子どもの自己肯定感を高める、意外なアイテムと深い理由。

Culture 2021.07.07

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

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写真はイメージ。photo:iStock

海外ドラマでも、ひょっとしたらお隣のデスクにも家族の写真が飾られている光景を目にしたこと、ありますよね? 日本人からすると「海外っぽい!」「おしゃれ!」な感じの映えインテリアの一部になっているほど。でも実は、子どもの自己肯定感に関わる深い理由があるのです。

アメリカ人には家族や子どもの写真を立派な額に入れて家中に飾る習慣があります。家の中に留まらず、オフィスの机の上にも卓上額縁に入れた家族写真を飾っておくのは当たり前。家族の写真を飾っていないと、家族関係に何か問題があるのでは?と変な目で見られるのがアメリカ社会です。

この習慣は西洋だけかと思いきや、韓国でも写真スタジオで家族写真を撮り、額縁に入れて飾る習慣が定着してきているようです。家族写真は家族の歴史や親子の絆を目に見える形で表現できることから、子どもの自己肯定感を高める効果があることが多くの研究によって分かってきています。

家に写真を飾ると子どもの自己肯定感が向上する

カナダの心理学者で写真療法(フォトセラピー)の第一人者であるジュディ・ワイザー博士(Judy Weiser)は「家族写真を飾ることで、子どもは、自分が誰で、どこに属しているのかを認識できる」と言います。幸せそうな家族写真を目にする度に、子どもは「自分はこの家族の一員である」と実感できます。この心理的な帰属感が子どもの自己形成に重要な役割を果たすそうです。

米国の心理学者デビッド・クラウス博士(David A. Krauss)は、家族写真の効果について次のように述べています。「家族写真を飾ることで『あなたはこの家族にとって大切な存在です』ですというメッセージを子どもに伝えることができます。家族写真は親から愛され、受け入れられていること、そして家庭が安全で安心できる場所であることを子どもに知らせることができます」

東京理科大学の篠原菊紀教授と東京学芸大学の岩立京子教授の共同研究によって、子どもの写真を飾っている家庭の子どもは「自分は親から大切にされている」「自分には良いところがある」「いまの自分が好きだ」「自分には人と同じくらいの能力がある」と答えた割合が、写真を飾っていない家庭の子どもよりも高いことが分かりました。

また同研究で普段写真を飾っていない家庭に3週間子どもの写真を飾ってもらい、その前後の意識変化について調査した所、「自分自身に満足している」と答えた割合が、写真を飾る前の「65%」から、写真を飾った後では「90%」に向上しました。

さらに同研究では「写真を飾る体験」をした小学生と、体験していない小学生の脳の活動を測定しました。その結果「写真を飾る体験」をした子どもは、自分の写真を見た時に「心地良い」と感じる脳の部位が活性化すること、すなわち自己肯定感が高まることが分かったのです。

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寝室に飾ると効果的。

最近はスマートフォンやデジカメで子どもの写真を撮り、そのままデジタルディバイスに保存しておくことが一般的になりましたが、子どもの自己肯定感を高めるという意味では、写真を大きくプリントアウトして、子どもの目に入る場所に飾ることでより大きな効果が期待できそうです。

前述のデビッド・クラウス博士は言います。「子どもがデバイスの電源を入れたり、コンピューターをクリックしたりしなくても、家族写真を家に飾ることで、毎日それを見ることができます。この経験によって、家庭が安全で安心できる場所であること、自分が大切な存在であることを視覚から確信できる」

米国の児童心理療法士ステファニー・マーストン博士(Stephanie Marston)は、子どものベッドのそば(寝室)に写真を2枚飾ることを提案しています。ひとつは、子どもが自転車に乗ったり、ソフトボールをするなどの活動に従事している姿。もうひとつは、家族の一体感を示す写真です。

この理由についてマーストン博士は「就寝直前の30分間は、子どもが他のどの時間よりも受容的で、耳を傾け、吸収する時間」と述べています。子どもが能力を発揮して輝いている姿、家族が幸せに過ごしている姿を寝室に飾ることで、無意識のうちに、自分や家族に対する肯定的なイメージを「強く」印象づけることが可能になるのです。

また前述のワイザー博士は、家族アルバムを作り、家族の歴史やつながりを子どもと共有する活動を勧めています。親子で家族アルバムを眺めながら、その写真のどんな部分が好きか、どんな部分が嫌いか、どんな気持ちになるかという感情を共有することで、親子の絆を強めることができるということです。
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家の目立つ場所に子どものアート作品を飾る。

家族写真に加えて、子どもの絵やアート作品を家の目立つところに飾ることでも、自己肯定感を高めることができます。上手に描けた絵を額縁に入れて、人目につく場所に飾ってあげると、それを見た子どもは「自分は大切にされている」「自分には価値がある」という気持ちになるのです。

この方法の良いところは、作品を目にする度に、自分の努力の過程や達成を再確認できることです。「この絵は上手に描けたな」「これはがんばって作ったな」と、過去の成功体験を思い出すことができ、それが自信の強化へとつながっていきます。

また家の目立つ場所に子どもの作品を飾っておくと、家を訪れた友人や親戚などから「◯◯ちゃんは本当に絵が上手ね!」「◯◯ちゃんはアートの才能があるね!」とほめてもらえます。親以外の大人からほめられると、子どもの自信は倍増します。最初は(こっそり)祖父母や親戚に作品をほめてもらえるように頼んでおくとよいでしょう。

人からほめられると子どもの自信が大きくなり、「もっと上手に描きたい」「もっとすごい作品を作りたい」という意欲が生まれます。この気持ちが原動力となって、さらに高い目標に向かって自発的な努力を継続できる資質が身についていきます。

子どもの写真や作品を飾る時は「額縁に入れる」と見栄えがグンと良くなり、親の「愛している」「大切にしている」メッセージを、より効果的に子どもに伝えることができます。

新型コロナウィルスによって子どもたちが家庭で過ごす時間が増えました。家の目立つ場所に子どもの写真や作品を飾ることで、無意識のうちに親の愛情をインプットすることができます。子どもの自己肯定感を向上させる簡単な子育ての知恵ですから、ぜひ取り入れてみてください。

船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

 

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text: Toru Funatsu

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