大胆不敵なソフィ・カルの作品が原美術館にやってくる。

Culture 2019.01.03

自身をさらけ出し、観者をも裸にする魔術師の手腕。

『ソフィ カル―限局性激痛』 原美術館コレクションより

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写真上、下:『ソフィ カル―限局性激痛』1984-2003年より。思い出の品々は、15年間封印されているとか。メモや地図、あってはいけないホテルの鍵も。

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「限局性激痛」とは、身体の部位の狭い範囲を襲う鋭い痛みを意味する医学用語である。フランスを代表するアーティスト、ソフィ・カルが1999年に発表した本作は、彼女自身の失恋体験の“イタい”経過を作品化したものだ。最悪の結果を知るまでの日々を、恋人への求愛と呪詛(じゅそ)に満ちた手紙と写真で綴る第1部と、その不幸話を他人に語り、代わりに相手の最も辛い経験を聞くことで心の傷を癒やしていく第2部。当時、筆者は作家へのインタビューで、同様に個人的な体験や妄想を根掘り葉掘り聞き出される“魔術”をかけられたものだ。ベルギー製の麻布に端正な刺繍で綴られた悲劇のテキストは、どこか芝居がかっていて怪しさ満点。すでにこの時点で、観る者は彼女の術中にはまっている。

 常に自身の人生をさらけ出し、他人の事情に(勝手に)向き合うソフィの作品は、虚実曖昧かつ大胆不敵な物語性を持つ。見ず知らずの他人を招いて、自分のベッドで眠らせる。ヴェネツィアのホテルでメイドになり、宿泊客のプライバシーを盗み取る。偶然拾ったアドレス帳に載っていた人物を尾行する。モラルや法規ギリギリの行為は論争を呼び、現代人の欺瞞に満ちた社会性や個の意識を露わにしてきた。いっぽうで、最後に見た美しい光景を盲人たちに描写してもらうプロジェクトでは、彼女の愛すべき厚かましさが、人の内なる記憶に蓄積された美の拠り所を浮き彫りにした。

 2020年に閉館が決まった原美術館。静謐で親密な空間で、現在地の自分や未来の展望まで告白したくなる、危うい展示になりそうな胸騒ぎがする。

『ソフィ カル―限局性激痛』 原美術館コレクションより
会期:2019/1/5~3/28
原美術館(東京・品川)
営)11時~17時(水は~20時)
休)月(1/14、2/11は開館)、1/15、2/12
一般¥1,100 

●問い合わせ先:
tel:03-3445-0651
www.haramuseum.or.jp

※『フィガロジャポン』2月号より抜粋

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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