五輪特例はどこまで? コロナ禍の海外取材すったもんだ記。

写真・文/安部かすみ(在ニューヨークジャーナリスト、編集者)

いよいよ今月23日から始まる東京オリンピックに向け、代表選手団が続々と世界中から日本に到着している。

そんな中、ウガンダの選手団が到着時の新型コロナウイルス検査で陽性判定だったにもかかわらず日本に上陸できたという報道があった。陽性確認の選手を除く同代表選手団一行は「選手特例」として入国後、大阪まで移動している。

世界中でパンデミックが未だ収束しておらず、変異種の感染拡大が懸念される中、陽性の外国人の上陸を許している国は、日本以外にあるだろうか?陽性者でも上陸でき、さらに濃厚接触者も14日間の隔離や待機を免除となると「オリンピック選手だけ特別扱い」感は否めない。すべてはオリンピックのためと我慢を強いられている国民は、切歯扼腕この上ないだろう。

筆者も6月半ば、コロナ禍において国をまたいで渡航をする機会があった。渡航目的は、6月16日にジュネーブで行われた米ロ首脳会談の取材だ。「記者特例」としてニューヨークからスイスへ渡航した経験から、オリンピック選手に対しての日本の水際対策の「甘さ」や「危うさ」が感じられる。

210701_01.jpgニューアーク国際空港にて。ニューヨークからの出発便の機内は7割くらいの搭乗率だった。

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筆者が恩恵を受けた記者特例とは、大きく分けて(1)スイスの外務省にあたる連邦外務省(FDFA)より、スイス入国許可および入国後の待機や隔離の免除、(2)スイスのアメリカ大使館より、スイス及びEUからアメリカへの渡航許可だった。

しかしこれらの国に特例で入国できたのは、言わずもがな筆者が「陰性」だったからにほかならない。だからこそ、筆者は陽性でもこのウガンダ選手の上陸が認められたのはコロナ禍において「特例中の特例」だと思う。

210701_02.jpg美しいジュネーブの街並み。

入国に必要なのはパスポートと「陰性証明書」。

EU入国はポルトガルのリスボン経由、帰途はジュネーブからパリを経由し、ニューヨーク(アメリカ)へという行程だった。つまり今回の出張中に訪れたのは4カ国だが、コロナ禍においてはどの国に入国するにも、基本的には新型コロナウイルスの72時間前検査による「陰性証明書」が必要だった。スイスは24時間前の簡易検査やワクチン接種完了証明書も認めている。

このウガンダの選手はワクチン接種を完了し搭乗前の検査で陰性だったというから特別なケースだが、陽性であればそもそも国際線の飛行機には搭乗できない。それくらいこのご時世において「陰性であること」は、渡航者にとって重要なステータスだ。

ちなみに、搭乗したどの便も機内は60~70%の混み具合で、空いたシートを利用し横になっている人も見かけた。食事以外はマスクを着用しなければならなかったが、基本的に搭乗者はみな陰性が証明されているので、その点は安心できた。

また陰性証明書は、米ロ首脳会談の取材前、記者が利用したメディアセンターでも提示を求められた(もしくはワクチン接種「完了」の証明書でも可)。メディアセンターの入り口には、簡易検査場も設置される徹底ぶり。筆者はワクチン接種完了者だが、念のために会場で簡易検査を受け、陰性であることを確かめて取材を行った。

210701_003.jpg飛沫防止のアクリル板が立てられた、米ロ首脳会談のメディアセンター。

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陰性さえ証明できれば、水際対策は緩め。

陰性であることさえ証明できれば、今回訪れたスイスやEUの国々も、水際対策は緩めだと感じた。

というのも、入国したポルトガルでもスイスでも、入国審査で入国の理由を一切聞かれず、筆者が記者特例で入国していることを把握していないはずだが、4カ国のどの国でも隔離や待機などを指示されず、行動を制限されることはなかった。

唯一ニューヨークに到着して4日後に、筆者の携帯電話に自動音声装置の電話がかかってきた。内容は「新型コロナウイルスの症状が出ていないか自己観察すること。ワクチン接種を完了していない場合は検査を受け、陰性結果が出るまで自己隔離を奨励する」というものだった。

ちなみにオリパラ期間中に来日する人数は、選手に加え関係者やメディアなど約90,000人といわれており、「バブル方式」で外部とは遮断されるという。ただし記者というのは滞在中、ただ大会だけの取材をするわけではなく、大会期間中の街や人びとの様子も取材するものだ。市井の人の声を拾い上げる取材は控えてもらうという情報もあるが、わざわざ開催国を訪れている記者が選手村と試合会場の往復だけをおとなしくすることなんてできるのか、甚だ疑問だ。

210701_004.jpg米ロ首脳会談取材に世界から集まったメディア
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意外と出番の少なかったワクチン証明書。

パンデミックにおける渡航で、ワクチン接種証明書がどれほどの効力があるか、出発前は興味があったが、意外と見せる機会が少なかったというのが実感だ。

筆者が渡航中に、ワクチン接種証明を見せたのは、スイス入国時と首脳会談の取材会場の2回のみ(どちらも任意)。そしてニューヨーク在住の筆者だが、当地では一度も証明書の提示を求められたことはない。(ただし、ワクチン接種完了者のみ参加可というイベントが少しずつ増えているのもまた事実。)

EUからアメリカには、日本人は入国不可。

アメリカの水際対策の一環で、現在アメリカのパスポート保持者以外は基本的にスイス及びEUからの入国は不可だ。筆者もジュネーブの空港で止められ、在スイスのアメリカ大使館に急遽申請し、記者特例で最終的にはアメリカに再入国できたが、特例申請に少し時間がかかり、乗る予定だった飛行機の便を逃すなどのすったもんだがあった。

またパリから出発の際にも再度「入国特例書類」を念入りに確認され、アメリカに到着後も別室で再確認される徹底ぶりだった。(当の入国審査官は、首脳会談自体がどうだったかと、そちらの方が気になっているようだったが!)

一方、日本からは現在、米渡航が許可されている。これらの情報は感染状況によって刻一刻と変化していくので、注意が必要だ。

210701_05.jpgパリのシャルル・ド・ゴール国際空港にて。ここでもダブルで入国特例書類とPCR陰性結果の書類のチェックという厳重ぶり。私のような日本人は見かけなかった。

photography & text: Kasumi Abe

在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2002年に活動拠点をニューヨークへ。07年より出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイトで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。

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