子どもの才能を引き出せる、賢い親に共通すること。

Culture 2021.05.22

From Newsweek Japan

文/船津徹

多くの親が、我が子には「やりたいことを見つけて、自分らしい人生を歩んでもらいたい」と願っているにも関わらず、「受験」が目標にすり替わってしまってしまう。日本、アメリカ、中国で教育に携わってきた筆者が勧める、子どもの伸ばし方とは?

iStock-勉強.jpg受験がゴールになってしまわないように(写真はイメージ)photo:iStock

「将来、どんな子どもに育ってもらいたいですか?」教育相談に来た親に質問すると「経済的にも精神的にも自立した子どもになってもらいたい」「自分らしい人生を生きる子どもになってもらいたい」「やりがいがある仕事についてもらいたい」など、みなさん素晴らしい子育ての目標をお持ちになっていることが分かります。

「ではご相談内容は何ですか?」

そう私が尋ねると「中学受験をするのですが、どうしたらいいでしょうか?」

「子どもは小学生ですが、◯◯大学に合格させるために、いま、何をさせたらいいですか?」など「受験」に関する相談がほとんどなのです。

多くの親が、我が子には「やりたいことを見つけて、自分らしい人生を歩んでもらいたい」と願っています。ところが、子どもが夢を実現していく「手段」であるはずの「受験」が、いつの間にか子育ての目標にすり替わってしまうのです。

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何のために受験勉強をするのですか?

親に言われるまま塾に通い、勉強に励み、希望の学校に合格しても、そこで成長がストップしてしまう子どもが多くいることを知ってください。「合格」というゴールを達成したことで目標を失い、次のチャレンジへのモチベーションが上がらないのです。

私は受験に反対しているのではありません。むしろ賛成派です。ただ親子で受験勉強に必死に取り組んでいるうちに、受験がゴールになってしまわないように警告しているのです。

いま受験に取り組んでいる家庭では「何のために受験をするのか?」というテーマで、親子でディスカッションをしてみてください。「分からない」という子どもに「あなたの将来のためよ!」などと親の意見を押しつけないでください。なぜ受験するのか分からなければ、その答えを親子で一緒に考えてください。

「親の期待に答えるため」「仲の良い友だちが受験するから」「ライバルに負けたくないから」「学歴は将来大切だから」「良い大学に入れば人生勝ち組だから」などと子どもは答えるかもしれません。

子どもの答えが何であれ、親は否定したり、バカにしたりせず、考えを受け入れてあげてください。受験する理由が見つけからなければ、些細なきっかけで子どものモチベーションは下がり学力は停滞します。勉強できる子に育てるには、子どもが能動的に勉強に向き合うことが必要です。「自主的なやる気」に勝る学習法はないのです。

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賢い親は子どもの「好き」「やりたい」を見逃さない

「受験をする理由が見つからない」「何のために勉強するのか分からない」「将来何になりたいのか分からない」そんな子どもには、受験からちょっと離れて、子どもの「好き」や「やりたい」を見つけてあげてください。

私は日本、アメリカ、中国で教育に関わっていますが、国籍や人種に関わらず、子どもの才能を引き出し伸ばす親は、子どもの「好き」や「やりたい」を見逃しません。たとえ子どもの「好き」が勉強でなくても、その分野への興味や技能を高めることをいちばんに考えています。

たとえば絵が好きな子であれば、上手に描けた絵を額縁に入れて家中に飾ったり、コンテストや絵画展に出品して、周りから評価してもらえるように環境を整えてあげるのです。賞状をもらったり、ママ友や親戚から「◯◯ちゃんは本当に絵が上手ね」と褒めてもらうことで子どもの自信は大きくなり「自主的なやる気」で絵を描くようになっていきます。

勉強面の才能の伸ばし方も同じです。子どもが動物に興味があるならば、動物図鑑や動物のおもしろい知識満載の本を与え、動物の生態を教えてくれるYouTube動画やテレビ番組を見せ、動物への知識を深める環境を整えるのです。すると友だちや学校の先生から「◯◯ちゃんは動物博士だね!」と認めてもらえ、自信が大きくなり「自主的なやる気」で探求を深めるようになるのです。

コンピューターに興味がある子ならば、プログラミング教室やロボティック教室に通わせて、知識と技能を高める環境を作ってあげます。すると周囲から「コンピューター博士」と認めてもらえますから、子どもは「自主的なやる気」で技能と知識を伸ばしていくようになるわけです。

親が子どもの「好き」や「やりたい」を見つけて、それを伸ばす環境を作ってあげると、子どもの自信は大きくなります。そしてその自信が「自主的なやる気」につながっていくのです。

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強みを持たせることが「生きる力」につながる

親の大切な仕事は、子どもの「強み」を見つけて、それを伸ばす環境を与えることです。理想を言えば、小学校時代に「好き」や「やりたい」を徹底的にやらせて「自主的なやる気」を大きく育ててあげてください。

子ども時代を受験勉強だけで過ごしてしまうと、青年期になった時に「自分は何がしたいのか?」「自分は何ができるのか?」「自分はどう生きたいのか」というアイデンティティを確立することができず、周りに流され「何となく生きる人」になってしまう危険性があります。

スポーツ、音楽、アートなどに本気で取り組んできた子どもは、自分の「才能」や「能力」を自覚できるのです。たとえばサッカーを真剣にやってきた子は、自分はどのポジションに向いているのか、自分はどの面が優れているのか、自分についての理解を深めることができます。

「強み」を持つことの大切さは、大人になれば誰もが痛感しますが、子ども時代には気づくことができません。だから人生の先輩である親が子どもの「強み」を見つけて、それを伸ばす環境を与えなければならないのです。

「人生の目標は青年期になって見つければいい!」「小学校の時に夢や目標はなかったけど、いまは立派に生きているぞ!」という人もいるかもしれません。しかし、小学校時代に受験勉強しかしてこなかった子が、中高生になってから「強み」を持つには、大変な努力が必要です。小学校時代を通して「強み」作りに励んできた子どもとは、すでに埋め難い差がついているのです。

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好きなことが見つかれば、勉強は心配ない!

親が子どもの「好き」「やりたい」を見つけて、思い切りやらせてあげると、子どもは「人からやらせている感」を持つことなく、自分がやるべきことに「主体的なやる気」で取り組めるようになります。

自分は親から尊重されている、やりたいことをやらせてもらっているという感謝の気持ちが根底にありますから、親に対して素直になりますし、ごく自然に自分の可能性を試してみたいという気持ちになるのです。

私はアイビーリーグ大学出身の若手エリートたちにインタビューをしたことがありますが、「小学校時代は好きなことばかりしていた!」という回答が多くて驚きました。遊んでばかりいたということではなく「スポーツや音楽やコンピューターなど、自分がやりたいことを好きなだけやっていた」という意味です。

この子たちが本当に好きなことばかりして、勉強をしていなかったかというとそんなことはありません。でも「好きなことばかりしていた」と言うのです。この答えを聞いた時に「できる親の成せる技!」と思わずうなってしまいました。

親が子どもの「好き」を引き出し、思い切りやらせてあげると、子どもは勉強などの「やらねばならないこと」についても「自主的なやる気」で取り組めるようになるのです。

子ども時代に「強み」を持つことは、学力を含めて、人間形成全体にプラスの影響を与えてくれます。スポーツ、音楽、アート、演劇、何でも構いません。小学校時代に子どもが「自主的なやる気」で取り組めることを何かひとつ、見つけてあげて下さい。

船津徹 TORU FUNATSU
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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texte:TORU FUNATSU

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