれば、互いに良い刺激を与え合い、成長し合える関係に育ちます。

最後に、繰り返しになりますが、上の子を下の子の育児に参加させましょう。下の子の世話をすることで、上の子は下の子をごく自然に可愛がるようになります。また下の子は上に助けてもらい、守ってもらい、勉強やスポーツを教えてもらって成長しますから、ごく自然に上の子を尊敬するようになります。この経験の積み重ねが「仲の良いきょうだい」へと発展していくのです。

[執筆者]

船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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