雨の中でも出かけたい! 今月の展覧会4選。
Culture 2021.05.20
列島各地で梅雨入りが宣言され、天気も気分もパッとしない今日このごろ。そんな沈みがちな時にこそ、アートに対峙してみることで、いままで見えなかったものが見えてくるかも。足元が悪い中でも、是非観ておきたい展覧会をご紹介!
映像の力と速度に没入する、圧倒的な知覚体験。
金沢21世紀美術館の所蔵作品から、同館では初展示となるダグ・エイケンの代表作を紹介する。5つのスクリーンで構成されたこの映像インスタレーションは、作家自身が幼い頃から親しんだアメリカ郊外の日常的な風景の中、人物、自然、人工物、幾何学的図形といったイメージが、少女の囁き声や手拍子のリズム、ピアノの旋律と同期するように重なって、観る者を幻惑に誘う。輪郭のない断片化した映像が反復されて、押し流される映像の力と速度に身体ごと没入する圧倒的な知覚体験こそ、ダグ・エイケンの真骨頂だ。物事すべてが失速したかのように見えるいま、疾走し変容するその作品世界は、停滞することに怯える私たちを挑発するかのようだ。
会期:開催中~11/23
金沢21世紀美術館(石川・金沢)
営)10:00〜 18:00(金、土は~ 20:00)
休)月(8/9、9/20、11/1、22は開館)、8/10、9/21
料)入場無料
tel:076-220-2800
www.kanazawa21.jp
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軽妙にボケて本質を突く、風刺画の巨匠たち。
世の中の不条理や理不尽な事象をゆるく炙り出す作品世界で、愛され続ける漫画家・アーティストのしりあがり寿。彼が画狂・葛飾北斎と本気で戯れる、単なるパロディを超えたシリーズの第2弾となる本展。昨春コロナ禍で出合って、最も癒やされたアートのひとつがこの連作だ。今回は、『青富士』など、しりあがり寿の斜め上の視点が冴えまくる新作多数と、その原案となった葛飾北斎のオリジナルをときに並列させながら、江戸時代の庶民の所作といまの日本人の現在地をさりげなく照らし合わせていく。軽妙洒脱にボケつつも、ズバッと本質を突くようなふたりの作品世界で、現在の張り詰めた心に膝カックンされてほしい。
会期:開催中~ 6/27
すみだ北斎美術館(東京・両国)
営)9:30 ~ 17:30
休)月
料)一般¥1,000
tel:03-6658-8936
https://hokusai-museum.jp
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独立独歩の写真家が向かう、新たな方向性。
日本を代表する写真家・石内都。染織を学んだ後、写真に関する専門的な教育を受けず独学で技術を習得した石内都は、従来の形式に縛られない独自の表現手法を身につけ、彼女にしか捉えられない被写体に対峙してきた。2005年にはヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家を務めている。本展では、初期作品の『連夜の街』から、原爆被爆者の遺品を写した代表作『ひろしま』、フリーダ・カーロの遺品に慈しみ深い視線を注ぐ『Frida by Ishiuchi』や『Frida Love and Pain』などを展示。さらに、これまで発表機会の少なかったバラやサボテンを撮った連作シリーズや、日本国内初公開の『Moving Away』、新作『TheDrowned』なども展開。彼女の新たな方向性を紹介する。
会期:開催中~ 7/25
西宮市大谷記念美術館(兵庫・西宮)
営)10:00 ~ 17:00
休)水
料)一般¥1,000
tel:0798-33-0164
http://otanimuseum.jp
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寂しさと安寧に包まれた、吟遊詩人の眼差し。
20世紀後半に活動した、銅版画家・南桂子の生誕110年を記念した本展。戦後の東京で、夫・浜口陽三との出会いから銅版画家として歩み始め、1953年にはふたりでフランスへと旅立つ。生涯にわたって詩情あふれる物語世界を描き続け、ユニセフやMoMA のクリスマスカードをきっかけに、南桂子の作品はいまもなお世界中の人々に愛されている。洋菓子店の包み紙や文学全集の挿絵を通して憧れたその作品世界は、声高に寓意を説いて単一の世界観を植え付けることなく、幼い子どもたちの想像を自由に羽ばたかせてくれた。寂しさと安寧に包まれて、心地よい無関心さを帯びた、そのいにしえの吟遊詩人のような眼差しにいまも惹かれる。
会期:開催中〜 6/6、6/12 ~ 8/9
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション(東京・水天宮前)
営)11:00 ~ 17:00(土日祝は10:00 ~)
休)月
料)一般¥600
tel:03-3665-0251
www.yamasa.com/musee
*「フィガロジャポン」2021年7月号より抜粋
text:Chie Sumiyoshi