詩的な表現で魅了するミルチャ・カントルの日本初個展。

Culture 2018.05.10

詩的な表現に浮かび上がる、目に見えない透明な力。

『あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展』

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『風はあなた?』  2018年。
呼吸を分かつもの2018年。

雲の上の天国のような場所で、白い砂を掃き清め、終わりのない無言の行を続ける女性たち。1977年ルーマニアに生まれ、パリで活動するミルチャ・カントルの代表作だ。日本でもヨコハマトリエンナーレ2011に出展され、透明な質感の映像がゆったりと空気を攪かくはん拌する時間体験が、多くの人を陶然とさせた。幼い子どもまでがフリーズしたまま、瞬きもせずに魅入られていた光景が忘れられない。

白い空間に放たれた狼と鹿の不自然で危うい緊張関係を捉えた映像作品『Deeparture』でデビュー。指の跡で描かれた有刺鉄線。空き缶で形づくられた薔薇窓。「ボク、世界を救わないことに決めたんだよ!」と無邪気に宣言する天使のような少年の映像作品。彼は常にその詩的で端正な表現のディテールに、二重構造のレイヤーを潜ませ、世界の複雑さや不確かさを鋭利に浮かび上がらせてきた。

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今回が日本初となる個展では、2003年にアルバニアで撮影された作品に連なる新作映像と、数十本のアルミニウムの鐘とガラスの屏風を組み合わせたインスタレーションが、透明のガラスブロックに囲まれた空間で展示される。東京のさまざまな場所で、透明なプラカードを手に「透明な主張」を掲げる群集が行進するこの映像作品は、折しも官邸前で抗議デモが繰り返される現在の日本で、権力や圧力、良識といった見えない力によって無意識に縛られ動かされている、個人の存在について問いを投げかける。そして微かに響き合う鐘の音が空間に透明な波動を生み出し、目に見えないものを共有することのデリケートさや危うさを示唆するだろう。

『風はあなた?』 2018年。
『呼吸を分かつもの』2018年。

『風はあなた?』 2018年。
『呼吸を分かつもの』2018年。

『呼吸を分かつもの』2018年。

『あなたの存在に対する形容詞』2018年。

『あなたの存在に対する形容詞』2018年。

『あなたの存在に対する形容詞』2018年。

『あなたの存在に対する形容詞 ミルチャ・カントル展』
会期:開催中~7/22
銀座メゾンエルメスフォーラム(東京・銀座)
11時~20時(日は~19時)
不定休
入場無料

●問い合わせ先:
tel:03-3569-3300
www.hermes.com

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*『フィガロジャポン』2018年6月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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