どう違う? 日本・韓国・中国「祖父母の孫育て」体験記。

Culture 2021.06.05

From Newsweek Japan

文/李娜兀(リ・ナオル)

3カ国を行き来し、シニア世代の力を借りながら子育てをして見えてきた各国祖父母の苦労と現実。

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中国では地方在住の祖父母やシニア世代のベビーシッターに支援を頼むことも。photo:iStock 

わが家の高校生の長女は福島県生まれ、小学生の次女は中国・北京生まれだ。日中2つの大学院に通うなどしつつ日本と中国、韓国を2~3年置きに引っ越ししながらの子育ては、韓国人である私の母、日本人の夫の母、それに北京では中国人ベビーシッターの助けなしには難しかった。

北京のベビーシッターの女性は、私より20歳ほど年上だったので、私は日韓中シニア世代の助けを借りた子育てを実践してきたともいえる。そうした経験や知人・友人の状況を踏まえ、日中韓の「祖父母の孫育て」事情について考えてみたい。

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優雅な韓服姿の中高年女性がうれしそうに拍手していたと思ったら、次の場面では泣きわめく孫をおんぶして食事の支度をしている。普段着にぼさぼさ頭で、ゆがんだ表情。そこに「子育て作業の終わり、そして子供の子供を育てる作業の始まり」という字幕が映し出される。2015年頃、韓国で流れたマンション建設会社のテレビCMだ。

わが子の結婚式に出席した女性の華やかで幸せそうな様子と、その直後に始まる「孫育て」のしんどさを映像で対比させたCMは、「リアル過ぎる」と話題になった。添えられた「子育て農作業」という意味の慣用句も、その苦労を強調している。CMに賛否両論が巻き起こったのは、そのリアルさが共感を呼ぶ一方で、孫を持つ世代には負担の重さを、そして子供の世話を親に任せている世代には「親に申し訳ない」という罪悪感を思い起こさせたからだ。

こうした祖父母は韓国にどのくらいいるだろうか。韓国で0~6歳の子供を持つ2500世帯を対象にした「2018年全国保育実態調査」(育児政策研究所)によると、祖父母から何らかの育児支援を受けている家庭は37.8%だった。

韓国の「オリニチプ」と呼ばれる保育園は、専業主婦でも子供を預けられる半面、午後5時までの所が多い。働く女性にとっては迎えに行く時間が早過ぎるので、やはり誰かの助けが必要になる。そこで祖父母の出番ということになるようだ。

こうした祖父母による孫育てのことを「黄昏(ファンホン)育児」と呼ぶ。黄昏育児は祖父母世代にとって生きがいになる半面、前述のCMのように負担やストレス、教育方針の違いからくる子供との摩擦などネガティブな影響も話題になる。ある研究によると、韓国の場合、こうした影響は教育や収入の水準によって違うという。余裕がある家庭では、孫の面倒を見る祖父母にとっても快適な住環境を準備できるほか、気分転換の方法も多様だからだ。建設会社がCMで強調しようとしていたのも、まさにその点。「しんどい孫育児は、快適な環境で」というわけだ。

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同居率の高さもストレスに

いっぽう、日本では世代を超えて比較的、「祖父母の子育て」に肯定的な認識を持っている人が多いように見える。全国20~79歳の3000人を対象とした内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」(2014年公表)によれば、子供が小学校に入学するまでの間、祖父母が育児の手助けをすることが望ましいかとの設問に「望ましい」と答えた割合が78.7%に達している。

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共働き世代が祖父母を頼る韓国では孫育てのしんどさが話題に。photo:iStock 

これを韓国との比較で考えてみると、日本では韓国に比べて同居しながら孫育てをするケースが少ないということも、負担感の低さにつながっているのかもしれない。調査の仕組みが違うため単純に比較はできないが、韓国の場合、祖父母と孫の同居率は20 %を超えるが(2015年韓国統計庁調査)、日本は6.7%(2015年第一生命経済研究所調査)というデータもある。当然、同居のほうが祖父母世代、父母世代共にストレスを感じる可能性は高まるだろう。ちなみに韓国でも、同居での孫育ての割合は減る傾向にある。

