4割の子どもが愛情不足? 良い親子関係を作るコツ。

Culture 2021.05.30

From Newsweek Japan

文/船津徹

iStock-1182440328.jpgphoto:iStock

一見するとごく普通に子育てをしているように見える親だとしても、愛情ホルモンの分泌が悪ければ、子どもに愛情が伝わらないことも……。

子育ては時間と手間がかかる面倒なものです。しかし何事にも効率が要求される現代社会では、ゆっくりと時間をかけて親子の信頼関係を築くことが難しくなっています。親子であれば特別なことをしなくても良い関係が築ける、分かり合えると思われがちですが、限られた時間と触れ合いの中で良好な親子関係を構築するには「ちょっとした工夫」が必要です。

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4割の子どもに愛着形成ができていない

2018年にミズーリ州立大学、ノースカロライナ州立大学、ペンシルバニア州立大学が合同で行なった調査によって、母親が主たる養育者であっても、赤ちゃんの約4割に「健全な愛着形成」が確認できないことが分かりました。

この調査では、赤ちゃんをあやしている時の母親の心拍数と感情の起伏を測定しました。その結果、感情の起伏が少ない母親の子どもに「愛着形成が成立しない傾向」が強く見られました。ちなみに愛着形成とは、子どもが特定の他者に対して持つ情愛的な絆(信頼感)のことです。

母親が赤ちゃんをあやしたり、授乳している姿は、周囲の人々をほっこりと優しい気持にさせる微笑ましい光景です。しかし一見するとごく普通に子育てをしているように見えても、実際には「4割」の子どもに「愛着形成」が構築できていないという事実は現代社会が抱える歪みであり、大きな問題です。

もちろんどの親もわが子を愛したいと心から願っています。しかし子育て中の親が過剰なストレス、疲労、プレッシャーにさらされることで、愛情ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の分泌が悪くなり、それが原因で親の愛情が子どもに十分に伝わらないことがあるのです。

「オキシトシン」は、女性が出産や授乳する時に分泌されるホルモンとして知られていましたが、最近の研究によって、赤ちゃんを「愛おしい」「守りたい」「かけがえのない存在」と感じる「母性の源」であること、他者との信頼感を構築するカギであることが解明されてきました。

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子どもが親の愛情を実感するメカニズム

赤ちゃんにおっぱいをあげると、まず母親の血中にオキシトシンが分泌されます。オキシトシンが母乳を通して赤ちゃんの体内に入ると、赤ちゃんはリラックスして幸せな気分になります。すると、赤ちゃんもオキシトシンを分泌しやすい体質に変化していきます。

母親の温かく柔らかい胸に抱かれ、胎内で親しんだ心臓の鼓動を聞きながらおっぱいを飲むと、オキシトシン効果で赤ちゃんは安心感と幸福感に包まれます。これが「親の愛情を実感する」メカニズムです。この「愛情の実感体験」の積み重ねが親子の信頼関係を構築していくカギなのです。

オキシトシンの分泌を促進するには、まず母親がリラックスしていなければなりません。そのためには、父親はもちろん、祖父母、兄弟姉妹など家族全員が協力して母親が子育てしやすい環境、母親が安心できる環境を整えることが大切です。

また母親もひとりで子育ての重圧を抱え込まずに、父親や周囲の人へ助けを求めてください。ある調査によって日本の母親の7割が「子育てで孤独を感じている」ことが分かっています。子育ては母親ひとりでするものではありません。周りの助けを借りて、みなで行なうものです。

母親に以下のような兆候がある場合、すぐにパートナー、祖父母、親しい友だちに相談しましょう。それでも改善しない場合は、かかりつけの医師へ相談することを強くお勧めします。

・赤ちゃん(育児)に対して興味が湧かない
・赤ちゃんをかわいいと思えない
・無性に悲しくなり涙がでる
・気持が落ち込み、何もやる気が起きない
・寝不足で体力的にも精神的にも限界を感じる
・いつもイライラしている

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スキンシップが極端に少ない日本人

オキシトシンの分泌は、抱っこしたり、膝の上に座らせたり、添い寝したり、手足をマッサージしたり、頭や肩や背中をなでてあげたりという「肌と肌の触れ合い/スキンシップ」によって促進されることが分かっています。

欧米では親子間のハグやキスなどのスキンシップは人間関係を良好に保つための知恵であり文化として浸透しています。子どもが何歳になっても、スキンシップをすることで互いの信頼関係を確認し合っているのです。

日本人は子どもが小さいうちは、授乳、抱っこ、添い寝など、スキンシップが多いのですが、年齢が上がるにつれ親子の肌の触れ合いが減少していきます。特に子どもが小学生以上になると「極端にスキンシップが少なくなる」ことが、日本人の自己肯定感が低い一因ではないかと私は考えています。

多くの日本人は、親子間であっても、人前でキスしたりハグすることに抵抗を感じます。そんな場合は、家の中でスキンシップを増やし、愛情のインプットを積み上げてください。「かわいい◯◯ちゃんが大好き」「◯◯はママの宝物よ」と愛情溢れる言葉をかけながらマッサージしたり、やさしく全身をさすってあげると、子どもは親の愛情を実感し、親子関係が良好になっていきます。

スキンシップは、子どもの脳が活発な日中よりも、副交感神経が優位になる夕方以降が効果的であることが分かっています。子どもが眠くなってきた時、お風呂上がりでリラックスしている時などにマッサージをしてあげると、たとえそれが短時間でも、子どもにしっかりと愛情を伝えることができます。

スキンシップをする時は子どもに注意を向けていないと効果が半減します。例えば母親がスマホを打ちながらおっぱいを飲ませていると、オキシトシンが十分に分泌されず、愛しているメッセージが伝わらないのです。スキンシップ中は子どもに意識を向けることが大切です。子どもの目を見つめるだけでオキシトシンの分泌は促進されます

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父親は子どもとの身体的遊びを増やす

父親の育児参加は、母親の身体的・精神的負担を軽減することはもちろん、親子関係の構築にも強い影響を与えます。では母親と父親でどのように役割分担をすると効果的に信頼家関係が構築できるのか、少し見ていきましょう。

まず子どもが心の土台を形成する2歳頃までは、子育ての主役は母親です。子どもが最初に出会う他人である母親との間に「絆」を形成することが、子どもの社会性や人間形成の土台となるからです。父親はそんな母親のサポート役です。買い物、掃除、洗濯、ゴミ出しなどの家事やオムツ交換、沐浴などの育児の雑用は父親ができるかぎりサポートしてあげてください。

子どもの身体がしっかりして自由に動けるようになる頃から父親の役割が増えていきます。家の中で子どもと遊んだり、家の外に連れ出して一緒に身体を動かしたり、海、川、山で自然にふれ合ったりという「身体を使った遊び」を通して愛情のインプットを実践してください。

子どもは母親の顔を見ると精神が安心して脈拍や呼吸数が少なくなり、父親の顔を見ると「楽しい遊び」を期待して脈拍や呼吸数が増えることが分かっています。父親が身体接触の多い、やや荒っぽい遊びを心がけると、オキシトシンが分泌され、父親に対する信頼感が強まっていくのです。

オキシトシンは女性だけでなく男性にも存在することが分かっています。遊びを通して子どもとの身体接触が増えると、父親にもオキシトシンが分泌され「わが子がかわいい」「愛おしい」と心の底から感じるようになっていきます。

船津徹 TORU FUNATSU
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text:TORU FUNATSU

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