【立田敦子のカンヌ映画祭】審査委員長スパイク・リーが、なんとミステイク!

Culture 2021.07.20

フランス時間の7月17日にカンヌ国際映画祭のクロージングセレモニーが開催され、コンペティション部門の受賞者が発表された。

プレスは、メイン会場「リュミエール」の隣にある「ドビッシー」という大型のスクリーニング会場にて大画面で閉会式を見ることができるのだが、数年前からWi-Fiが飛んでいるプレスコンフェレンスルームのモニターで見ることに決めている。19時からのセレモニーの前に、18時からレッドカーペットが始まる。そこに登場する顔ぶれで、一喜一憂しながら受賞者を予想するのが通例だ。

なんらかの賞を受賞する人には、あらかじめセレモニーに出席するように連絡がある。すでに帰国していたり、パリに移っている人には前日に、カンヌに残っている人には当日の午前中に連絡が来るという。どんな賞を受賞するかは伝えられないので、皆ドキドキしながらレッドカーペットを歩くわけだ。

今年のセレモニーには、ちょっとしたハプニングがあった。通常、脚本賞や俳優賞など個人賞から発表され、最後に最高作品賞であるパルムドールが発表されるのだが、審査員長のスパイク・リーがのっけから「パルムドールは『チタン』……」とうっかり口走ってしまったのだ。
これにはMCを務めていた女優のドリア・ティリエも大慌て! 審査員メンバーの俳優タハール・ラヒムとともにスパイク・リーに駆け寄って、なんとか状況を立て直した。「“ファーストプライズ=最初の賞”を発表して下さい」というMCの言葉を「いちばん上の賞」と勘違いしたと思われるが、最高賞の発表は授賞式のトリが恒例で、冒頭から発表されることなんてまずない。段取り確認がうまくいっていなかったのか、社会派の大監督が実は“天然”なのかは定かでないが、予期せぬ珍事件に会場は笑いに包まれた。さらに、これを受けて、業界誌「バラエティ」が、パルムドールは『Titane』であるとオンラインで速報を流してしまったのだ。

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閉会式に登場したスパイク・リー。ルイ・ヴィトンのカスタムスーツとシャツを着用。©LOUIS VUITTON

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下馬評で評価が高かったのは、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』と、『ブンミおじさんの森』(2010年)ですでにパルムドールを受賞しているタイのアーティストで映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンがティルダ・スウィントンを主演にコロンビアで撮った『Memoria』、オープニングを飾ったフランスの天才監督レオス・カラックスの『Anette』。これらの作品がパルムドールの有力候補と思われていただけに、ジャーナリストたちの間にもざわめきが起こった。

『Titane』は、映画『RAW〜少女のめざめ〜』(16年)で鮮烈なデビューを果たしたフランスの若手監督ジュリア・デュクルノ―の長編第2作である。交通事故で脳に怪我を負いチタン(金属)を埋め込まれたアレックスは、チタンに愛着を覚え、両親と距離をおき、凶暴さを全開にしていく。殺人を繰り返すようになるアレックスだが、ある中年男性の10年前に疾走したという息子になりすまし、奇妙な共同生活を始めるというものだ。前作『RAW〜少女のめざめ〜』では、カニバリズムをモチーフにベジタリアンの少女が自らの内なる欲望に目覚めていく様子を描いたが、本作の過激さは衝撃度ともに前作を上回る。

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パルムドールを受賞したジュリア・デュクルノ―監督の『Titan』©Carole Bethuel

前作で国際批評家連盟賞を受賞したデュクルノ―は、本作で初のコンペ選出にして最高賞の受賞である。女性としては、『ピアノ・レッスン』(1993年)で受賞したオーストラリアのジェーン・カンピオン以来、史上ふたり目のパルムドール受賞者となった。

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女性として史上ふたり目のパルムドール受賞者となっジュリア・デュクルノ―監督。©Philippe Quaisse

昨年、コロナ禍により開催を断念したカンヌ国際映画祭。今年は、復活の狼煙を揚げるメモリアルイヤーとしてさまざまな企画をしてきたが、授賞式のハプニングにデュクルノ―の受賞と、忘れられない歴史的な年となった。

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●受賞作リスト

パルムドール賞 
『Titane』(原題)ジュリア・デュクルノ―監督(フランス)

グランプリ(2作品) 
『A Hero』(英題)アスガ―・ファルハディ監督(イラン)
『Compartment No.6』(英題)ユホ・クオスマネン監督(フィンランド)

監督賞
レオス・カラックス監督(フランス)『Annette』(原題)

脚本賞
濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』

女優賞
レナーテ・ラインスヴェ(ノルウェー)『The Worst Person in the world』(英題)ヨアキム・トリアー監督

男優賞
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(アメリカ)『Nitram』(原題)ジャスティン・カーゼル監督

審査員賞(2作品)
『Ahed’s Knee』(英題) ナダウ・ラピド監督(イスラエル)
『Memoria』(原題) アピチャッポン・ウィーラセタクン監督(タイ)

text:Atsuko Tatsuta

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