また、世代にもよるが、一般的に韓国人よりも日本人のほうが、家族といえども一定の距離を置きながら付き合うということに慣れている面があるように思える。

個人的な経験を持ち出して恐縮だが、長女が生まれた17年前は、夫の仕事の都合で福島県に暮らしつつ東京都内の大学院に通っていた。母と義母が交代で子供を見てくれたが、生後数カ月の娘を義母に預けて家を出るときの、不安と申し訳なさの入り交じった思いは忘れられない。しかし、その後、何度も義母に娘を見てもらったが、教育方針などで意見の食い違いを見た記憶がない。エネルギッシュで明るい義母は私とは適切な距離を保ちながら、孫娘を自転車に乗せて近所にある公園を回りながら遊んでくれたものだった。

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「村全体が関わる」ことの意味

いっぽう、昨年の世界銀行統計によると、女性の就業率は日本が51%、韓国は53%と同程度だが、中国は61%と高い。社会主義の仕組みの中で、従来から夫婦共働きが一般的だったためだと考えられるが、0~3歳児を持つ中国人女性の悩みも深いようだ。

中国のインターネットを見ると「産休は半年しかもらえず、父母は退職前で面倒を見てくれず、幼稚園は3歳から。私はどうすればいいの? 仕事を辞めないといけない?」といった若い母親の書き込みが目につく。中国も子育て関連の公的支援が充実しているとは言えないようだ。

天津市に住む30代の知人夫婦の場合は、4歳の長男と1歳半の長女とマンション暮らし。夫婦とも公的機関で働いているので、長男の幼稚園の送り迎えと長女の面倒は、祖母に頼っている。とはいえ、体力面でも同居による精神面でも負担が大きいため、母方の祖母が湖南省から半年、父方の祖母が山東省から半年と交互に来ているのだという。

共働き家庭では、阿姨(アーイー)とか保姆(バオムー)と呼ばれるベビーシッターを頼むことも少なくなく、私も出産後は、北京大学の国際関係学院に通うためにベビーシッターをお願いした。会社員生活を終えたばかりで20代の娘を持つ中高年女性だったので、「孫育て」の予行演習だったのかもしれない。わが家の次女に対しても教育熱心で、絵入りの四字熟語の本を毎日根気強く読み聞かせ、次女は1歳前後で数十個の四字熟語を中国語で読み上げられるようになっていた。中国のお母さんはこうして漢字を覚えさせるのか、とすっかり感心したのを記憶している。

しかし、当時は北京でも月に3000~3500元程度(5万円前後)だったベビーシッターの相場は、最近では5000元(7万5000円)を超えるようになったという。住宅価格の値上がりもあり、天津の知人のように共働きでも住宅ローンを抱えた若い夫婦には、ベビーシッターは気軽に頼れる選択ではなくなっている。現実的には地方の祖父母に来てもらう、あるいは小学校に上がる時期まで地方の祖父母に預ける親が多いようだ。

こうした中国の知人の状況を自分と重ね合わせながら思い起こすのは、1990年代にヒラリー・クリントン米大統領夫人(当時)が書いた『(子育てには)村全体が関わる必要がある(It Takes a Village)』という本のことだ。確かに子育ては両親はもちろん、祖父母、そして保育所などの教育機関と、多くの大人が関わってやっとできるものだと思う。日韓中の「祖父母の子育て」も、祖父母(特に祖母)に過重な負担がかからない形を探ってこそうまくいく、というのが私の結論だ。

*2020年3月31日号 Newsweek日本版「0歳からの教育 みんなで子育て」特集より抜粋

李 娜兀 NAOHL LEE
国際交流コーディネーター・通訳。ソウル生まれ。幼少期をアメリカで過ごす。韓国外国語大学卒、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得(政治学専攻)。大学で国際交流に携わる。2人の子どもの母。

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text: NAOHL LEE

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